Q1 紙のサイズ、電流の単位、トランプの1の札に共通するアルファベットは何? 5

 押されるはずのない解答ボタンが押され、発生するはずのない解答権が発生した。


「おいおいおいおい!何押しちゃってるの!?最初から裏切るつもりだったわけ?!」

 デメキンが目を剥く。ボタンを押したのは、彼の隣の席の女だった。

「だ、だって、じゃない!先に裏切ったのはあんたでしょ!」

 回答席の女は、がたがたと震えながらデメキンを指差す。

「ハァ?!何言ってるのお前!?」

「あ、あんたが押さないって言うから乗ってやったのに!それで生き残れて、この後のゲームも3人でやっていこうって言ったのに!」

「待てって!なんだよコイツが押すって!?まだ押してないだろ?!」

もう一人の回答者の男が立ち上がって女に詰め寄り、会場は一気に騒然となる。

「おかしくなったのか?あの女……」

 ミラが思わず漏らした。デメキンがボタンを押していないことは、彼女のボタンが点灯していることからも明らかだ。錯乱しているのか?

 それを見ながら、僕はラウンド開始時に覚えた違和感に気がついた。


「そ、そんなの信じられない!わたしたちを騙そうとしてるんじゃないの?」

「そうだ。もし本当ならいいが、信用できない。本当にそのルールであってるのか?」


 デメキンに食って掛かってみせた二人の反応は、「デメキンが嘘をついているか・いないか」「デメキンの言ったルールの処理があっているか・いないか」。少し考えれば思いつきそうな、「最後の問題を正解すればクイズの勝者になることができる」という必勝法の抜け穴は、意図的にふせられていたのだ。おそらくデメキンの仕込み。女が言っているように、わかる問題がきたら一人正解して勝者になってもいいし、仮に問題がわからなかったとしても、全員0点で勝敗がつかずに生還できる。必勝法を広めた立場を確保できれば、今後のゲームでも主導権を握ることができるだろう。これがおそらく、デメキンの「必勝法」の全容だ。


【解答をどうぞ】

「ゴムゴムの実」


 安っぽい正解音が響く。

【ラウンド終了。勝者、京橋キョウコ】


「あんたが!あんたが悪いんだからっ!私は悪くない!」

 錯乱した様子で解答席から走って逃げる女。目を見開き、涙を流しながら、壮絶な表情だ。

「てめえ、許さねえぞッ!!」

 他の解答者の男がそれを追い、女を思い切り殴りつけた。女の腰ほどもありそうな腕がうなり、無機質な床に女を叩き伏せ、血が飛び散った。

「う、嘘……これで終わりってわけ……?!俺の、必勝法は、完璧だって……なんでいきなり裏切ったんだよあの女っ」

 一方のデメキンは、回答席にうつむき、頭を抱えている。

「そ、そうだぁ!これってドッキリでしょお?!ねえ!!ミヤちゃん!サトくん!?また編集チームのイタズラなんでしょ!?すげー凝ってるじゃん!!もういいから!ほらっあの人あんなにブン殴られてるし!ヤバ、マジで死にそうじゃん笑。ねえ!もうやめよ!やめやめ!終わり!」

 デメキンはふらふらと解答席を降りて、どこかにカメラを探すような動きをしながら、歩いて行く。


【敗者、郡司タロウ、井手目ヨウジ。デスペナルティ】


「このアマっ!このっ」

「ねー撮れ高あったっしょ!終わ」


 女にマウントを取って殴っていた男。そしてデメキン。二人の頭が、弾けた。聞いたことのない音がして、白い空間に赤黒い肉が飛び散る。


 会場は一瞬静まり返り、その後悲鳴に包まれた。

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