Q3 「囲碁で石を打っても陣地が増えない場所」を語源とする、無駄なこと・価値がないことを意味する言葉は何? 10

 僕とQは禅寺をはさむ形で席につく。

「1問も取らせない、だって?ウケるね」

 禅寺は僕とQを交互に見て笑った。

「俺が今までなんで生き残れたと思う?自分で殺し始めたのはちょっと前だぜ。それまでは普通にクイズで勝ってきたんだよ。あそこのガキとつるんでたババアとか、インテリふうのジジイとかも、普通にクイズで倒してきた……そのうえでくだらないっつってんだよ」

「面白い冗談だね。どこが下らないっていうんだ?」

 Qは禅寺のほうを見ずに言った。

「誰かさんが講釈ぶってくれたおかげで、ゲームとしての攻略法みたいなのも全員がわかったし、そしたら結局茶番なんだよ、こんなん。結局知ってるものが出たら解ける、知らなかったら解けない、そんだけだろ」

「仮にキミが、『アンサー』だったとして。それでもボクには勝てないよ。Aくんにもね」

「ふうん……そうかい。じゃ、心底くだらねえけどつきあってやるか。お前らが悔しそうな顔で死ぬのを見るのも悪くない」

 Aくんにも、という発言が気にかかる。僕はいままで通り、『アンサー』だとバレないように戦うだけだ。

 

【問題。手の爪に】

 ピコーン!

「……ペディキュア」

 Qが押して、正解した。速い。禅寺も、一瞬驚いた顔をしていた。

「手の爪に塗る化粧はマニキュアですが、足の爪に塗る化粧は何?答えはペディキュア……知らなかった?」

 口の端を釣り上げて笑うQ。禅寺は答えない。僕は少し胸がすくような気がしたが、負けたら死ぬのは僕も同じであることをすぐに思い出した。ボタンに指をかける。


【問題。『木曽路は】

 これは押せる。そう判断した瞬間指が動いていた。ボタンが点灯する。答えは、

「『夜明け前』」

 正解音。Qがこちらを見て、うなずいたような気がした。

「たまたま知ってる問題が続いてよかったな?」

 禅寺が吐き捨てるように言う。だが、それは違う。この問題が押せたのは、僕が『アンサー』だからではない。


 ようやくわかってきた。クイズというものの、奥にあるものが。

 

【問題。1,1】

「フィボナッチ数列」

 僕が答えれば、

【問題。県の鳥はノグチゲラ、県の花はデ】

「……沖縄県」

 Qも当然のように返す。

 最初は『異能力』か人間離れした『技術』のように思えていたそれも、ここまでのクイズを通して、なんとなくその正体がわかってきた。

「くそ、なんなんだこいつら」

 禅寺がいらだたしげにつぶやき、貧乏ゆすりを始めた。


【問題。1232年】

「御成敗式目」

【問題。固体がちょ】

「……昇華」

【問題。『ドラゴン桜』、『テ】

「……阿部寛さん」

【問題。サッカーで一試合にさ】

「ハットトリック」


 あっという間に僕とQが4問ずつ正解、残り2問になる。

「さて、知ってれば解ける、んじゃなかったっけ?どれもそこまで難しい問題じゃなかった気がするけど」

「うるせえな、勝ち誇るんじゃねえよ」

 禅寺は首をぐるりと回して、低い声で言った。

「あー、もういいや。このラウンド自体無意味なんだし、とっとと終わらせるか」

「……どういうことだ?」

 僕が聞くと、禅寺はにたぁっ、と歯を見せて笑う。

「別に銃がなくたって、お前らはいつでも殺せるんだよ……俺はお前らの『異能力』を知ってるんだからな。

「……!!それは……っ」

 今まで意識の外に追い出していた事実。マイカが姿を見せず、行方を知っているのが禅寺だけということ。こんなヤツの手にかかっていたとしたら、マイカが無事なわけはないのだ。それでも、なんとか逃げおおせたのか、隠れているのかと、心の何処かでその事実を直視できないでいた。

「傑作だったぜ、チーム戦のときに助けてもらった相手を裏切った時の顔……お前にも見せてやりたかった……『能力指摘』だ」

 禅寺は勝ち誇って、僕を指差す。

「ま、クイズ王のQと違って、ただの一般人のはずのお前が強すぎるのは、最初からおかしかったんだよ。うすうす気づいていたが、マイカに占ってもらってはっきりしたぜ」

 

 そして、宣言する。僕を殺すための言葉を述べる。ミラがなんとか止めようと走ってくるのが、スローモーションのように見える。


「芦田エイ。お前が『アンサー』だ」


 ああ、終わった。マイカが裏切ったとは思いたくないが、銃を持っている男に脅されたら仕方ないだろう。残念だ、最後にこんな負け方をするなんて……。

 僕が桔梗たちにしたように、正解音が鳴る。それで終わりだ。



 ブッブー。



「……は!?」

 間の抜けた不正解の音がして、

「おい、待て、なんかの間違いだろ、なんでっ、このクソっ、あああ!!!!」



 禅寺ゼンジロウの頭が、弾けた。



Q3 「囲碁で石を打っても陣地が増えない場所」を語源とする、無駄なこと・価値がないことを意味する言葉は何?

A3 駄目


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