Q1 紙のサイズ、電流の単位、トランプの1の札に共通するアルファベットは何? 8


 大山ユウカは、高校を出てすぐに看護師として働き始めた。職場で出会った夫と結婚し、双子に恵まれるが、夫はその直後に不慮の事故で命を失った。今、彼女は2歳になる子どもたちを一人で育てている。

 看護師の仕事は、不安定と不規則の連続だ。理解のある実家・義実家と同僚たちの協力はありがたいが、それでも2人分との育児の両立は、厳しい。物理的に不可能なのでは、とすら思う。

 それでも、ユウカが毎日を擦り切れることなく働けているのは、2人の子どもを守るためである。


――だから、こんなところで死ねない。私まで死んだら、あの子たちの親はいなくなる。それだけは絶対にダメだ。


 ユウカは、わけのわからないテストに巻き込まれ、クイズの結果理不尽に人が死ぬのを見て――生まれて初めて、他人の生を踏みにじる覚悟を決めた。自分が生きて帰るため。子どもたちの待つ家に帰るため。

 今、回答席に座ったユウカの隣には、小柄で利発そうな高校生ぐらいの少年と、こんな状況でも笑みを崩さない、不気味な長身の青年。彼らも誰かの子どもであることを思うと、胸が張り裂けそうになる。

 だとしても、とユウカは決意しながら、ボタンに手を置く。


――私は帰るんだ。アキとリサのもとに。そのための『異能力』も、私は与えられたのだから。


【ラウンド2を開始します。問題】


 オラクルの声でアナウンスが始まった瞬間。ユウカは『異能力』の使用を心のなかで宣言する。




【問題。】


 僕の耳にオラクルのアナウンスが届く。

(僕が『アンサー』だということは絶対にバレちゃいけない。まずは、答えを知らなかったものとして行動する……わかるなら押すし、わからないなら押さない。ラウンド1の問題からして、そこまで難しいものは出ないはずだ。2,3問はそれで……)

 『アンサー』が発動し、問題が読まれる前に答えがわかる。答えは「ビタミンK」。僕はよく知らないが、ビタミンなら含まれている食べ物から聞かれるのだろうか?


【正常な血液凝固に必須であることから、】


 違う。


【特に新生】


 ピコーン!隣の席のボタンが点灯する。大山ユウカ。彼女が解答権を得た。


「ビタミンK」


 正解音。少しほっとした顔の大山。

(なんだそれ?!全然知らないぞ?!)

 僕は思わずもう一人の回答者、天上キュウと呼ばれた青年を見る。

「へー、すごいね。あそこでわかるんだ」

 反応はニュートラルだ。情報がない。僕が知らないだけで一般常識なのか?


【問題。】


 熟考しているヒマはない。次の問題が読まれ始める。答えは「キャンベラ」。確か……。


【オースト】


(オーストラリアの首都は、キャンベラ!)

 そう思ってボタンを押そうとする。いや、押していいのか?


【リアの首都はウィーンですが、オーストラ】


(そういう問題か、それなら……!)


 【ラ】が読まれるか読まれないかのところまで、待って、僕はボタンを押した。まずい、早すぎたか?でも、ここで答えてもおかしくないはずだ。


「キャンベラ」


 正解音。僕は胸を撫で下ろす。同じタイミングで押そうとしていたらしい、大山が悔しがっている。


 これは所謂ひっかけ問題。オーストリアの首都ならウィーンと解答したいところだが、本当に聞いているのは名前の似ているオーストリアの首都という問題だろう。焦って【ですが】の前で押すと間違える……という問題だ。


(そもそも、最初に押そうとした段階ではまだ何を答えればいいかもわかってない!応えられるのはおかしい!)

 危なかった。何が「答えを知らなかったものとして行動する」だ!一歩間違えば、答えを知っている人間にしかできない解答をするところだった。


【問題。】


 答えは「迷走神経反射」。何だこれは?どこまで聞けば答えて良い?


【注射などの強い痛みをきっかけとして、血圧低下や徐脈、意識喪失】

 

 鋭い音がして、大山のボタンが点灯する。


「迷走神経反射」


 正解だ。僕は気づく。

(このラウンド、おかしなことが起こっている)

 ラウンド1やさっき僕が答えた問題は、一般常識レベルか、学校で習うことが答えになっていた。だが今は、大山が答えるときだけ、やたら専門的な問題が出ている。しかも、内容は連続して、看護師である大山に有利なものだ。

(まさかこれが……あの人の『異能力』か……?!)

 

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