Q1 紙のサイズ、電流の単位、トランプの1の札に共通するアルファベットは何? 3
言葉として理解できたのはそこまでだった。あとは、脳の中に生の情報が、無理やり展開されていった。
オラクルの持つ『
テストの内容は、『異能力早押しクイズ』であること。自身の知能と『異能力』を使って、早押しクイズで競う。
参加者はここにいる26人、それぞれ異なる『異能力』を与えられていること。
勝利条件は、クイズで勝ち続けること、及び『異能力』を他人に知られないこと。クイズに負けるか、他の参加者に自分の『異能力』を指摘される、または他の参加者の『異能力』を指摘して間違えた場合は、死ぬこと。
最後に残った参加者だけが、脱出できること。
このテストに関する情報を、僕は知っていることになった。
「はぁっ、はあっ……うそだろ、し、死ぬって……」
まだ収まらない頭痛に頭を押さえながら、僕は思わずこぼす。それが嘘でないことなど、完全に理解しているというのに。
ミラとマイカのほうになんとか視線を向ける。ミラが倒れたままだ。
「え、Aさん、御巫さんがっ」
マイカも頭を抱えながら、目を覚まさないミラの肩をゆすっている。
こういう時、何から確認するんだっけ。いつか受けた救命研修のことを思い出そうとするが、さっき送り込まれた情報に頭が占拠されて出てこない。
「あまり強く揺らさないで、頭を打っているかも」
落ち着いた声がした。一人の女性が、マイカの隣にしゃがみこみ、ミラの様子を見始める。半そでの白衣のような服装から、看護師らしいことがわかった。
「……うん、大丈夫……たぶん。頭とかは打ってないはずだ。こんな変なことをされたのは始めてだから、他にどんな影響があるかわからないけど」
女性はミラのことを見終わると、がくりとその場にへたり込む。
「あ、あなたこそ大丈夫ですか?」
「まだ頭が痛くて……心配をかけてすまない」
女性は大山ユウカと名乗った。やはり看護師で、自分も頭痛のする中、倒れたミラを見て駆けつけてくれたらしい。
「とにかく、ありがとうございました。大山さんも気を付けて」
「ああ……私はクイズとかさっぱりだから、どうなるかわからないけど。お互いがんばろう」
大山は力なく笑って、他の目を覚まさない人のところに向かっていく。彼女もまた、オラクルに与えられた情報を疑っていないようだ。
どんな理屈かはわからないが、オラクルの情報は疑うことができない。ウソをついていない、疑う必要がないと脳に刻み込まれ、僕はそれを知っている。
【予測より肉体へ負荷がかかっている個体がいますね。仕方ありません。ロスの多い形式ですが、これより先は口頭で説明します】
しばらくしてから、オラクルは、こんどは普通の日本語でしゃべり始めた。流暢な発音だが、どこか機械的な抑揚の不自然さがある。
【テストのルールはあなた方に送付した通りです。ここからは、『異能力』関係の情報をお伝えします。漏れなく取得してください】
オラクルの後ろの空間に、AからZまでのアルファベットが浮かび上がった。
【能力はランク付けがあり、Aが最上位、Zが最下位です。これは本テストにおける優位性を表すもので、能力自体の事象改変規模に依存しないランクです】
「っつ……」
ミラが体を起こした。大山の見立て通りだ。
「ミラ!よかった、頭は大丈夫?話は聞こえてる?」
「大丈夫。あれの話は頭から聞いてた。起き上がんのがダルかっただけ」
僕はミラに、大山が看てくれたことを伝える。ミラは礼を言おうと彼女を探し始めたが、僕はオラクルの説明のほうが気になった。
【『異能力』の内容は、参加者が一人減るたびに一つ、上位から公開されていきます。参加者は、その情報をもとに、他の参加者の『異能力』を指摘することができます】
「ふむふむ。強い能力ほどクイズに有利だけど、他の参加者にバレやすいのね……自分が能力者になるなんて、すごすぎるわ。オラクルって何者なのかしら」
マイカが頷いている。オラクルは僕たちの常識を超えた力を持っているようだ。こんなところに僕たちを集めるのも、『異能力』なるものを与えるのも、オラクルには何ができてもおかしくない。脳に直接情報を送る、などということが本当にできるのだから。
【説明は以上です。テスト開始の前に、『異能力』最上位、Aの能力を開示します】
オラクルがそう言うと、アルファベットのホログラムが縦一列に並び、「A」の後ろに単語が追加される。
【『
「は?!」
会場のほぼ全員が、同時に声をあげた。
【それでは、5分後にテストを開始します。健闘を祈ります】
淡い光になって消えていくオラクル。異様な消滅の仕方だったが、僕を含め参加者たちはそれどころではなかった。
「おいおい、どういうことだよ、クイズの答えがわかるって!?そんなのチートじゃねえか!」
「クイズに勝てないと死んじゃうのに、絶対にクイズで負けない人がこの中にいるってこと?!」
「……あなたさっき、ぜんぜん驚いてなかったよね?まさか、あなたが……」
「言いがかりはやめろ!俺はちがうから、それ言ったら指摘のミスで死ぬのはお前だぞ?!」
騒然としている。主催者の謎さ、デスゲームの理不尽さ。そうしたわけのわからないものより、「この中に倒すべき、ズルをしている相手がいる」という単純な情報が、参加者を突き動かす。
「やべーぞA……なんかもうバチバチじゃん」
「私も、怖いです……」
一気にヒートアップした会場に、ミラとマイカは少し怖気づいているようだ。僕も、この豹変ぶりはかなり怖いが、ミラの手前、なんとか表情に出さないようにした。
【ラウンド1を開始します。解答者は前へ】
オラクルの声でアナウンスがあるが、姿は見えない。
参加者の中から、3人ほどが選ばれ、いつの間にか用意されていた回答席に向かっていく。筋肉質で大柄な男性、整った顔の女性、そして派手なサングラスをつけた男性。3人とも、どこかで見たことがあるような気がした。
「どうもぉ!デメキンTVのデメキンです!!」
だしぬけに、サングラスの男性がよくとおる声で叫ぶ。それで思い出したが、何度か見たことのある有名動画配信者だった。
「え、デメキン?!本物?!」
マイカや一部の参加者にとっては有名人だったようで、にわかに色めきだっている。注目を集めたデメキンは、そのまま続けた。
「デメキンね、このゲームの必勝法思いついちゃったんだよねえ!みんなで生還できる方法!マジ天才かもしれん!」
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