Q3 「囲碁で石を打っても陣地が増えない場所」を語源とする、無駄なこと・価値がないことを意味する言葉は何? 4

【ラウンド11。二荒山ララの死亡により、デスペナルティなし】


 オラクルのアナウンスはいつもと変わらない調子だったが、僕たちの間では完全に事情が変わっていた。

「あの双子の1人が殺されてたって……?殺されたって、普通に?」

「うん。『能力指摘』とかクイズで殺されたんじゃない。誰かの手によって、他殺されていた……らしい。僕も詳しくは見てないんだけど」

 僕はミラに答えながら、遠くから規制線(どこから持ってきたんだ?)が張られた個室区画を見ていた。

「な、なんですかそれ……!」

「つまりよ……マジの殺人鬼が俺たちの中にいるってことかよ?!最悪じゃねえか……」

 マイカはミラは頭をかきむしった。マジの殺人鬼、しかも子供を手にかけるようなやつだ。そんなやつが、この11人……今となっては10人に減ってしまった参加者の中にいる。

 僕の視点では、僕とミラとマイカ、サクラはもちろん違う。4人いっしょに行動していたので、まず個室区画に行くことができない。動機や状況から見て怪しいのは……。

「……だめだ、情報が少なすぎるし、証言を確認する方法がない。推理なんかムリだ」

 僕は歯噛みした。クイズの中での出し抜き合い、『異能力』の読み合いであれば、クイズの中での行動が根拠になる。でも、ただ殺されたのでは、僕には何もわからない。

「クソっ、こんなことがあっていいのかよ!おい、オラクルとやらは何してんだ!殺人鬼がいてテストもデスゲームもあるかよ!聞いてんのか!」

 ミラが叫ぶが、答えは返ってこない。

「……落ち着いて、騒がないで」

 そんな僕らの様子を見ていた青年が近づいてくる。乾イヴァン、警察を名乗った4人の1人で、サクラの部下だ。

「こんな状況で落ち着いてなんていられるかよ!」

「……良くない。暴れると、落ち着かせることになる。強制的に」

 イヴァンの言葉は少ないが、脅迫には十分だった。ミラはそれ以上の言葉を飲み込む。

「そ、そうだ……この人たち、警察なんだ……人が殺してオラクルが何もしてこないなら、どれだけ暴力を振るっても問題ないわけで……」

 マイカが恐怖の表情でイヴァンを見た。

「……うん。でもそれは最後の手段。君たちは、僕らが守る。だから、大人しく従って」

 有無を言わさない迫力があった。相手は暴力のプロだ。クイズもデスゲームも関係ない暴力がまかり通ってしまった今、彼らには従う他ない。

「なんでこんなことに……ちゃんとデスゲームをさせる気があるなら、それ以外で危害を加えられないようになっているべきじゃないの?」

「あたしにもわかんねえよ……何もわかんねえよ。殺人鬼の気持ちも、オラクルのやりたいこともな」

 僕らは無言になってしまう。警察の4人によって、他の参加者たちも同じように協力を強いられているようだった。唯一マシなのは、殺人鬼の方も同じように監視され動けない状態にあるということだ。

 そこまで考えて、僕は気づく。

(この状況は、。暴力で従わせることが正当性を持ってしまっている。まさか、自作自演しているのか?)

 僕はサクラのことを思い出す。彼女は国民を守ると言っていた。人が死んでいることに、本当に悔しそうだった。それが嘘であるとは思いたくない。

(そういや、あいつ……)

 考えているところに、ミラが割り込んできた。『テレパス』の回線がつながったままだったのが幸いだった。

(半蔵とかいうデブを蹴ったりしてたよな。あれで、暴力になんかのペナルティがないかを確認してたのか?)

 マイカがさっき言っていたように、暴力を振るうことには何か制限があってもおかしくない。本格的に動き出す前にそれを探っていたとすれば、辻褄は合う。合ってほしくはないが。


【ラウンド12を開始します】


 何も答えなかったオラクルの声が、無情にラウンドの進行を宣言した。参加者は、禅寺・サクラ・半蔵。僕の視点からだと、あまり情報がなく殺人鬼の可能性がある禅寺、そして殺人鬼の自作自演をしているかもしれない警察の2人が、回答席に上がる。


 はずだった。


「半蔵。応答しなさい。不戦敗になりますよ」

 回答席にあらわれたのはサクラだけだった。半蔵と禅寺が来ない。サクラはスマホを耳に当てて呼び出しているようだ。

「イヴァン、半蔵は禅寺を監視していましたね。彼らはどこに?」

「……今探しています。半蔵は少林寺の有段者ですから、たとえ禅寺が犯人でも、簡単に殺されることはないかと思いますが……」

 平川と乾が周囲を見回し始めた時。


 ピンポーン!


 正解音が響いた。まだクイズが始まってもいないのに。

 そしてその直後、なにかが弾けるような音が聞こえる。


「まさか!」


 僕は思わず立ち上がる。この2つの音が表すのは、『能力指摘』の正答。そして、誰かが死んだこと。


 張られた規制線の向こう、すでに死体が一つある部屋から、どさっ、と何かが倒れる音がした。乾が急いで確認に向かうが、僕らは彼より早く真相を知ることになった。


【ラウンド12。半蔵モンヂの死亡により、デスペナルティなし】


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