Q3 「囲碁で石を打っても陣地が増えない場所」を語源とする、無駄なこと・価値がないことを意味する言葉は何? 3


「我々を全員殺すことが勝利条件の、オラクル側の参加者です。というのも、おそらくこのテストは、人狼ゲームを元にしていると思われるからです」

「人狼ゲーム?」

 聞いたことのない単語に、僕はオウム返しをしてしまう。

「Youtuberがやってるの見たことあるぜ。ええと、たしか……人狼と村人がいて……」

 ミラが説明しようとして、できなかったので、マイカが後をひきとった。

「プレイヤーが村人チームと人狼チームに分かれて行う会話ゲームです。村人の中に人狼が数人紛れ込んでいて、人狼は1ターンに1回、村人を食べて殺します。そのあと、村人は議論して、自分たちの中で誰が人狼なのかを探し出し、その人を処刑するんです。その結果人狼がいなくなれば村人の勝ち、村人を全部食べてしまえる状況になったら人狼の勝ち、というゲームです」

「そう、それ。それがなんで今回のテストと関係があるの?」

 サクラが示したのは、掲示されつづけている『異能力』の表だ。

「『占いホロスコープ』『騎士ナイト』『霊媒メディウム』……どれも人狼ゲームの役職です。他の『異能力』が直接的に名付けられているのに対して、これらは少し回りくどいネーミングです」

 改めてみてみると、確かにそうだ。『アンサー』『ジャンル』みたいな直球でないのは、浮いているように見える。

「もう一つ、私が根拠としているのは……『アンサー』を見つけ出す方法です。人狼ゲームにはがあります。誰が人狼か、誰が誰を食ったか、など……村人なら知らないはずのことを知っている。それが人狼をあぶりだすカギになります」

「……知っているものを知らないふりをすると、どこかで齟齬が出ると?」

 サクラはうなずいた。

「『アンサー』も同じです。知らないはずのクイズの答えを知っていて、私たちはそれを根拠に見抜くことができる……そして、処刑をする方法も与えられている。このテストは、意図的に人狼ゲームに似せられているのだと、私は思います」

「……じゃあ、やっぱり私たち村人は、協力しないといけなかったんですね」

 マイカは表情を曇らせながら呟く。最初から参加者全員が協力できていれば、こんなことにはなっていなかったのだろうか。

「あれ、でも」

 そんなことを考えていると、マイカが何かを思い出したようだった。

「人狼ゲームって、人狼チームは人狼だけじゃなかったですよね」

「どういうこと?」

「はい。汀さんの言うとおり、人狼ゲームにおいて、人狼側には『狂人』という役職があります。これは、人狼でないのに、人狼が勝つと勝利する役職です」

「つまり、それになぞらえると『アンサー』が人狼、Qが狂人だと?」

「そうでないと、Qのあの言動は説明がつかないように思います」

 サクラはそう言ったが、僕はそれには賛同できなかった。おそらく、だが。Qは本当に、クイズがやりたい、クイズが楽しいとしか考えていない。それがこの状況下では狂人のように見えるだけで。


【ラウンド11を始めます】


 オラクルのアナウンスが響いた。

「あたしだ」

 ミラが呼び出され、僕と『テレパス』の回線がつながる。眼の前にサクラがいるので、バレないかとかなり心配だったが、ミラはおかまいなしだった。

「お二人は仲がいいですね」

 サクラが何気なく言ったので、僕は「いやあ、別に」と謙遜しそうになったが、

「私は、お二人のどちらかが『アンサー』ではないかと思っています」

 すぐにその言葉を飲み込むことになった。

(まさかバレてるんじゃないだろうな?)

(違う……と思いたいし、バレていたとしても、この人たちはまだ『能力指摘』はしてこないだろう。なぜなら……)

「でも、それは今は関係ありません。あなたが『アンサー』だとしたら、『異能力』なしで同じ結果を出してくるQは天敵のはず。その点、私達の利害は一致しています。ですから、今は。Qを倒した後はわかりませんが」

 Qを倒した後、僕を倒しに来る。僕とミラのどちらが『アンサー』なのか、その確定的な情報を集めるために、監視しておきたいということか。

「協力しましょう。しない理由はないですよね?」

 サクラは微笑んだが、その目が笑っているはずもなかった。

(こええな、このヒト)

 ミラの心の声が聞こえる。僕も同感だった。僕らが思いもよらなかったところまで、このデスゲームを解体している。

「……ごめんなさい。私、怖がらせてしまったでしょうか」

 そんな僕らの心情を読み取ったのか、サクラは少し寂しげな表情をした。

「こういったデスゲームには慣れていまして。過去にものですから。少しズレていても、ご容赦ください。その分、皆さんは確実に守ってみせます」


 ラウンド11からは通常の早押しクイズに戻ったようだ。

 解答席にはミラと、警察を名乗った4人のうち1人、乾イヴァン……ハーフの俳優みたいなイケメンだ……の2人がついていたが、最後の1人が来ない。

「ララちゃん、どうしたのかなあ……」

 席を見ている僕の隣で、禅寺が不安そうな顔をした。彼はたしか、あの双子とよくいっしょにいた青年だ。

「あ、あの、みなさん、ララを見てませんか?リリ、さっきから探してるんだけど、ずっと見つからなくって……」


 双子の片割れ、二荒山リリが半泣きで僕らに聞くが、僕らは首を横にふるしか無い。

 クイズの開始の時間が迫る、その時。


「きゃあああああああっ!!」

「マイカ?!」


 マイカの悲鳴が聞こえた。声のほうを振り向けば、先程の休憩のときに出現した個室区画への入り口で、マイカが腰を抜かしている。

(ちょっと見てくる)

 僕はミラに言ってから、駆け出す。それを半蔵が追い抜いた。体格のわりにものすごい速さだ。


「……悪い予感がしてみりゃあよぉ~~。こいつは最悪だ」


 半蔵の大きく分厚い手が、僕の視界を遮った。


「な、何するんだ!」


「ガキが見るもんじゃねえ、一生夢に出んぞ」


 それでも、彼の太い指の隙間から、その光景の一部が、見えてしまった。

 無惨に殺された、二荒山ララの姿が。

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