Q1 紙のサイズ、電流の単位、トランプの1の札に共通するアルファベットは何? 4
配信者、デメキンが思いついた「必勝法」とは、クイズの参加者が一切回答しないことで0問正解の同着とし、最下位を決めさせないことだった。
「ルールでは、『クイズに負けると死ぬ』って言ってたよね?だったら、勝敗が決まらなければ誰も死なないってわけ!」
デメキンは丸く張った愛嬌のある顔で笑った。
「本当か……?」
「でも、それでいけるならすごいわ!」
この状況に希望が見えたことが、参加者の張り詰めた空気は少し緩んだように感じる。
「マジか、すげーじゃんあのデブ」
ミラは素直に感心していたが、僕は彼の作戦には半信半疑だった。
「……良くないですね」
「マイカもそう思う?」
「はい、だいたいデスゲームもので『必勝法がある』って最初に言うキャラはやられるんですよ」
「……マイペースだね、君は」
僕は半ば呆れたが、ある意味でマイカの言っていることは正しく、僕の心配と一致していた。つまり、「すぐ思いつくような必勝法が、対策されていないわけがない」ということだ。
「そ、そんなの信じられない!わたしたちを騙そうとしてるんじゃないの?」
「そうだ。もし本当ならいいが、信用できない。本当にそのルールであってるのか?」
デメキンの対戦相手2人も反論する。他の参加者の中にも、同じ考えの者はいるようだ。デメキンは対戦相手たちと僕らを見渡すと、朗らかに笑いながら言った。
「大丈夫だよ!デメキンは異能力『
「なっ……!?」
いきなり飛び出した『異能力』の自白。会場がどよめく。
「何それ、本当なの?!」
「嘘をついているんじゃないだろうな?」
対戦相手たちも驚いた様子で返す。デメキンは人懐っこい笑顔を崩さないまま続けた。
「もちろん、デメキンがウソついてると思ってもいいけど……でも、ウソかどうかはこのラウンドが終わればわかるよね?そんなすぐわかる嘘つくと思う?デメキンは、みんなでハッピーに生還したくて言ってるだけなんだよ!」
会場のざわつきが収まらないまま、【ラウンドを開始します】のアナウンスが流れた。
「……わかった、そこまで言うなら信じよう。そこまでされて疑うのは男じゃない」
「そうね、みんなで生き残りましょう。疑ってごめんなさい」
デメキンたちクイズの回答者は、席に用意されたボタンから手を離す。完全に押す気がないことを、お互いに確認したようだった。
「なんか、うまくいきそうじゃねーか。オラクルがテストしたかったのは、案外あたしたちの協調性なのかもな」
「そ、そうですね」
ミラとマイカにも少し笑顔が戻る。
(確かにそうだけど……でも、なにかひっかかる)
違和感の正体がつかめないまま、初めてのラウンドが開始された。
【問題。じゃんけんのように、3つの手がそれぞれ一方に強く一方に弱い状態をなんという?】
(三すくみ、だ)
このぐらいであれば知っている。解かせる気のない難問だったらどうしようとおもっていたが、この感じが続けば……。
【正解は、「三すくみ」】
回答席の3人は、まだボタンから手をはなしたまま。動き出すそぶりもない。
【問題。汚れ落としやベーキングパウダーに】
(重曹……?)
これもわかる。しかし、僕には馴染みのない言葉だった。家庭科かなにかで習ったのか?思い出せない。
【使われる物質を漢字2文字でなんという?】
しばらくの沈黙。
【正解は、「重曹」】
またも誰も動かない。デメキンの提案通りに、クイズは進んでいく。その後も、クイズが出されては誰も答えない、という流れが続く。
「んー、けっこうムズいな」
「え、そうですか?」
「ナメてんのかお前」
ミラとマイカを含め、他の参加者たちも、動きのない壇上に興味を失い始めていた。会場を探索したり、なんとか外部と連絡をとる手段を探す者もいた。僕はそれでも、さっき覚えた違和感が気になり、クイズを心の中で解き続ける。
(今のところ全問正解だ。難易度はちょうどいいな)
そして10問目。
【最終問題です。問題。漫画『ONEPIECE』】
(ゴムゴムの実か)
なんとなく、そう思った。次の瞬間、その思考のおかしさに気がついた。
(待て、まだわからないはずだろ?)
【で、主人公ルフィが食】
問題は読まれ続ける。【食】まで聞けば、ルフィが食べたもの=ゴムゴムの実だとわかる。問題の難易度的は高くない。それはいい。なぜ、僕はその前にわかった?
背筋が冷えていくのを感じる。
まさか。
そう考えた瞬間。
ピコーン!
無機質な空間に響く、解答音。ボタンが押され、回答席のランプが灯った。
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