Q4 『アンサー』は誰? 6
5問が終わった時点で、僕が3問、Qが2問。なんとか1問リードしているが、それをQが許すはずもなく。
【問題。6,28,よんひゃ】
「……完全数」
これで3-3。残り4問だ。
どれだけ勝ち残っても、最終的には死んでしまう。Qはそれを『ループ』で何度も体験しつづけていた。そんなQが、自分を超えて、謎を解けという。
ならば僕は、全力で答えないといけない。この後に何が起こるのか、それを防ぐ方法を考えなければ。
【問題。塩漬けされた唐辛子を雪の上に】
僕はボタンを押す。「唐辛子」「雪の上」、どちらも特徴的な単語だ。だから答えられると思った。だが、点灯していたのはQのボタンだった。
「……かんずり」
正解の音。
「うん、今のは惜しかったよ。悔しいだろ?」
「ああ、悔しい。次は負けない」
今まで答えを知っていた時も、わかるであろう場所で押すということに変わりはなかった。ただ、感覚は全く違っている。もっと速く。もっと的確に。僕はボタンを押す指に力をこめる。
【問題。2023年の第95回アカデミー賞で】
まだだ。
【歌曲賞を受賞した、】
まだわからない。曲名か作曲家か作品名か……。
【映画『R】
ここだ!
僕はボタンを叩く。点灯した!
答えは『ナートゥ・ナートゥ』……のはずだ。作品名は読まれた。作曲家は……知らない。でも、そこまで難しいことは聞いてこないはずだ。僕はひとつ息をついてから答える。
「『ナートゥ・ナートゥ』」
正解音が響いた。よし。これでまた並んだ。4-4で、残り2問。Qと延長戦になっては、明らかに分が悪い。ここで決めなければ。
【問題。童話『シンデレラ』で、魔法で馬車に変わるのは】
読み方で、これは「ですが」問題だと思った。これ以上聞かれたら、絶対にQは押してくる。今しかない。
ピコーン!
僕はボタンを押す。点灯したのを確認、問題文の予想にかかる。
【馬車に変わるのはカボチャですが、Xに変わるのは何?】これが問題だろう。シンデレラ……ガラスの靴、カボチャの馬車は知っている。他に何が……。
『思い出せ』。どこかで読んだ記憶ぐらいはあるはずだ。『思い出せ』!
「マイカ、そういう服ってどこで買ってるの?」
どこかのループで、僕はマイカと話していた。久しぶりに彼女の顔を思い出して、少し胸が苦しくなった。
「ああ、これ、通販で買ってます。マイスってブランドのサイトで」
「……鼠?」
「はい。女の子はシンデレラで、自分たちの服は女の子を舞踏会まで送る、カボチャの馬車の御者、みたいな意味らしくて」
【馬車に変わるのはカボチャですが、御者に変わるのは何?】これが問題だ。そして答えは。
「……ネズミ」
正解音。これで5-4だ。あと1問、次をとれば勝ちだ。
「よく押した。よく答えたね」
Qは僕のことを見ないまま言った。僕も彼のことを見ないまま頷く。次で、泣いても笑っても最後の問題だ。
【問題。】
指に力がこもる。
【2019年に本屋大賞を受賞し、】
あ、これは。
【2021年には映画化された】
知っている。ここに来る前に、たまたま読んでいた本だ。
【5人の父と母】
僕は震える指でボタンを押した。
「『そして、バトンは渡された』」
正解。
【ラウンド終了。勝者、芦田エイ】
勝った。僕はQに勝った。
「おめでとう。強かったねえ」
Qは、いままでで一番穏やかな笑顔で、手を叩いて僕をたたえた。
「最後のは、知ってた?」
「ああ、たまたま読んでて。本当に、運だけだった」
「いいや。クイズってそういうものだよ」
そして、僕に向かって軽く手を振ると、回答席を降りていく。
「たまたま昨日覚えたこと、必死に勉強して覚えたこと、全部キミの人生の一部だ。それが肯定されるのがクイズだと、ボクは思うんだよね」
これから死ぬというのに、いつもどおりの飄々とした口調だ。Qは振り返らないまま、歩いていく。自分が死ぬ姿を見せないように、だろうか。
「ああ。何百回もやってきたけど。今回が一番、楽しかったよ」
【敗者、天上キュウ。デスペナルティ】
赤い飛沫が、解答席の陰で、弾けた。
――
もう、会場には僕とミラ、そしてリリしかいない。
Qの言葉によれば、勝ち続けたところで殺されるらしい。何が起こるのか、僕はしっかりと見て……その謎を解かないといけない。
「なんか、静かだな」
ミラはがらんとした空間を見上げてつぶやく。
「もし、3人でクイズになったら、ずっと解答しなければどっちも死ぬことはない。そうなったら、どうなるんだろうな」
「わたしは、2人が残ればそれでいいです。もともと死んでしまっているんだし」
【ラウンド18を開始します】
オラクルのアナウンスが流れた。
次の瞬間。
ピンポーン!
ピンポーン!
ピンポーン!
ピンポーン!
ピンポーン!
「ちょっ、何何何っ!?」
壊れたように正解音が何度も響く。無人の解答席で、ボタンのランプが点灯しつづけている。
「なにっ?なにこれ!」
リリとミラは不気味な現象に怯えている。僕も何が起こっているのかわからないが、おかしなことになっているのは明白だ。周囲を見回しても、変化はボタン以外にはない。
ピンポーン!
ピンポーン!
ピンポーン!
ピンポーン!
「……まずいっ!」
僕は最悪の可能性に思い当たる。そして、能力一覧を見た瞬間、それは確信に変わった。
「数が合わない!参加者は、もう一人いるっ!!」
ピンポーン!
最後の正解音を聞いた瞬間、僕の視界は歪み、暗転した。
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