Q3 「囲碁で石を打っても陣地が増えない場所」を語源とする、無駄なこと・価値がないことを意味する言葉は何? 7
「そうだ、危ない危ない。雑談するたびにお前をわざわざ連れてきたわけじゃないんだよ」
禅寺の手が、動けないマイカの首に伸びる。
「お前、『ホロスコープ』だろ?QとAの『異能力』、俺に教えろよ。あいつらの顔がブッ飛ぶのが見てえんだよ……Aのほうはともかく、Qはぜんぜん『異能力』バレなさそうだし。手で殺してもいいんだけどよ、せっかくだから『能力指摘』で頭ブっ飛ばして殺したい!」
「い、いやだっ!離してっ」
マイカの細い首が締められていく。ぎりぎり呼吸ができ、頚椎が折れないぐらいの圧迫。明らかに慣れている加減の手付きだった。
「うぐううっ」
「これなら喋れるだろ?ほら、次がラウンド13だ。『ホロスコープ』はラウンド1回なんだろ?占えよ……占ったら殺さないでやるからよ」
「ほ、ほんとに!?」
「ああ、死にたくないだろ?協力したらお前は殺さないでやるって言ってんだよ」
「……わ、わかった、やるから、手……手錠」
「あ?」
「占うのに、手を……」
マイカがなんとか声を絞り出すと、禅寺は締め付けをゆるめた。
「あー、そういえばそうだっけ。チーム戦のとき見てたけど、そんな感じの動きしてたもんな……ダルいな」
持ち上がっていたマイカの体が床に落とされる。そして直後、ダンッ!ダンッ!と至近距離で銃声が鳴った。
「ひいっ!!な、銃っ」
「いちいち驚くなよ。あの時お前らが殺した警察の女が持ってたんだよ……ほら、さっさとやれ。次はお前の頭に穴があくぞ?」
ごりっ、とマイカの頭に銃口が押し付けられる。
「やりますっ、やりますからあっ」
マイカは目を閉じ、『異能力』を行使した。対象はA。彼の『異能力』を暴く。
「う、うううう……っ!そんなっ、まさかっ」
Aは恩人だ。Aがいなければ自分はこれまで生き残れていない。そんな彼の『異能力』を教えてしまっていいわけがない。
(でも、怖いよぉ、死にたくないよぉっ!どうすればいいの!……っ!!)
マイカは頭を抱える。大きなリボンのついたカチューシャがぐちゃぐちゃになる。
「うるせえな、さっさと結果を言えよ……」
「ひっ!あ、『アンサー』ですっ!Aさんが『アンサー』だったんですっ、ほらっ!」
マイカが手を開くと、そこには『アンサー』の頭文字――Aが刻まれていた。
「ははははは!やっぱりあいつが『アンサー』だったか!まぁちょっと考えればわかるよなあ、これで確実になった。それに……Aのお陰で生き残れたようなグズが、ひっどい顔しながら裏切るところまで見れたからなあ!」
禅寺は心底嬉しそうに哄笑した。
「やっぱこれだよなあデスゲームっつったら!命を危険にさらされて出る人間の本性!暴力に屈するしかない動物っぷり!なにがクイズだ、クソくらえ!知識も技術も関係ねえ!暴力と裏切りが人間の本質なんだよ!」
死体の山に背中をあずけ、げらげら笑い転げる禅寺。マイカは頭を抱え、震えるしかできない。
【ラウンド13を開始します。参加者は――】
個室にもアナウンスが響く。
「あっははは……もうそんな時間か。はいはい『能力指摘』、乾は……えーっと、『ディテクティブ』。はい爆殺」
スマホを見ながら、禅寺が片手間に『能力指摘』を行う。スマホは警察の……桔梗の死体から奪ったと言っていたから、彼らのメッセージやメモが残っていたのだろう。
ピンポーン!といういつもの正解音とともに、遠くで何かが弾ける音がする。
【ラウンド13。乾イヴァンの死亡により、デスペナルティなし】
「うーん、間近で見れないのは残念だけど、こうして絶対の安全ゾーンから爆殺するのはそれはそれで面白いよなあ。あっちはまさか俺がヤってるとは思わないで混乱してんだろうなあ!」
禅寺はスマホを置き、再びマイカに向き直った。銃口を彼女の眉間に向け、押し付ける。
「次はQを占え。さっさとしろ」
「も、もうやりましたっ!ほら、これっ、Lですっ、『ロック』ですっ」
マイカのもう片方の手には、Lの文字がくっきり刻まれている。
「……は?Lは『ループ』だろうが。何いってんだお前」
「わ、私だってわかんないですよぉ!!でもウソじゃないんですう!!」
マイカはぼろぼろ泣きながら禅寺の足にすがりついた。禅寺はそれを蹴り飛ばすが、なおもマイカはすがりつく。
「ここでウソついてなんになるんですかあ!!ホントなんですっうううっ!!あの表のほうがおかしいんですよぉっ!!」
マイカの言葉に、今にも引き金を引きそうになっていた指が止まった。
「……そうか、『オーバーライト』か……あの能力が表に残ってる事自体おかしいんだ。もし自分が『オーバーライト』だったら、自分の『異能力』を上書きしてまず存在を隠すはず……あー、Qの取り巻きにいたあのババアが……ククク、面白いことが聞けた……」
「そ、そうですっ!これは『ホロスコープ』じゃないとわからなかったことですよねえっ!」
「そうだな、お前のおかげで、油断ブっこいてるQを『能力指摘』で殺せるなんて……!お前のおかげで楽しいことになりそうだなあ!」
禅寺が愉快そうな表情を見せ、銃口をマイカからどける。
(よかった、これで助かる……)
【ラウンド14。参加者は、二荒山ララ、汀マイカ、平川】
「『能力指摘』。平川が『クオーター』」
ついでのように平川が指摘殺される。また正解音と破裂音。
「ひっ!ね、私、助けてくれるんですよねっ!も、戻ってもいいですかっ、あなたに匿ってもらってたって言えばいいですよねっ!」
マイカはひきつった笑顔で禅寺を見上げる。禅寺もにっこりと笑って、
「ウソにきまってんじゃん。バカじゃねえの?」
ダンッ!!
銃声とともに、マイカの胸に銃弾が突き刺さる。
「あ”あああああああっ!!!」
「ぐははははは!!めっちゃウケる!!普通に考えて生かしとく意味ねーだろボケが!!やっぱお前は最後までグズだったな、バカみてーな服きてるだけあるぜ!」
マイカは撃たれた胸をおさえるが、あふれる血が止まるわけもない。銃弾は過たず心臓を貫いていた。
「Aさん……ごめ、なさ……生き残って……」
「バカだろお前!お前が売ったせいで死ぬんだよそいつは!あーホントにオモロいもん見れたわ……やっぱ人が死ぬのを見るのが一番おもしれえな」
すでに血が抜けすぎて痛みすら感じない。遠のく意識の中、最後にマイカは、禅寺が銃をポケットにしまい、個室を出ていくのを見た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます