Q3 「囲碁で石を打っても陣地が増えない場所」を語源とする、無駄なこと・価値がないことを意味する言葉は何? 8

◆◆


【ラウンド15。参加者は御巫ミラ、大門サクラ、禅寺ゼンジロウ】


 オラクルのアナウンスが流れる。会場にはたくさんの血の跡と死体、そして疲弊しきった参加者が残っていた。

「……クイズを、やるしかないですね」

 サクラがよろよろと立ち上がり、参加者の手錠を解いていく。警察チームの人数が一気に減ってしまった以上、もうサクラたちの脱出計画は不可能だろう。僕の拘束も開放され、やっと周囲を見ることができた。

 4人もの人が一気に死んでしまったあと、会場には奇妙な静寂が流れていた。

「A!無事か?」

 ミラが僕に駆け寄ってくる。

「うん……でも、マイカは?」

「あっちにもいなかった。まさか死んじまったんじゃ……」

 それは最悪のケースだ。僕は『異能力』の表を見る。


Answer:クイズの答えがわかる。

BAN:指定した参加者の能力を一定時間無効にする。

Counter:他の参加者がボタンを押す行動を予知し、その前にボタンを押すことができる。

Detective:クイズや能力に関する情報以外を、任意に聞き出すことができる。

Erase:クイズの問題文や選択肢の一部を非表示にできる。

Fifty-Fifty:クイズを2択扱いで回答できる。

Genre:問題の出題ジャンルを変更できる。

Holoscope:ラウンドに1回、参加者のうち一人の能力を知ることができる。

Immortal:指摘によって死なない。

Judge:能力の処理やクイズの詳細なルールについて、正確な情報を得ることができる。

Knight:ラウンド不参加時、参加者一人を選び、死亡しないようにできる。

Loop:死亡したとき、クイズをやり直すことができる。

Medium:死んだ参加者の能力がわかる。

Negotiation:ラウンドへの参加やクイズの得点を、交渉により変更できる。

Overwrite:公開されている能力情報のうちひとつを書き換える。

Phone:スマホを持ち込むことができる。

Quarter:クイズをすべて4択にできる。

Remember:自分の記憶を操作し、経験や知識を正確に引き出すことができる。

Stop:ボタンを押した瞬間、60秒間周囲の時間が停止する。

Telepas:条件を満たした相手と、声を出さずに会話をすることができる。


 Phoneまで公開されていたところから、さらに4つが公開されている。そこから死んでしまったのが、ララ・半蔵・乾・平川の4人だから、数が合う。

「大丈夫、まだ死んではいないみたいだ」

「そっか、そっちを見ればよかったのか」

 抜け殻のようになったサクラが、回答席に向かっていく。プランが崩壊しても、クイズは続く。解答しなければ不戦敗になる。『テレパス』の回線を繋いだ状態で、僕はミラを送り出した。

「おーい、よかった、間に合った!」

 そこに、どこかから声が聞こえた。禅寺だ。これでラウンドの解答者は揃った。

「……お前、いままでどこに?」

 僕が聞くと、禅寺は少し迷ってから答えた。

「『異能力』に関わるから言えないけど……警察の人たちが急に暴れ出したから、近くにいたマイカちゃんといっしょに逃げていたんだ」

「! マイカはどこに?」

「今は疲れて寝ちゃってるけど、生きているよ」

 禅寺は回答席に向かっていく。今はそれ以上追求することはできない。生きているのであれば問題ないだろうが……何か胡散臭い。


【ラウンド15を開始します】


 クイズが通常通りに始まるのも、なんだかひどく久しぶりな気がする。

(ミラ、聞こえるね?答えは……)

(A、アタシはできるだけ自力でがんばるよ。なんか……Aに頼ってばかりなのも良くない気がするんだ)

 僕は他の参加者にバレないように、驚いた。

(あんなふうに、ただ殺されて死ぬよりは、ちゃんとゲームで戦って死ぬほうがまだいい。もちろん、死にたくないから頼るときは頼るけど)

 僕がうなずいてみせると、マイカはボタンに指をかけて、問題の読み上げに耳をすませた。同僚が3人も死んだサクラも、気丈に前を見据えている。禅寺は無表情だが、心なしかつまらなそうだ。


【問題。正式名は、きゃろらいんちゃろん】

「きゃりーぱみゅぱみゅ!」

 ミラが押した。僕が答えを教える前に、良いタイミングで。

(よし!)

(ちゃんと押せてる!すごいぞミラ!)

(ダテにAたちがクイズやってるのをずっと見てないからな。この調子でいけば……)

 次の問題が読み上げられる。

【問題。バネに重りを吊り下げた時、重さとバネの伸びが比例】

 ピコーン!ボタンが点灯する。押したのはサクラだ。

「フックの法則」

 正解だ。

「あれ、警察のヒト、俺らを守ってくれるんじゃなかったんですか?なんで普通に答えてるの?」

 禅寺がにやにやしながら、隣の回答席のサクラに言う。サクラは彼のほうを見ないで答える。

「……私は、できるだけ多くの人を守ります。そのためにも、生き残らなければならない。クイズに参加しなければ、私は死に、誰も守れなくなります」

「そのために他の人が死んでもいいってわけ?」

「……」

 サクラは押し黙る。

【問題。3人でじゃんけんをするとき、あ】

「1/3」

 禅寺が難なく押して、正解。三人は1点ずつで並んだ。

 

「やあ、ひどい目にあったね……」

 Qが腰をさすりながら、リリといっしょに僕に近づいてきた。最初は大勢で回答席を見上げていた参加者も、今はこれだけになってしまった。

「彼女、よくやってるよ。ボタンの押し方もサマになってるじゃないか」

 さすがのQもかなり疲弊しているようで、笑い方に力がこもっていない。

「人数的に、次はまたキミと対決かな。楽しみだよ」

 姉か妹を失ったリリの前でそんなことを言うので、僕はQを睨んだ。

「こんな状況になっても、クイズが楽しいとか言っていられるのか?」

「どんな時だって、クイズは楽しいものだよ。ボクからしたら、こんなデスゲームにクイズが使われているということのほうが不可解なくらいにはね」

「……?どういうことだ?」

「……うん、少ししゃべりすぎたな」

 Qは質問に答えず、回答席を見上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る