Q4 『アンサー』は誰? 3
死体を数えるのは、つらい作業だった。自分がクイズで下した人の死体も、そうでない人の死体もあった。僕とQは部屋に残されたものを、ミラは外で倒れているものの数を数えた。合計で、22体の死体があった。
「だとするとやっぱり合わねえよ。22人死んでたら、23個『異能力』が開いてるはずなんだよな?」
「うん……どういうことなんだろう」
死体の全員に手を合わせ、部屋を出る。幸い、死体が腐ったりすることはないようだ。僕らの腹が減らないのと同じ理屈かもしれない。
「もしかしたら、何かの『異能力』で23個目が伏せられているのかも」
「でも、開いてる中にはそんなのなさそうだしなあ」
ミラと僕が首をひねっていると、
「あの」
小さな声が聞こえた。二荒山リリ。禅寺に双子の姉(ないし妹)を殺された、参加者の1人だ。
「ああ、リリちゃん。どうした?まだ休憩時間終わってないだろ」
ミラは優しげな口調で、腰をかがめて彼女に目線を合わせる。
「あの……そこに、死んだ人がいるんですよね」
「……ああ」
「その中に、尾辻さんって女の人もいましたか?」
初めて聞く名前だ。ミラも知らなかったようで、僕のことを見上げてきたが、僕は首を横に振ってみせる。
「あ、そうですよね、名前じゃ……えっと、ケーキ屋さんの服をきてた人です」
それなら覚えがあった。パティシエのような白い服を着た女性の死体があったはずだ。そのことを伝えると、リリは泣きそうな顔で言った。
「尾辻さんは……リリたちを守ってくれたんです。同じ年ぐらいの子供がいるからって……」
涙声になっているリリの話を聞くと、尾辻は最初のほうのラウンドで、自ら犠牲になることでリリとララを生かしたということだった。死ぬ前に『オーバーライト』まで使って、能力指摘で殺されないようにもしてくれたと。
「でも、最後にお礼も言えないままで……だから、最後にまた会えたらって……」
「……なあA、その人だけどっかに連れてこれないか?」
今にも泣きそうなリリを見て、僕はあの死体の山から尾辻という女性のものを引っ張り出してくることにした。断る理由はない。
禅寺が雑に積み上げていたせいで、尾辻の死体を外に出すのはけっこう大変だった。クイズで負けた他の参加者と同じく、頭の無い死体だったが、それでもふくよかな体や腕から人柄が感じられるようだった。
(もう少し、最初から周囲の人のことを見ておくべきだったかもしれない。誰も、ただ死んでいい人なんていなかったんだから)
思わず『テレパス』に乗ってしまったが、ミラからは何も返ってこない。尾辻の死体にすがって泣くリリを、ミラは涙をこらえながら見ていた。
「ありがとうございます。おかげで、最後にお礼が言えました」
しばらくして、リリは泣き腫らした目で僕らに頭を下げた。
「いいって。ていうか、そんな言い方したらお前も死んじゃうみたいだぞ」
「はい、わたしはもういいんです。ララがいないんですから」
ぎょっとするようなことを言うリリを、ミラが抱きしめる。
「そんなこと言うなっ……!えっと、だな、その……」
「あ、いえ、違うんです、ごめんなさい。先にわたしの『異能力』の話をしないといけないんだった」
どうやら家族を殺されて自暴自棄になったわけではないようで、僕は安心したが、彼女が何を言っているのかわからなかった。
「わたし、ララのみがわりなんです。『
「……?どういうこと?双子じゃなかったのか?」
「わたしの本体……つまり二荒山ララには、双子のおねえちゃんのリリがいます。でも、おねえちゃんはこのクイズには来てないんです。ララは、『異能力』のみがわり……つまりわたしに、リリのつもりになるように言って、双子のふりをしていたんです」
つまり、ここにいるのは『異能力』で作った身代わりで、すでに殺されてしまった二荒山ララのほうが、正しい参加者だった、ということか。
「もちろん、みがわり能力がバレちゃったら、本体のララは死んじゃうんですけど……でも、尾辻さんが『
「クイズでも能力指摘でもない方法で殺されちゃったから、身代わりが機能しないままここまで来てしまった、ってことか……」
「はい……だから、わたしはクイズで勝っても意味ないんです」
リリは力なく笑った。
年端もいかない子供が殺されてしまったのは、本当にひどいことだが、これで死体の数と開示能力の数が合わないことは説明がついた。
僕らは死体の数を1つ多く勘違いしていたのだ。実際にはララは死んでしまっているのだが、『W-cast』の身代わりが生存している状態なので、本体が死んだことによる死亡の置換判定が行われず、システム上は死んでいない扱いになってしまっているのだろう。システム上の死者は21人ということになり、開示されている『異能力』の数とも合う。禅寺という殺人者の存在は、想定されていなかったということだ。
僕はミラにそのことを説明した。でも、ミラはまだ何かひっかかっているようだった。
「んー……だとすると……やっぱり数があわないような……」
【休憩時間を終了します】
思考を遮るように、オラクルのアナウンスが響く。今までただの機械音声だと思っていたこれも、倒せば脱出できる相手の声だと思うと理不尽さが更に強く感じられた。
【解答者は、芦田エイ、天上キュウ】
「やあ、やっと直接対決だね」
僕が振り返ると、個室区画から会場へ向かう廊下に、Qが立っていた。会場からの光を後ろから受けて、細長いシルエットが見える。
「ここまで長かった。長かったよ、本当に……」
かつ、かつ、と大きな歩幅で、Qは僕に近づき、手を差し伸べた。
「クイズの時間だ。いい試合にしよう、Aくん」
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