煙雲

裕福な貴族

二十首連作:煙雲


帰り道 紙に火をつけ息を吸う 煙の臭いと夕時の音


上を向き空を仰げば流れ雲 天に上るは白煙の雲


太陽が陰り始める頃合いに優しい風が頬を撫でる


灰が落ちくゆる煙が目に染みる 目を瞬かせ涙が落ちる


今日もまた思い通りにいかない日 後ろめたさで煙草に逃げた




あの頃は何でも出来ると思ってた 仕事も恋も夢叶う事も


空の下満開に咲く花のように自分の色を出せるだろうと


それが今手元に残った灰色が落ちる姿に涙がこぼれ


曇り空と同じような黒色に肺を腐らせ心も腐り


いつからかそれが自分の習慣になってしまった恐ろしさ




気が付けば辺りもすっかり日が暮れて夜空の星が世界を照らす


手元には小さな火種が赤く燃え じんわり冷える指先を灯す


後悔は無いと言ったら嘘になる 地に足付けて歩んでいる


それでもと夢を見させてくれるのは淡く輝くだいだいの光


息を吸い口からこぼれる煙には空へと上る勇気をもらう




灰が落ち最後の煙が宙を舞う 弱々しくもはかない姿


その様があまりに健気なものだから 思わず手を伸ばしてしまう


てのひらは煙を追って上を向く 指先が掴むは夜空の星


ああそうか 地に足付けて歩んでもホントはいつも夢を見ている


誰だって弱々しくてもいいんだと いつでも上向く それが煙雲けむりぐも

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煙雲 裕福な貴族 @Yu-huku_Kizoku

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