ぶっ殺すぞ!

京国芹佳

第1話

 繁華街を抜け、道は静けさを取り戻した。僕の所属するミステリーサークルは大学内でも割と名前が浸透している、大規模のサークルだ。

 今日は新入生歓迎会。江の島の近くに集まって、僕らは飲み会をしていた。


「すみません、そろそろ帰りませんか」

「おいおい今年の一年は連れないねぇ。ここからが本番だっていうのに。そうだよなタクミ!」


「おう、当たり前だろ。俺が一年の頃は朝まで海岸沿いで阿波踊りしたぜぇ」

「ギャハハ。なんだそれ。」

 

 ここであまり酔っていない女子たちが会話に参加し始める

「でも、未成年の子もいるし時間も時間だよ。」

「帰らせほうがいいよ」


 女子から諭された酔っぱらいは不思議そうな顔をしてからにんまりと気色の悪い口角で笑った。

「じゃあ、帰るか?ジェイソンハウスになぁ!」

「はあぁ。」一同は大きくため息を吐いた。



 ジェイソンハウスというのは巷で有名になっている肝試しスポットのことで、『ジェイソン』はもちろん例の『13日の金曜日』からとられている。

 その噂と言うのが夜になると海岸沿いの13番倉庫で、チェンソーをふかす音と男の叫び声が聞こえんたんだとか。13番という数字も相まって、いつしかその倉庫はジェイソンハウスと呼ばれていた。


「うわ、ジェイソンハウスとか久しぶりに聞いた」

「ここはさぁ、ミステリーサークルとして、ジェイソンハウスの謎を解き明かすべきなんじゃねえのかあ。」

 男が周りに問いかけるが、特に誰も反応しようとしない。



「ねぇ、やめようよ。ほんとに殺人鬼がいたらどうするの?」

 後ろから女子がそう声をかけた。

「は?貧乳は黙ってろよ。ビビってんならお前だけ帰っていいぜ。」

「おい、それは無いだろ。謝れよ」

 女子の横にいた男子が声を荒げた。


「デブが喋んじゃねえ、皮脂が飛ぶだろ。」

 

 さすがに言いすぎだ。ここはひとつお灸を据えなければ。

 僕は男の肩をトントンと叩いた。

「すみません。頭にゴミついてますよ。」

「あ?え、ほんとか?」 

 男があるはずもないゴミを探し始めたので、すかさず「僕が取りましょうか。」と言った。

 男は少し渋るような顔をしてから「じゃあ、頼むわ。」と一言、言った。

 周りの人間は不思議そうにこちらを見ている。

 男が頭をこちらに向けてきたので、俺はパーカーのポケットの奥に詰まっていた埃と砂の塊を握り、頭の上でばれない様に散乱させてから手で払った。

 頭からありえない量の埃が落ちて止まらない様は見事に無様だった。

「おお、そんなにか。」

「まだ、ありますね。」

「もう、いい!触んなよ。」

 男は恥ずかしそうに早歩きで歩いて行った。どこからかクスクスと笑い声が聞こえた。


 その後、さすがに男が孤立して惨めなのを気の毒に思ったのか誰かがフォローするように「肝試しもいいんじゃないか?」と言ったので、男は元気を取り戻した。

 酒が回って知能が低くなっているんだろう。



「お前ら、ビビってんのか。みんなで肝試し行こうぜ。」

 先ほどのことはすっかりと忘れ、興奮状態だ。

「はあ、何かあってもしらないぞ。」

「わかってるよ。それにつぎの部誌の話題にもなるし、いいだろ。」


 しばらく沈黙がながれる。

「はい!決定。これから私たちはジェイソンハウスの謎を解き明かしに行きます!」

 一番、陽の気がある三年生がそう大きな声で言った。


「え、ジェイソンハウスってなに?」

「肝試しすんのー」

「親に一回連絡しなきゃ」

 会話を聞いていなかった後ろの一年生たちかザワザワと騒いだが、結局自宅に帰る者は一人しかいなかった。

 こうして僕たちはジェイソンハウスに肝試しで侵入することになった。

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