Q4 『アンサー』は誰? 2


 ずたずたになっていたマイカの手には、しっかりと占った能力が残っていた。


 『リメンバーRemember』。それが僕の本当の能力。「自分の記憶を操作し、経験や知識を正確に引き出すことができる」。これを使えば、例えばずっと前に読んだ本とか、何かのテレビ番組で見ただけの、忘れていた知識を思い出して、クイズに答えることができる。


 僕は一瞬納得しそうになった。でも、これでは説明のつかないことが多すぎる。そもそも、答えを思い出すには問題文が何を聞いているのか分かる必要がある。問題文を聞く前に答えがわかっていたから、僕は自分の能力が『アンサー』だと思ったのだ。聞く前の問題という絶対に知らないものを、思い出せるわけがない。

「どういうことなんだ……?」

 僕は考え込んでしまう前に、マイカの手をもとに戻し、両の手を重ねてあげた。もしかしたら、もう片方の手には、禅寺が占わせたQの『異能力』が書いてあるかもしれなかったが、あえてそれは見ないようにした。


「終わったかい?こっちも収穫があった」


 Qが後ろから声をかけてきた。その手にはスマホが握られている。真っ黒の業務用然としたスマホは、警察の5人が持っていたものだ。

「おそらく禅寺は、このスマホで共有されていた情報から、警察の人たちの『異能力』を指摘していたんだね……今はロックがかかっちゃってて、開けないけど」

 スマホを受け取り、眺めると裏にはテプラで「乾」と貼ってある。


 その瞬間、僕の脳内に、全く知らないはずの記憶が呼び起こされた。


『……Aくん。私にもしものことがあったら、彼女を……サクラを頼む。このスマホには、私の調べた情報が記録されている。……少ないが、脱出に役立ててくれ』


 乾が僕に話しかけている。これは何だ?


「どうしたの、Aくん」

 急にふらいついた僕を、Qが訝しげに見る。

「いや……知ってる、かもしれない。解除コードを……」

 僕の指が、スマホの暗証番号を入力していく。8ケタのそれを打ち込むと、果たしてロックは解除された。


『……彼女の誕生日なんだ。セキュリティ意識が低いと、一度叱られたことがある』


 乾のそんな言葉まで、なぜか「思い出せる」。クイズの答えもそうだ。なぜ知らないはずのことを僕は思い出しているのだろう。


「ふうん……なるほどね」

 Qは僕がロックを解除したことに、特別驚きもしない様子だった。

「じゃあ、中身を見てみようよ。何か分かるかもしれない。少なくとも、警察の人たちは『異能力』の情報は共有していたみたいだから」

 僕はいくつかアプリを立ち上げてみる。大部分はよくわからない専門的なものだったが、そのうちの一つはただのメモ帳で、乾が調べたであろう調査メモが残っていた。


 ◆


 この内容は、『ジャッジ』の郡司から聞き出した情報です。『ディテクティブ』の効果でウソはつけないので、これらの情報は正しいと思って差し支えありません。


 ・参加者は26人です。

 ・ここにいるのは、参加者とオラクルだけです。

 ・『異能力』はオラクルの持つ能力を分けたものです。オラクルはすべての『異能力』が使える生命体で、人外ではなく進化した人間のようです。詳細はわかっていません。

 ・公正なテストのため、オラクルは参加者にウソをつくことはできません。

 ・この空間もオラクルの『異能力』で作られたものです。最後の1人になった時、オラクルは空間を消滅させ、残った1人を開放します。


 主催者であるオラクルを排除できれば、脱出できるようですが、最初の説明以降オラクルは一度も姿を見せないため、他の方法をとる必要がありそうです。


 ◆


「そうか……乾は『ディテクティブ』で、このゲームのルールから脱出方法を探していたのか」

 『ディテクティブ』はクイズ以外の情報であれば正確な情報を提供させることができる。『ジャッジ』がルールを把握できる能力だから、これも一つの相互作用コンボなのかもしれない。

 僕とQが全員に手を合わせてから部屋の外に出ようとすると、ちょうどミラとすれ違いそうになった。

「A、なんかわかったか?」

「うん。マイカが……いろいろ手がかりを残してくれた」

 ミラに情報を共有する。Qに聞かれるとまずいかもしれない部分はテレパスで、僕の『異能力』についても伝えた。

「……すげえな、あいつ。あんなビビりの泣き虫だったのに、土壇場で根性ありすぎだろ」

「うん、本当に……ミラも、マイカのことを見に?」

「ああ。でも、マイカの、っていうよりは、ちょっと違うな」

「どういうこと?」

 僕がミラに聞き返すと、ミラは覚悟を決めたような表情で僕に言った。


「マイカがほんとに死んでたとしたら、やっぱり開いてる『異能力』の数と、死んだ人の数が合わない。だから、もう一回、死体の数を数えなきゃいけねえと思って」




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