第7話 アメリカ―文字通り人生変わった日 前編


「死んだ方がマシ」「死ぬよりマシ」(矛盾してる)

「死にたい」

「死ぬ気でやれ!」

「死ね」

「必死」

 ・・・・よくこんな「死」が使われる言葉を耳にする。

 現代社会において、「死」という言葉があまりにも気軽に使われている。

 かくゆう私も気軽に毎日よく使っていた。


 2023年2月某日までは。



 2023年2月中旬、私は愛しのマイダーリン(ぴっぴ)を訪れ、LAにいた。今回は10日ほどと、短い滞在。

 私はぴっぴと会って、ディズニーに行けさえすればよかったので、出不精な私たちは後半になるにつれ、やることがなくなり、家でゲームをしたり、映画を見たりとダラダラと過ごしていた。加えて、出会ったころ19歳の頃と比べて、体力も性欲も落ちたのか、セックスの回数も減っていたので、本当に本当にダラダラと過ごしていた。


 私の滞在もまもなく終わる頃、せっかくだからどこかに行こうかとLAでのイベントや観光スポットがないかとググっていた。


 ハリウッドやディズニー、グリフィス天文台などいわゆるLAの観光名所は留学中に行ったつもりだし、ビバリーヒルズのような高級な土地は私たちには似合わない。

 車もないので、遠出もできないし、どうしようかなぁ、なにしようかなぁと考えていたところ


「シューティングに行こう!」とぴっぴが言った。


 確かに、銃を撃つことは日本ではできないし、ゾンビ映画やルパン三世が大好きな私にはぴったりじゃないか!と、すぐに賛成して、翌日ガンシューティングに行くことにした。


 日本人のレビューもあり、高評価なガンシューティングのお店を見つけた。値段も二人で10000円以下と、意外とお手頃。そんな気軽に銃が撃てるんだ、とちょっと怖いような気もしたが、観光客にはぴったりだ。


 翌日、銃を撃つために、朝早くからダウンタウンへ。シューティングのお店の近くにあるフードマーケットでタコスを食べて、まずは腹ごしらえ。ペルーのタコスにヤギ肉とヤギチーズのタコスにタコス三昧。フードマーケット割高プライスだったので、値段と満腹とは比例しない。


 出入り口付近でなにやら缶ジュースがたくさん置かれていて、ご自由にお取りくださいと配っているようすだった。といっても、特に配っている人もいないから、勝手に取ってしまったのだが、実は有料だったらどうしよう、とドキドキしながらそそくさとシューティングに向かった。


 本当にこっちであっているかな~と不安になりながら、歩くこと15分。どうやら目的地に着いたようだ。建物の側面にはLos Angels Gun Clubの文字。コンクリート打ちっぱなしのデザイナーズマンション的な無骨な外観。特に銃の音も聞こえないので、本当にここであっているのかと心配になる。


 少しドキドキしながら、ガラス張りの扉を押す。

 お店の中に入ると、ガラッと空気が変わったのが肌で分かった。大きな音でバン!バン!バババババ!!と銃の音が店内には響いていた。そして、ずらっと並べられた多種多様な銃のコレクション。スタッフの腰元にある小型の拳銃。

 今までに感じたことがないタイプの緊張感だった。決して広くはない店内に対して、多いスタッフの数。スタッフはみなガタイのいい男性。髭モジャ率が妙に高い。

 

 ぴっぴと戸惑いながらも、スタッフの一人に案内されて、誓約書を書く。

「アルコール依存ではありません。」

「精神疾患はありません。」

「ここで死んでも店に責任はありません。」

 簡単に言うとそんな内容の誓約書だった。死んでも・・・ってそんな重大なことをこんな紙一枚とサインと拇印だけですませるんかい・・・とツッコミたくなる。

 

 誓約書を提出すると、さっそく銃とのご対面だ。壁一面と宝石屋さんみたいなショーケースいっぱいの銃、銃、銃。

 空港などで警察が携帯しているのはみたことがあるが、こんなに近くで、そしてこんなにいっぺんに様々な種類の銃を見たのは初めてだった。

 

 ピストル、リボルバー、ライフル、ショットガン・・・

 

 映画やゲームで見たことがある銃がたくさん並んでいた。バイオハザードやFortniteではあんなに気軽に拾っては撃ち、弾切れしたら捨てて、また新しい銃を拾って・・・というのを繰り返していたのに、いざ目の前にすると手に取る気にもならないし、自分の知っている銃とは全く別物だということに血の気が引いた。

 

 これはゲームの銃ではないんだ。ゲームで何人も撃ち殺してきたけど、実際に目の前にある銃を手に取り、人に向かって撃てば本当に死ぬ。グリーンハーブもポーションもないし、リトライもできない。


 英語でいろんな説明をされたが、血の気が引きすぎて、なにを言っているかわからない。もうもはや帰りたい気持ちになっていた。ぴっぴもあんなに楽しみにしていたのに、少し顔がこわばって、緊張しているのがひしひしと伝わってきた。


 スタッフが気軽に「じゃあどれにする?一回に持って入れるのは一丁だけだけど、何種類でも試していいよ」と言ってくる。昨日は「ピストル!ライフル!リボルバーもやりたいな!」なんてワクワクしていたのに、もう今となってみれば、どれも手にしたくない。


 「初めてならライフルがおすすめ。ピストルは手持ちだから反動がでかくてちょっと大変。」とアドバイスをもらうが、なんとなく一番銃っぽいのがよかったのと、ライフルがでかすぎて怖かったので、小型のピストル(映画とかにもよくでてくる一番有名なやつ。名前は忘れた。)を選ぶ。

 それから弾をひと箱と紙の的を購入。かわいいピンク色の的を選んだ。ピンクリボンの乳がん防止のキャンペーンの的のようだった。人を殺すための銃で乳がんのキャンペーンって・・・と笑いそうになった。


 「使い方わかる?説明いる?」

 当たり前だろ!と言いたくなるが、ここはアメリカ。この射撃場に来る前に銃を撃ったことがある人も多いのだ。

 スタッフが弾の装填はここに1つずつ押し込んで・・・、撃つときはこういう風に手にもって・・・といろいろ説明してくれるが、説明が早いので私みたいなパッパラパーには全然追いつけない。

 ぴっぴは以前もフロリダでガンシューティングをしたことがあるに加え、そういったメカニック的なものが好きなので、簡単な説明で理解した様だった。


 ピストル、弾、的、ゴーグル、耳栓にイヤーマフを持ってとうとうシューティングブースへ。強化ガラスから中の様子が見えるが、みんな楽しそうに撃っているようだ。

 

 中に入るには二重扉を開けて入らないといけない。さぁ、とうとう入るぞ・・・ドキドキドキ・・・



というところで。後半に続く。





 

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