出会い、別れ(4)

「ヤラセを疑ってもいいレベルだぞ」


指定の教室に入り、指定の席に座り、隣の席の女子に向かって愚痴る。


「まぁまぁ、いいじゃん!知らない人よりマシじゃない?」


「…まぁ、そうだけどさ」


この状況に納得がいかないまま、隣の席のに目を向ける。


「おかしくない?去年の一年間だけなら『まぁ、運が悪かったんだろうな』くらいで済む話だけどさ」


「そんな、私を疫病神みたいに…およよ…」


「…クラス替えで同じクラスになった。まぁわかる。でも、また隣の席同士なのには納得がいかねぇ。」


「でもさ、私の苗字は夏菜で頭文字が『な』で、野桜君の苗字の頭文字は『の』でしょ?出席番号順に並ぶなら不思議じゃないと思うけど…」


「まぁ…そうだけどさぁ…はぁ…」


 これ以上言っても得られるものは何もないだろう。

 そもそもこの問題に関しては、俺が夏菜に何かを言ったところで何か気わるわけではない。というかまず不満だとも思っていない。

  …ちょっと新鮮味はないが。

 そんな事を思っていると、夏菜が不安そうにこちらを見ているのがわかった。


「…そんなに私の隣が嫌…?」


「いや別に?ただ飽きただけ」


「嫌ではないの…?」


「嫌だったらそもそもお前と話なんかしないわ」


  寧ろこちらとしては非常にありがたいです。


「まぁ色々言ったけど、またお前の隣の席で良かったって思ってるよ」


 気になる女子の隣の席とか得でしかないだろ。

 俺は夏菜が好きだ。

 そう自覚したのは最近だったか、それとももっと前だったか。はっきりとした事はわからないが、好きだという気持ちだけは、はっきりしている。

 けど、こっちがその気になっているだけで、夏菜からすれば『仲のいい友人』、良くて『一番仲のいい男友達』くらいの認識だろう。

  その証拠に…。


「そ、そっか…」


  俺のさりげない『あなたを好いてますよー』アピールにも興味を示さずに、そっぽを向いてしまった。

  …まぁ、実際こんなものだろう。

  夏菜は贔屓目に見ても美少女で、明るい性格に話しやすい雰囲気を纏っている。

  だから男子からの人気は凄まじく、告白される事も多々ある。この陽キャめが。

 対して俺は、顔が良くなければ話しかけやすくもない。ど陰キャだ。

 何の因果か知らないが、偶々偶然関わるきっかけができた関係。俺からすれば天使の施し。彼女からすれば、ただの日常の一ページに過ぎない。


  「はぁ…」


  現実を再確認した事による疲れを二酸化炭素と一緒に吐き出す。

 夏菜に彼氏が、もしくは好きな人が出来たらこの不思議な関係も終わってしまうだろう。けど、それでも。


  「諦めるつもりもないけどね」


  そう小さく呟いて夏菜の方を見る。

  フラれようが気まずくなろうが、モヤモヤしたまま終わるつもりはない。いつかは告白する。

  …けど、まだその時じゃない。うん。焦る必要もない。

  だって夏菜が一人の男子と特別仲良くなってるところなんて見た事ないし…大丈夫!まだ大丈夫だから!

  誰に言うわけでもない言い訳を心の中で展開しながら、先生が教室に入って来るまで寝たふりをキメる事にする。

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