Q4 『アンサー』は誰? 7


 ここはどこだろう。自分が死んだのは覚えている。死後の世界なんてものは信じていなかったが、ここがそうだとすればいささかキレイすぎる。

 真っ暗な空間を、いくつもの光の帯が脇をながれていき、目を凝らすとそれが僕の記憶だとわかる。300回以上ループしたぶんの記憶だ。


「やあ、Aくん。来たね」


 僕の前に、Qが立っていた。スポットライトに照らされたように、そこだけが少し明るくなっている。


「……これは何なの?」

「これは『ループ』が見せる映像さ。ボクはキミを今回の『ループ』の対象に選んだんだからね」


 Qは相変わらず、なんでもないような調子で言った。

「言ったでしょ?キミならボクが解けなかった謎が、解けるかもしれないって。だから、ボクのかわりにループしてもらうことにした。ボクはループの記憶を全て失うけど、まあ、ふりだしに戻るだけだからね」

 

 僕がQの代わりにループするということは、逆に言えばQはループしないということだ。自分から死を選んでまで、僕に謎を託したのだ。

 今、僕は全ての記憶を『思い出して』、最初の状態に戻る。はじめてQと同じ視座に立つ。もしこの場に1人だったら、これほど孤独なことはないだろう。何回も死んで、何回もやり直して、それを自分だけが覚えているなんて。そして、それがバレてもいけないのだ。

 今ならわかる。僕は『リメンバー』を使って記憶を操作し、他のループのことを思い出さないようにしていたんだろう。その上で、自分自身に『アンサー』だと本気で信じ込ませることで、他人も欺くことに成功した。

 だが、今回は違う。僕は全てを背負って、Qが託した最後のループに挑む。


「……解けそうかい?」

「ああ」

 僕はうなずいた。

「アテはある。必ず、全員で生還してみせる」

「頼もしいね。じゃあ、何も覚えていないボクによろしく」


 そうして、Qはあの時と同じようにひらひら手を振って、僕といれちがいの方向に歩いていった。スポットライトが彼を追うことはない。

 僕は歩き出す。記憶の奔流を遡って、この理不尽なデスゲームの始まりまで。


――


「あ、起きた」

 よく知る声が頭上から聞こえて、僕は顔を上げた。ミラだ。さっき僕と同時に頭を爆発させて死んだはずのミラが、僕の顔を覗き込んでいる。

 周囲はざわついていて、沢山の参加者がいる。マイカも、警察の人たちも、デメキンや大山もいる。危うくでそうになった涙をこらえ、僕は早速行動を開始する。


「ミラ、僕に『テレパス』を繋いでくれ」

「え!?なんでそれ知ってんの!?」

「いいから早くっ!」

 戸惑うミラに『テレパス』の回線をつながせ、僕は前のループで何が起こったかを、一気に映像で伝えた。彼女をかばってサクラが死ぬところも、彼女が最後どうなるかも、全部。

(うっ、これっ、えっ……)

(声を出さないで。整理が追いつかないかもしれないけど、僕らはこのままだとこうなる)

(なんでっ……なんでこんなことに?!)

(それを今から解く。だから、協力してくれ)

 『テレパス』で伝わってくる内容でウソはつけない。ウソをついていることまで伝わるからだ。彼女がそのことをすでに知っていたかどうかは不明だが、とにかく頷いた。

「あたし、何すればいい?」

「ミラをかばってくれた女性……大門さんと、乾さんたちにも協力を依頼してほしい。この後すぐ、ルールの説明が始まる。時間がないんだ。これを伝えれば、きっと協力してくれる……そしてこう伝えてほしい」

 僕はミラに、彼らに頼みたいことと、乾のスマホの解除コードを教えた。サクラと乾の関係性を示す証拠であり、僕らが普通持ち得ない情報を教えれば、使命感の強い警察の人たちは協力してくれるに違いない。ミラはもう一度頷いて、参加者の中から長身のサクラを探して、駆け出した。

 僕はそれを少しだけ見送って、空間の前方を見据えた。

(ここだ。ここに……全てを終わらせるカギがあるはず)


 今までのループの記憶。クイズには様々な、本当に様々な展開があった。出される問題と、それぞれに与えられた『異能力』と、最終的にクイズ力でQが勝ち残る(であろうこと。最後まで僕が生きていなかったのでわからないが)のは固定だったが、それでも毎回違う展開になっていた。僕だってそうだ。


 ミラとマイカと協力して最後まで進めた前回のようなループもあれば、仲間割れして早々に死んでしまったループもあった。

 ラウンド1でQと対決して即死したループもあった。

 ミラがすぐに死んでしまって、僕が1人で最後まで戦い続けたループもあった。

 マイカと協力し、ミラと敵対したループもあった。

 リリとララ、そして尾辻と互いに励まし合いながら乗り越えようとしたループもあった。

 警察の人たちと協力し、最後まで作戦を進めようとしたループも。

 デメキンと協力して、脱出できたらいっしょに動画を撮ろうと約束したループも。

 

 どんな展開をたどっても、結果は同じ。なら、クイズが始まる前のここにこそ、謎を解くカギがあるはず。


 そして、見据えた先の空間に、扉のようなものができて、そこからオラクルが現れ……


「            」



 何重にも重なった機械音のような声。それが耳に入った瞬間。


「っづあ!!!!」


 僕は頭を抱えて倒れる。2度めでも耐えられない。ミラもマイカも、周りの人全員がそうしているのが見える。


 頭が爆発しそうになる。脳が強制的に、音声の意味を分からされていく。脳が悲鳴を上げる。


【我々はオラクル。このメッセージは超高圧縮言語プロトコルにより、有機生命の脳に直接情報を送信するものです。あなたがた人類の脳には少し負担かもしれませんが、テストの効率化のため、ご協力ください】

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