Q3 「囲碁で石を打っても陣地が増えない場所」を語源とする、無駄なこと・価値がないことを意味する言葉は何? 9


【問題。名前に「川」がつく3つの都道府県は、神奈川県、い】

 ピコーン!

 ミラのボタンが点灯する。

(早くない?大丈夫?)

(Aが教えてくれただろ、こういうのの答え方……神奈川県と、「い」から始める石川県と……あー、あとは)

 ぎりぎりまで時間をつかって、ミラはなんとか思い出した。

「……香川県!」

 正解だ。これにはQも感心していた。

「すごいね、けっこう理想的な押し方だ。キミが教えたの?」

「まあ、少し。その後お前が全員にやり方を共有したせいで、あんまり意味はなかったけど」

「そんなことはない。全部必要なことなのさ」

 Qの不可解な言葉は気になるが、もともと不可解なところばかりのやつなので、今更気にしても仕方がないのかもしれない。6問目が終わり、全員が2問正解で並ぶ。

【問題。モモンガ、ウサギ、ハチワレな】

「ちいかわ」

 サクラが正解してそこから1問抜け出せば、

【問題。魚を右身、左身】

「三枚おろし!」

 ミラが取り返し、展開はかなり拮抗している。

(いいぞ!これなら勝てるんじゃないか?)

 ミラから『テレパス』が飛んでくるが、僕はミラの反対側にいる禅寺の反応が気になっていた。8問目で彼は2点、他の2人が3点。次の問題をとらなければ確実に負けるというのに、緊張している様子が一切ない。

【問題。】

 9問目が読み上げられる。

【流れが速く激しいことで知られ、松尾芭蕉の】


 ピコーン!

 回答席のランプが点灯する。押したのは、大門サクラ。

「……最上川」

 正解だ。ミラは悔しそうに地団駄を踏む。

(くっそ!なんでわかるんだよ!)

(『五月雨を集めて早し』ってことか……松尾芭蕉が出た時点で絞られるんだろうな)

(あー、授業もっとマジメに受けときゃよかった……次がラストだから、取らないと負けだ)

 そうだ。次をミラが取ればサクラと同点優勝だが、禅寺が取れば彼と同率最下位だ。


「あー、やっぱメンドいな。クイズとか」


 投げやりな声が聞こえた。最下位の確定した禅寺が、億劫そうに体を伸ばしている。そして、何気なくポケットに手をつっこんで、


「んじゃ、これで」


 取り出したものをミラに向ける。

 それが銃だと一瞬で気づいたのは幸運だった。


「ミラっ!!!伏せろ!!」


 僕はとっさに叫ぶ。


 ダァン!!


 銃声が響く。


「ありゃ、外したか」


 回答席に銃痕ができていた。ミラは突然のことに、動くことができなかったようだ。今も、迫る自動車の前の猫みたいに立ちすくんでいる。


「おいっ!!!何してるんだ!!」

 Qが大声をあげるが、禅寺は全く意に介さない。もう一度ミラを撃とうとする。僕は禅寺を取り押さえようと駆け出すが、間に合わない。

 強烈な光が銃口で弾け、もう一度銃声がした。


 ダァン!!


「うわっ!」

 僕は反射的に目をつぶってしまう。そして、目を開けると――。


「サクラさんっ!!」

 銃を構えた禅寺と、ミラの間。大門サクラが、ミラを被って銃弾を受けていた。

「……ぐっ、ふ……」

 撃たれた腹を抑えながら、サクラは禅寺に近づき、銃を奪い取ろうとする。

「その、銃は、桔梗の……!どこでっ」

「うわ力つよっ」

 その隙をついて、僕は禅寺に思い切りぶつかった。禅寺は軽く吹き飛ばされ、サクラは銃を奪うのに成功する。

「桔梗のっ……私達の銃を、そんなことに使わせ……」

 うわ言のようにつぶやくサクラに、ミラが駆け寄り、必死に傷を抑えようとするが、手が血にまみれるだけだ。

 そんな状況とは関係なく、クイズは進んでいく。


【最終問題です。問題。『ダーティハリー』『エクストリーム・ジョブ』『踊る大捜査線』の主人公に共通する職業は何?】


「ミラさん、押して……答えて。あなたは生き残って」

「な、なんでっ」

 ミラの腕の中で、サクラは力なく微笑む。

「1人でも、守れて……よかった」

 サクラの体を支えたまま、ミラは震える指でボタンを押した。


「警察官」


 正解だ。ラウンドが終わる。


【ラウンド15終了。大門サクラ死亡により、デスペナルティなし】


 誰かが死ぬと、自動的に最下位の扱いになる。それはラウンド中でも変わらないようだった。


「……ははははは!!何もしなければ勝てたのに、バカだなあコイツ!!」

 禅寺は起き上がり、ミラを見下ろす。

「お前……っ!!いい加減にしろよっ!」

 ミラはサクラの体を抱えたまま、涙目で禅寺を睨みつけた。

「いやーこれは笑うしかないって!!警官のあいつだけがワンチャン暴力で俺に勝てるかもしれなかったのに、勝手に死んでくれた!ラッキーすぎる!もうこれで俺は勝ち確定なわけ!ハッピーだなあこれは!やっぱりクイズなんて茶番、知識も技術もクソくらえ!」

 禅寺の狂ったような笑い声が響く中、アナウンスは淡々と次のラウンドを告げる。


【ラウンド16を開始します。参加者は、芦田エイ、天上キュウ、禅寺ゼンジロウ】


「あーハイハイ、やりますやります、不戦敗はヤだからねえ」

 ククク、と笑いをこらえながら回答席に再び向かう禅寺。

(……あたしのことはいい。いってきてくれ、A)

 ミラに声をかけてから向かおうとした僕に、『テレパス』が飛ぶ。口に出さない言葉でさえ、燃えるような怒りが伝わってきた。

(もう銃は持ってないから、何かしてきたときはあたしがサクラさんみたく体張って止める)

(わかった……ムリはしないで)

 僕はうなずいてから、同じように席に向かう。


 大門サクラは、本気でこのふざけたゲームから、僕たちを脱出させようとしていた。結果的に同僚を失っても、その姿勢は変わらず、最後まで諦めずに僕たちの命を守った。再三言っていた言葉の通りに。

 彼女の同僚たちもそうだった。桔梗ユカリは僕と本気でクイズで向き合い、『異能力』のすべてをぶつけて戦った。他の3人も、結果的に暴力に訴えはしたが、このゲームからの脱出に真剣に取り組んでいた。


 その覚悟と思いを嘲るのは、許さない。


「Aくん」

 回答席に歩を進める僕に、Qが並んだ。

「あの禅寺の余裕、銃以外にもまだ何かあると思った方がいい。汀マイカを人質にとっているとか……油断しないでいこう」

 その口調と表情は真剣そのもので、僕は少し驚く。

「ボクの大好きなクイズを、それに挑んだ人間をバカにするのを、ボクは許さないよ」

 Qは長い脚で大股になり、僕を追い抜かして、振り返る。

「行こう、Aくん。ここからはクイズの時間だ」

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