Q3 「囲碁で石を打っても陣地が増えない場所」を語源とする、無駄なこと・価値がないことを意味する言葉は何? 5

「……サクラ、もう猶予がない。半蔵は『能力指摘』で殺されたんだ。我々の『異能力』がどこからかバレているおそれがある」

 乾が拳銃を持ったまま、僕たち生き残りの参加者の前に戻ってきた。

「そうですね。苦しいですが、皆さんを無力化させてもらいます」

 サクラの声が聞こえるのが早いか、体に衝撃が走る。みぞおちを殴られたようだ。

「やめろっ!てめえっグううっ!」

「悪いな、嬢ちゃん」

 平川が手錠のようなものでミラを拘束する。サクラも僕に同じようにしようとしてきたが、僕は体をよじってなんとか逃げ出す。

 痛みと吐き気でうまく動けない。這って逃げようとするが、サクラがすばやく僕を取り押さえる。背中にサクラの体重がかかり、関節が極っているためか動くことができない。視界の端に、他の参加者……Qが平川に、マイカとリリが乾に拘束されているのが映る。

「っぐ、大門さん!やめてください!僕らに何かできたと思いますか!?」

「わかりません。考えている間に動かれては困るので、推理は無力化したあとにさせてもらいます」

 もともと起伏の少なかったサクラの声は、さらに冷徹に響いた。

「僕じゃない!信じてください!ぐうっ……!」

「桔梗を殺した時みたいに、探偵のマネごとでもするつもりですか。誰がやったというんですか?」

 僕とマイカとミラは当然違う。リリには双子の片割れを殺す動機がないだろう。

「禅寺っ、あの男が」

 僕の口をついて出たのは、禅寺ゼンジロウの名前だった。Qが人を殺すとは思えなかったのだ。そんなことをしては、クイズができる回数が減るかもしれない。だから、やる理由がない。

「禅寺ですか。彼も死んでいました」

「なっ……!?」

んです。頭部が破裂した半蔵と禅寺の死体。あなたの言うように禅寺が犯人であれば、半蔵は相打ちになったのでしょう。そしてこの後殺人は起こらないはずです」

 半蔵が怪しい動きをする禅寺を見つけ、同時に互いの能力を指摘したというのか。

「その時はこの拘束を謝罪もしましょう。賠償もしましょう。ですが、今は生きている全員を無力化するのが先決です。あなたほど頭がいいなら理解していただけますね?」

 背中でがちゃがちゃと音がする。僕にも手錠がかかろうとしているようだ。


【ラウンド13を開始します。参加者は――】


 相変わらず全く変わらない調子のアナウンスに、僕は怒りさえ覚える。もうクイズができる状況ではないのに、ラウンドも何もあるものか!


「……サクラ、こちらは完了した。あとは」


 ピンポーン!


 また間の抜けた正解音と、何かが弾ける音がして、乾の声が途切れる。

「いやあああっ!!」

 リリの甲高い悲鳴が聞こえる。床に抑え込まれた僕は周囲を把握することができない。

(ミラっ!どうなってるんだ!?)

(わからねえ!乾の頭が爆発した!誰も何もしてないのに!)


【ラウンド13。乾イヴァンの死亡により、デスペナルティなし】


「……くっ!」


 サクラは僕の拘束をやめる。僕が手も口も動かせない状況で、『能力指摘』が発生してしまったからだろう。拳銃を構えて周囲を警戒しはじめた。

 僕は痛む体を起こし、ようやく状況を確認する。


 地獄のような光景が広がっていた。


 手錠をされ床に転がされたミラ。顔に血飛沫がついている。その正面には、乾の顔が破裂した死体がある。リリが大泣きしている。平川がサクラと背中合わせで拳銃を周囲に向けている。先程のラウンドで推理を見せた時とは全く違う、張り詰めて敵意を剥き出しにした表情だ。


「誰だっ!!誰がやっていやがるっ!!」


 吠えるように叫ぶ平川の鬼気迫る様子に、僕は気圧されてしまう。そこから目をそらしたとき、いるはずの人間がいないことに気がついた。

(おい、マイカがいないぞ!?)

 ミラからも『テレパス』が飛んできた。マイカがいないのだ。最後に見たのは、リリと共に乾に拘束されている所だったと思う。

 殺された?逃げた?あるいは――まさか、マイカが犯人なのか?


【ラウンド14。参加者は、二荒山リリ、汀マイカ、平川】


 ピンポーン!


 またあの音がした。

「なんっ、ぐ、くそっ!」


 平川の頭が歪に膨らみ、破裂する。


「平川っ!!!」


 サクラの悲鳴が響いた。この十数分の間に、2人も人が死んでしまった。僕は頭がおかしくなりそうだった。

(くそおっ、なんなんだよお!!どうなってんだよこれ!!!)

 ミラが泣いている。僕も泣き出したかった。だが、思いついてしまったおぞましい疑念が、それを許さなかった。


 マイカが『ホロスコープ』で、3人の能力を暴いて殺している、という疑念だ。

 状況的に可能だったのかもわからない。あの臆病でビビりのマイカにできたとも思えない。それでも、僕はマイカの『異能力』を知っている。だから、それが可能なことがわかってしまう。動機は不明だが、もし彼女がサクラのいう狂人の役割だとしたら――。


(マイカ、どこにいるんだ?!出てきてくれ、僕の推理が嘘だと、教えてくれ!)

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