Q4 『アンサー』は誰? 5


「『ループLoop』によって時間が巻き戻されたとき、ボク以外の参加者は記憶をリセットされる。ボクもクイズの答えなんかは覚えておくことができない。でも、キミは『リメンバー』で、消えたはずの記憶を思い出している。だから、答えを知ることができた」

 Qはこともなげに言った。


 Loop:死亡したとき、クイズをやり直すことができる。


 確かに『ループ』はクイズをやり直せる『異能力』だ。だが、それがまさか、一連のクイズの最初まで戻れる能力だとは。


「……おい、じゃあお前……」

 ここまで黙っていたミラが、おそるおそる口を開いた。


「何度も死んで、何度もこのデスゲームをやってるってことか?」

「うん。ざっと

「マジかよ……」


 絶句するミラ。僕も自分の頭が弾け飛ぶのを想像して……そして、それを300回以上体験することを想像して、気が遠くなった。

 だが、それより気になることがある。今、一対一の状況で僕が『能力指摘』してQを殺せば、僕の勝ちが確定する。それなのにQが自分の『異能力』を明かしたこと。種明かしがどうとか、そういう話じゃない。


「なんで死んでるんだ?勝って脱出できるはずだろ。クイズ王Qなら。脱出できていれば、死んでループすることもない」

「うん、いいところに気がついたね」

 Qは普段と変わらない口ぶりで述べた。


「ボクは毎回必ず最後まで勝ち残る。そして、毎回必ずそこで死ぬ。誰も生還なんてできないんだよね」


 最悪だ。本当に最悪の事実だ。


「は?!何言ってんだお前!じゃあ今までやってきたことも意味なかったってことかよ!?あんなにたくさん人が死んで、それでっ……!」

 ミラが唇を震わせながら叫ぶ。

「キミのその反応を見るのは42回目だね。まあ、落ち着きなよ。何もキミたちをやけっぱちにするためにこんなことを言ったわけじゃあない」

 わざとらしい仕草でミラを制するQ。そのまま、僕の方を向いて続けた。


「まず1つ。このデスゲームはもともと『最終的に全員死ぬ無理ゲー』として作られているわけではない。最初にオラクルから提示されたルールを覚えてる?」


 勝利条件は、クイズで勝ち続けること、及び『異能力』を他人に知られないこと。クイズに負けるか、他の参加者に自分の『異能力』を指摘される、または他の参加者の『異能力』を指摘して間違えた場合は、死ぬこと。

 最後に残った参加者だけが、脱出できること。


「『ディテクティブ』の乾が残した情報によれば、オラクルは嘘をつくことができない。だから、脱出自体はできるようになっているはずなんだ。まあ、それ以外にも根拠はあるんだけど、とにかく脱出自体が不可能にできているわけではない。だから、『なぜボクが毎回死ぬのか』の謎が解ければ、脱出することはできる」


 普段通りの飄々とした口調だが、その奥にあるものは計り知れない。どれだけ勝っても最後には死ぬことがわかっていながら、挑み続け、死に続けたということだからだ。


「そしてもう1つ。ボクは勝ち続け、死に続け、それでもこのデスゲームから脱出するための最後の手がかりが、今までつかめなかった。でも、今のキミなら……ボクにクイズで並べるキミなら、解けるかもしれない。最後の問題が」


 クイズを熟知し、『ループ』で謎に挑み続けたQ。『リメンバー』で今までのループの記憶を思い出せる僕が、Qと同じだけクイズを知ることができれば、何か解決の糸口が見つかるかもしれない。彼はそう言っているのだ。


「Aくん。キミはボクにないものを持っている。今までのループでも、他の参加者と協力して、いつも諦めないで最後まで戦っていた。キミは300回のループの間にクイズを覚え、たくさんの他の参加者とかかわり、ついにボクとガチの勝負ができるところまで来た。ボクはキミとここに立ててうれしいよ」


 本当にうれしいんだ、とQは呟いて、一瞬目を伏せた。が、次の瞬間には、いつものぎらついた目で僕を見て、挑発的に笑っていた。どちらの表情も、僕には見覚えがあった。どこかのループで。


「だけど、ボクに負けるようなら、まだこのループのキミでは不十分ということだ。いつもどおり、また死んで、ループする。何度だってね」


 Qは僕に、指をかけたままのボタンを向ける。


「さ、クイズを続けよう。そして、ボクからキミへのQクエスチョンだ。【キミはボクを超えることができるかな?】……期待してるよ、Aくん」

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