出会い、別れ(3)

 そんなこんなで一年が経ち、俺たちは二年生になった。

 この学校は二年生になる時に一度クラス替えがあり、それ以降は三年になってもクラスの面子が変わる事が無い。

 つまり、今回のクラス替えで今後の学校生活が決まると言っても過言ではないのだ。

 できれば仲が良かったやつと一緒のクラスがいい。というかそうであって欲しい。一から関係を構築するのが面倒すぎる。

 そんな事を考えながら、俺は校内の玄関前のの掲示板に貼ってある、クラス替えの張り紙を見る。

 クラスはE組か。知ってるやつは…おぉ、結構居るじゃん。良かったぁ〜…俺生きれるわぁ〜…。

 とりあえず一安心する事ができ、そのまま軽い気分で自分の所属する教室に向かおうとすると、不意に肩を叩かれる感じがしたため、俺は後ろを振り向く。


「やっほ!野桜君!元気してた?」


 相変わらずのキラキラ笑顔の夏菜がいた。

 朝から元気だなこいつ。


「おう、元気だったぞ。じゃな」


 そう言って教室へと続く廊下を気持ち早めに歩く。

 新しいクラスになった時、人が集まってから教室のドアを開けるとどうなるか。答えは『皆一斉にドアの方を見る』だ。

 まぁ、特別おかしな行動をしているわけではない。ただ単純に、俺がその視線に晒されたくないだけだ。どうせ視線を浴びるなら少ない方がいいと思っただけ。ただそれだけだ。


「ちょ、ちょいちょい?!なんでそんなに淡白な反応なのさ?!」


 少し息を切らせながら俺の行く道を塞ぐ夏菜。

 なんでそんなに息切らしてるの?そんなに距離無かったよね?


「うるさいぞ…ほらぁ〜みんなびっくりしてこっち見ちゃってるよ」


「え?!あ…す、すみません…って、え?私が悪いの?」


 どこか納得のいかない表情で俺を見る夏菜。

 まぁそりゃ、大声出したのは貴女ですから。貴女が悪いです。


「じゃ、そゆことで」


「ちょっと!だからなんでさっきからそんな感じなの?!急いでるの?!それとも私の事嫌いになった?!捨てるの?!」


「そんな感じってどんな感じだよ。というか誤解を生みそうな発言はやめなさい。あと制服引っ張るな」


 母さんにアイロン掛けてもらったばっかりなんですけど。皺になったりしたら普通に怒られそうだからやめて。

 とりあえず夏菜の小さい手を制服から引き剥がして、一度向き直る。


「別に自分の教室に向かうだけだから。急いでもないし嫌いになったわけでもないから。わかった?」


「あ、うん…それならよかった」


「じゃ、そゆことで」


「ねぇ〜〜!!」


「だからうるさいって」


 早く教室に入ってゆっくりしたいのだが、一体なんだと言うのだ。要件があるのなら早めに言っていただきたい。


「なんで同じクラスなのに別々に行こうとするのさ!」


「去年の話だろ!二年になってクラス替えあるのわかってるだろ?!」


「だから!今年も同じクラスなの!」


「うっそだぁ〜?」


「…ん!」


 俺の言い方が気に障ったのか、夏菜は少しムッとしながら玄関前の掲示板を指差した。

 なるほど、見てみろと?

 よかろう、そこまで言うのなら見てやろうじゃないか。

 これで無かったら帰りにポテト買わせてやる。

 そう無駄に決意を固めながら来た道を戻り、もう一度掲示板の前まで戻って来た。

 未だにムッとした表情で後ろから視線を送って来る夏菜に居心地の悪さを覚えながら、俺はE組のクラスのやつの名前を一人一人確認する。

 そして十数人の確認を終えたあたりで、見覚えのある名前が確認できた。


 夏菜咲々良。


「わぁお…」


「ね?嘘じゃ無かったでしょ?」


「やっぱ無ぇじゃん」


「今さっきの『わぁお…』はなんだったの?!」


 確かに『夏菜咲々良』の名前はあった。俺と同じE組の欄にその名前はあった。

 いや、おかしいやろがい。

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