Q1 紙のサイズ、電流の単位、トランプの1の札に共通するアルファベットは何? 9

【問題。わずかな元手で大きな成果を得ることを、】

「海老で鯛を釣る」

【問題。東京に本拠地を置くプロ野球チームは、ヤクルトスワローズと】

「読売ジャイアンツ」


 2回の正解で、僕が3点。大山が2点。もう一人の回答者、天上が0点。全10問のラウンドも折り返しになる。

 おそらく大山の『異能力』は自分の得意なジャンルの問題を出させるものだろう。バレないようにオンオフをかけているようだ。『アンサー』でその問題を正解することは可能だけど、あまりに専門的なことを正解してしまうと今度はこっちがバレる。そういう状況は困るから、リードは守りきりたいが……僕がリードしたこの場面、大山が『異能力』を使うとすればそろそろだ。


【問題。】


 答えは「ナイチンゲール」。

(来た、大山さんの専門分野!)

 やはり『異能力』の推理は当たっていたようだ。そして、難易度までは制御できないようだ。ナイチンゲールは一般常識の範囲。問題の聞き方によっては、すぐに答えても不自然じゃない!


 大山はどこで押す?僕はそれより早く押せるか?


 問題文が、読まれ始める。


【小陸軍省】


 知らない単語だ、と思った瞬間。


 ピコーン!


 ランプが点灯する音がした。僕は思わず大山のほうを向く。だが、彼女のランプは点いていない。


「えっと……小陸軍省、ランプの貴婦人、クリミアの天使といえば、いずれも誰に関する言葉?ってとこかな」


 飄々とした声が、反対側から聞こえる。


「答えは、フローレンス・ナイチンゲール」


 答えたのは、天上てんじょうキュウ。正解だ。

「うん、なんか今回は医学や看護に関する問題が多いね」

 看護師の服を着ている大山を見ながら、キュウは言う。彼もジャンルを操る『異能力』に気がついているのだろうか。

「感じがつかめたから、ここからはガンガン押していこう。もう様子見はできないからね!」

 そう言ってキュウは席から立ち上がり、据え付けられたボタンを、

「よいしょっと」

 取り外した。そして、立ったままボタンに指をかけ、前傾した姿勢になる。ホルスターに手をかけるガンマンのような構えだ。

「ああ、気にしないで。いつものクセだから」

 こちらにひらひら手を振るキュウ。

「じゃ、こっからは本気でいこう」

 キュウの表情が変わった。

 目を閉じ、体をわずかに揺らす。ただならない雰囲気だ。


【問題。】

 答えは「脚気かっけ」。また病気に関する問題だ。もう大山もなりふりかまっていない。

【これを防ぐために、】

 しかし、僕だってそれは同じだ。1問でも追いつかれれば同点になり、同着最下位となる可能性がある。

【日本海軍】

 そうしたらラウンド1同様、2人とも死ぬのだ。それは絶対に……。

【ではカレーが】


 ピコーン!

 問題文への集中を、点灯音が引き裂く。大山が押している。だがキュウのほうがわずかに早かったようだ。点いたのはキュウのランプ。

「……脚気」

 正解だ。速すぎる。迷いがない。

(どこにわかる要素があるんだ?正解がわかってたって、この速さで押されたら解答できない!なんでわかる?!『アンサー』でもないのに!)


「うわああっ!!」


 大山が声をあげ、回答席を叩いた。自分に有利なはずの問題を連取されたのだ。ムリもない。もしかしたら、使用に回数制限のある『異能力』だったのかもしれない。

「なっ、なんでっ、なんで」

「なんで分かるのか?って?好きだからね、クイズが」

 キュウが顔をあげ、当然のように答えた。

「あー。そういえば。あなたは看護師、キミは高校生。服でわかる。なのにボクが何者か、明かさないのはあまりよくないね。自己紹介しとこうか」

 そして、指をかけたままのボタンを、僕と大山に向ける。


「ボクはQ。職業は……。さ、ラスト3問!よろしくね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る