Q4 『アンサー』は誰? 4

「キミが驚かないように、あらかじめ言っておくんだけどね」

 Qは回答席に向かう途中で足を止めて、僕に言った。

「ここからは、キミの『異能力』で答えを知ることはできないよ」

「なんでそんなことがわかる?僕の『異能力』を知っているのか?」

 最初から、Qには目を付けられていた。クイズへの理解も卓越している彼には、『異能力』が見抜かれていてもおかしくはないが。

「まず、答えを知っているのはバレバレだったよ。それが『アンサー』かどうかはともかくね」

 僕がどう返すべきか迷っていると、Qはあっけらかんとした口調で続けた。

「だってキミ、。クイズに答えられてうれしくないなんて、答えをしっていた時でもないとあり得ないよ」

「……そんなことで?命がかかっているんだ、喜んでいる暇なんて」

「そんなこと、じゃない。やっぱりキミには、もう少しクイズをわかってもらう必要があるみたいだね」


【ラウンド17を開始します】


「種明かしの続きは、ボクから3問取れたらしてあげる」


 思えば、Qは全員の『異能力』について感づいているような印象があった。それにどんなからくりがあるというのだろうか。

 僕とQのラウンドが始まる。

 Qが言った通り、答えがわからない。少し心細かったが、そんなことを気にしている時間はない。


【問題。相撲の決まり手のうち、攻め込んだ側が、】

 ピコーン!

 Qのボタンが点灯する。

「……勇み足」

 正解音。おそらく、最後まで聞けばわかった問題だ。知っていた知識だ。

「ふふ、悔しいだろう?どんなクイズでもそうなんだよ。だから、答えられた時は嬉しいものなんだよね」

 Qの言う通りだ。今までの僕の戦いは、どうクイズを切り抜けるかが重要だった。こうして真っ向からクイズに向き合うのは初めてかもしれない。


【問題。『大漁』『こだまでしょうか』『わた】


 ここだ。僕はここで押す。押してから、考えをめぐらせる。

「そう、シンキングタイムを使うんだ」

 Qがにやりと笑うのを横目に見ながら、僕は頭脳を回転させる。

 これは列挙型の問題だ。今までの傾向からして、列挙されるものは後になればなるほど、誰もが知っているものになるはずだ。『こだまでしょうか』は、聞いたことのあるフレーズだ。たしかACのCMで使われていた詩かなにかで……ということは、これは列挙された作品名から作者を問う問題だろう。『わた』から始まる、誰もが知っている詩……教科書か何かに載って――。


「……金子みすず」


 正解音が響く。よかった。正解だ。最後の一つは、『わたしと小鳥とすずと』。作者は、金子みすず。


「いいね!それだよ!」

 Qは心底嬉しそうな顔をした。

 今までクイズをやってきたおかげで、平等な条件になってもQに早押しで勝てる。決して無駄ではなかった。僕は再びボタンに指を置く。


【問題。日本で一番高い山は】

 これは『ですが』問題だ、と思った瞬間。

 ピコーン!

「北岳」

 Qが正解する。早い。

「まだちょっと難しかったかな。クイズを理解すれば、この速度で押せる……ついて来てね?」

 今までで一番楽しそうな顔をしているQだが、手加減する気は全くないらしい。メガネの奥の瞳が鋭く光る。


【問題。『簡単なことも】

 直感で押した。押してから考える。僕が今押したのは、書き出し・歌い出し系の問題だと直感で思ったからだ。

「……『フォニイ』」

 正解だ。思わず、「よし」と口から漏れる。これは、ならないほうが不自然だ。クイズ経験者には、僕が答えを知っているのがバレるのもムリはない。

 

【問題。】

 ここを取ればリードだ。Qの種明かしも聞ける。


【サッカーとラクロス、ひとチ】

 ピコーン!

 解答音が鳴る。押したのは僕だ。まずい、完全に早まった。

 ラクロスのことは全く知らない。何を聞かれているのかもわからない。

 考えろ。考えろ。

 この聞き方は、きっと【AとB、Cなのはどちら?】のような問題だろう。そうすると、聞かれている内容はC,つまり【ひとチ】から始まる文章。……ひとチームか。比べるものは、1チームあたりの人数。これだ。でもわからない。そもそも「多いのはどちら?」なのか「少ないのはどちら?」なのかも不明だし、どちらも見たことが――。


 ある。あった。僕は『思い出す』。ミラが一時期、ラクロス部に入ろうとしていたことがあって、その時僕は試合を見ている。選手の人数は10人いた。

「ちょっと前まで12人でやってたんだけど、ルールが変わったんだってさ」

 ミラがそんな事を言っていたのを、思い出した。だとすれば。


「ラクロス」


 一瞬の間があって、正解の音が響いた。

「よく当てたね。1/2に賭けた?」

「いや……ラクロスの人数が変わったってことを、『思い出した』。サッカーが11人なのはみんな知ってる。だから、以前の状態だったらサッカーが答えになる問題だろうと読んで、逆にした」

「驚いた……やるじゃないか。これで3問だね」

 僕も驚いている。あのクイズ王のQ相手に、僕が1問とはいえリードしているのだから。

「約束通り、種明かしをしよう」

 

 Qは大仰に手を広げて、言った。

「ボクの『異能力』は『ループ』。脱落したときにクイズをやり直せる……そう、

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