Q1 紙のサイズ、電流の単位、トランプの1の札に共通するアルファベットは何? 7

 ミラが、僕が『アンサー』だと気づいている。なぜ?いつから?どうやって?!


「ミ、ミラ、それは」


 唇が震える。


(どう答えるのが正しいんだ?まさかミラが、僕を殺しに、指摘を?!)


 僕の曖昧な言葉に、ミラは答えない。心臓が壊れそうなほど脈打ち、気が遠くなりそうだ。


「っふううーーーっ……やっぱりそうか。よかったぁーー……」


 脱力。ミラが僕の体を離れ、大きく息をついてみせる。

「……どういうこと?」

 勝手に安心しているミラに、僕はおそるおそる尋ねる。すると、ミラは

「いいから、見てて。何があっても声出すんじゃねえぞ」

 そう言って、目を閉じる。


 少しの違和感があった後、

(……聞こえるか?)

「うわっ!?」

 僕は思わず飛び退く。頭の中に声が聞こえた。ミラの声だったが、彼女はずっと口を閉じている。

(声出すなっつったろ。さっき気づいたんだ、あたしの『異能力』。こういう感じのらしい)

(心が読めるのか?『テレパス』か)

(それもからな。よくわかんないけど、何かの条件で聞こえるようになるらしい。いまんとこA以外は聞こえない……そしてこれでわかった。受信できるようになると、そいつに向けて発信もできる……LINE交換したみたいな状態か?)

 これだけ人数のいる会場で僕の思考しか受信していないとなると、受信できるようになる条件はかなり厳しいのだろう。能力を知られてしまったのは痛いが、相手がミラで、今のところ僕を指摘殺してくる可能性が低いのはありがたかった。

「っぐ!」

 ミラがうめき、膝をつく。

「大丈夫?」

「……普段、お前あんな速度で考えてんの?どうりで成績いいはずだよ。あたしの頭じゃ処理しきれないわ」

 ミラはテレパシーの接続を切ったようだ。なんとなく、感覚でそれがわかる。心が読め、無言での会話ができるが、できる相手は限られ、接続していることが相手に伝わる。強力だが制約の多い能力のようだ。

(とにかく、『アンサー』がAでよかった。協力してくれないか?)

(協力?)

(答えがわかるんなら、『テレパス』であたしに教えてくれよ。そうすれば、『アンサー』が二人いる感じになって、その……いいんじゃないか?)

 なるほど。ミラの考えは正しい。答えを知っている状態の人間が2人いれば、、あるいは他の能力で答えているのか、わからなくなる。お互いが指摘殺しない前提において、このチームはかなり強そうだ。

(……まあ、こんなクソみたいなゲームの中だ。あたしも疑う、ってのも別にわかるけど。互いに『異能力』を知っちまったんだ。協力したほうがいいんじゃないか?)

 そして、僕はこの要請を断ることができない。『テレパス』の回線がつながっている以上、もしミラを指摘殺しようとしたら、そのことがミラにバレるからだ。まあ、断る理由もないのだが。

(わかった、協力しよう。一緒に生き残ろう。だから、とりあえず回線を切ってくれないか)

(なんで?)

(いいから)

 ミラは頷き、『テレパス』の回線を切った。好きな女の子を殺すような展開にならなくてよかった、という思考を読まれるのは、流石に少し気恥ずかしい。


【ラウンド2を開始します。解答者は前へ】


 ミラと話している間に、オラクルのアナウンスが入った。しかし、参加者たちは魔女狩りのような興奮に包まれ、反応しない。


【参加者は、芦田エイ。大山ユウカ。天上キュウ】


 僕だ。呼ばれてしまった。

「え、Aさぁん」

 ようやく泣き止んだマイカが、また泣き出しそうになりながら僕の袖をつかんだ。

「死なないでくださいね?!いやですからね、知ってる人が、し、死んじゃうの……ほ、ほんとは誰にも、し、死んでほしくないけど……っ!」

 鼻水をたらしながらすがりついてくるマイカ。

「う、うん、がんばるよ」

「なんでそんなに冷静なんですかぁ……?」

 なんとかマイカにどいてもらい、回答席へと向かう中、僕は気づく。対戦相手のうち一人は、少し前にミラを助けてくれた、看護師の大山だ。参加者の中から出てくる彼と目が合う。

「や、やあ。当たっちゃったね」

 大山は疲れ切った様子で、力なく笑った。

「さっきは、ミラをありがとうございました。自分も大変だったでしょうに」

「ああ、いいの。そういう性分だから」

「……」

「……」

 僕らのどちらか、あるいはどちらもが、死ぬ。第一ラウンドでまざまざと見せつけられた事実。僕らは、会話するのに適切な言葉を持たなかった。重い沈黙が流れる。


「やっとクイズができる!楽しみだなあ!」

 出し抜けに、明るい声が聞こえた。振り返ると、長身にメガネの青年が、僕たちのほうに……回答席のほうに歩いてくる。

「お、君たちが対戦相手だね!お互いがんばろう!」

 にこにこしながら僕たちの肩を叩き、鼻歌交じりに回答席に座る青年。僕と大山は、あっけに取られて見送るしかなかった。

「あれ?どうしたの?ほら、早く座りなよ!」

 待ちきれないといった様子の青年は、メガネの奥の切れ長な目を細める。

「楽しいクイズの時間だよ?」

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