出会い、別れ(5)

「ね、ねぇ…まだ登るのぉ…?」


  部活のない俺と夏菜は毎度の如く、部活動に精を出す生徒たちを校舎に置いて帰路に着く。

  その道中、少し寄り道しようと俺が提案し、目的地への途中の坂を登っている。

  はぁ、はぁと胸を抑えながら、俺の少し下の夏菜は辛そうに見上げる。


「そんな急な坂じゃないんだから疲れないだろ」


「わ、私…体力…ない…」


「無さすぎだろ」


  本当に辛そうに歩みを進める夏菜。

  比喩でも何でもなく、冗談抜きでゆるやかな坂なのだが、夏菜は俺が思っていたよりも体力が無かったらしい。

  そもそも学校の階段ですら、登り切ると少し息を切らす夏菜にはキツイものだったのだろうか。

  それでも、帰りたいと言わないあたり、頑張って俺の寄り道に付き合ってくれようとしているのだろう。


「…しゃーない」


  俺の思いつきで辛そうな目に遭っている夏菜に少し罪悪感を感じた俺は、夏菜の元に寄り、しゃがんで背中を差し出す。


「ほれ」


「…はぁ…はぁ…へ…?」


「背負うから乗れ」


「い、いや、でも…」


「いいから」


「…じゃ、じゃあ…」


  一瞬迷いを見せたが、余程キツかったのか、夏菜は大人しく俺の首に腕を回し、体重を預けた。

  後は俺が夏菜が落ちないように固定して、ゆっくりと立ち上がる。

  …なんかすごい良い匂いするんだけど…。


「そ、その…重くない…?」


「重いに決まってんだろバカ」


「…そういうのって思ってても言わないもんなんじゃないの?」


 そう不満気に呟きながら、俺の髪を二、三本摘んで引っ張る。

  やめなさい。ちょっと痛いでしょうが。


「…まぁ、軽いよ。もうちょっと体重あっても良いと思うわ。というか思ったよりも軽くてビビってる」


  俺がそう言うと、夏菜は両の手で俺の髪を摘んで引っ張り始めた。

  なんで?ねぇなんで?

  頭皮に伝わる少しのチクチクを気にしながら、坂を登ると、数分もしないうちに目的の場所に辿り着いた。


「ほら、着いたぞ」


「え、すご…」


  夏菜を背負いながら上を見上げると、そこには視界いっぱいの桜の花弁が宙を舞っていた。

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この世で見た彼女の笑顔は ひゃるる @hyaruru

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