僕の連星眼が疼く!!

『ククク、また無茶苦茶やりやがったな?

 お前さんのイカれ方は、オイラにも予想がつかねぇぜ……』


 萌香達とヤテンによる最終決戦が開始される中で、バイクの側まで戻ってきた星司へと、呆れたような笑い声が伝わってくる。


『ふむ? 混沌の後遺症なのか、あの娘は少しばかり霊脈と波長がズレていたので、我のチカラで整えてみたのだが……。

 我が師の予想と違っていたか?』


『んニャ? 混沌の後遺症……?

 あぁ、なるほどな。

 それであんなコトをやったのか……いや、やれるコトがイカれてるがよ』


『我はなにかを誤ったのか?』


『つまり、お前さんがやったのは、治療じゃなくて覚醒だった、ってコトだぜ』


『覚醒? 確か、"猫の集会場"で悟りがどうのと言っていた覚えがあるな……』


『おう、本質的には、お前さんが魂で考えたり、念話を覚えたコトと同じだぜ。

 要するに、覚醒ってのは、より深い"神秘"を発現させた状態のコトだからな。

 あの嬢ちゃんの場合は、大方、血筋に秘められた能力を開花させたってトコロだろうよ』


 暢気に話すマタと星司が向ける視線の先では、一方的にヤテンがボゴボコに殴られ、斬られ、凍りついており、巨体による反撃は掠りもしていなかった。


『覚醒か……ふむ。

 意図した訳ではないが、元より強くなった、という訳だな。

 確かに、あの竜人を圧倒しているようだ』


『あぁ、なかなかやりやがるぜ。

 ギャルっぽい嬢ちゃんは、言わずもがなだが、サムライっぽい嬢ちゃんが持ってる刀が肝だな……劣化したとはいえ、混沌を余裕で切り裂けるなら、かなりの業モノだろうぜ』


 マタの解説が続いている間にも、野天の片腕が斬り落とされる。


 しかし、吹き飛ばされた片腕が溶けるように消えると、瞬時に傷口から失われた腕の骨格が伸び始め、漆黒の竜鱗に覆われるコトで再生してしまった。


 再生した腕を振るって反撃しようとしたヤテンを、雨のような氷結弾が襲い、それらが張り付きながら繋がることで、伸ばした腕を氷結させるが、数秒で粉々に破壊される。


『ガンマンっぽい嬢ちゃんは、チカラを間接的に使っているから、混沌と相性が悪いみてぇだなぁ?

 補助としては十分だが、強度を高めてギリギリってトコロだから、ちょいと消耗が激しそうだぜ』


 ヤテンは怒り狂いながら、漆黒のブレスを吐き出したり、伸ばした鋭い爪を振るうが、退魔士チームに直撃することはなく、常に死角から萌香と桜による強烈な攻撃を喰らい続けていた。


『まぁ、あの嬢ちゃん達の中で、一番オイラが評価するのは、ニンジャっぽい嬢ちゃんだがな。

 あの薄く展開されている霧は厄介だぜ?

 気配を薄くさせるだけじゃなくて、幻も見せてやがる……あのデクノボウは感知系が弱いみてぇだから、いくら狙っても当たらねぇだろうな』


(退魔士ですか……僕と数年くらいしか歳が違わないように見えますが、完全に漫画のヒーローですね。

 敵も意味不明な巨大化とかしてますし……というか、傷が再生しすぎて、全然、倒れないですね)


 終始優勢に戦いを続ける萌香達を見ていた星司は、再生を繰り返すヤテンの様子に疑問を浮かべると、マタに尋ねた。


『それでも倒せないようだが?』


『デクノボウのケツを見てみろよ。

 尻尾代わりに、召喚陣まで混沌が繋がってやがるだろ?』


 その指摘に星司がよく観察すると、ヤテンの尾骨に相当する部分から、コードのように細長い漆黒のラインが、召喚陣まで繋がっていた。

 ヤテンを傷つけられる攻撃の余波を受けているが、混沌のラインにはほとんど効果がないようだった。


『なるほど、補給付きということか……』


『一旦、カタチを得て受肉しちまっている以上は、混沌の純度を増しすぎた時点で、崩壊しちまうだろうがな……。

 カタチを保てなくなるまで崩壊すれば、劣化した混沌が"神秘"の浅い世界で残るコトはできねぇぜ。

 霧散して世界の一部になるか、新しい"神秘"の糧になるだろうよ』


『つまり、娘どもと竜人の我慢比べか。

 持久戦となるなら、娘どもは不利か……。

 どうやら我がチカラを再び振るう必要がありそうだな』


『おいおい、まだ何かヤル気なのかよ?』


『仕留め損なったモノを始末するだけのことである』


(あの杖を【ビーム眼】で壊せていれば、状況も違ったでしょうからね。

 あの竜人さんは合体怪人的な存在みたいなので、杖も何処かに埋まってるでしょう。

 一応、ヒビは入ってましたから、もう一撃当てられれば、退魔士さん達が有利になるかもしれません)


 星司が右眼を押さえながら、己の根幹から湧き上がるチカラを込めれば、


──ズキ……。

 と、右眼の疼きと共に、【霊視眼】が自力発動する。


「む? 視界がボヤけている?

 限界が近いか……急がねばなるまいな」


 発動した【霊視眼】の精度が安定せず、ボヤけるが、星司が意識的にチカラを高めることで、漸く右眼のピントが合う。


(これが能力使用の反動ですか……。

 無理をするほど、元に戻るまでの待機時間クールタイムが長引くってことですね。

 えーと、竜人さんは……なるほど、混沌というだけはあって、混ざり合っていますね。

 だけど、やっぱりカタチが残っている部分もあるみたいです。

 尾骨の根元ですか……混沌のラインに触れずにチカラが弱い箇所を上手く直撃させなければ……あ、【ビーム眼】では、ここまでは視えませんか……)


 暴れているヤテンの霊体を観察した星司は、弱点を見極めることに成功したが、攻撃手段に迷ってしまった。


(時間がないですが、弱点を退魔士さん達に伝える方が効果がありますか?

 【霊視眼】で支援するか、【ビーム眼】で攻撃するか……どちらの方が……あれ?)


 しかし、その迷いが新たなチカラを目覚めさせる。


「【霊視眼】で視た箇所へ、【ビーム眼】を当てる……いや、そもそも我はなぜ片方ずつで考えているのだ?

 片方で足りぬなら、両方発動すれば済むコトよ!!」


 その発想に至ると同時に、


──ズキン!!

 と、再び右眼が強く疼く。


 咄嗟に右眼を押さえた星司に、"記憶"が流れ込んで視界が変わった。



────ゲイザーが右眼を押さえながら、笑っている。


『クカカ!! オマケを気に入ってくれたようだが、我の本命はこちらである。

 基本レッスンの最後に、我がチカラの真髄を授けよう。

 ……強力である分、消耗も激しい技となる故、使い処を間違えるなよ?』


 厨二姿のゲイザーがそう告げると、右眼の眼帯を取る。

 現れた"眼"に瞳はなく、漆黒の闇に光が瞬いている様子は、銀河を彷彿とさせた。

 その深淵なる闇の中で輝いている星の一つが大きくなると、見覚えのある瞳になる。


『一つは、【星幽より訪れたるモノを見透し祓う《始まりの巫女シビュラ・カンナーギ》が祈りし霊眼】』


 星がもう一つ大きくなり、漆黒の眼球に瞳が二つ並ぶ。


『もう一つは、【攻撃型人工星霊《開発No.003メガビーム》搭載:星霊機構式真眼】』


 二つの瞳が隣り合うと、輝きを増しながら少しずつ重なりあって融合していく。


『合わせて一つのチカラとする。

 【彼方にて滅びし星霊の軌跡を宿す《大いなる眼差しアイボール》を継承せし星眼】の基本にして奥技なり』


 その名を……』────



 急速に右眼の視界が戻り、強烈な疼きとチカラの奔流が続くなかで、星司は唱えた。


「〔連なれ星霊の軌跡よ〕、〈連星開眼〉!!」


 押さえていた手から開放された右眼は、呪文と共に深い闇へ染まり、その奥底から霊視眼の瞳とレーザー眼の瞳が現れると、漆黒の眼球に輝く二つの瞳が並んだ。


 そして、青白い輝きの瞳とメタリックな輝きの瞳が惹かれ合うように、重なりあって一つとなることで、右眼から強烈な黄金の輝きが放たれる。


 溢れ出した光が収まると、闇に染まった右眼の中心には、神聖さと無機質さを併せ持つ奇妙な瞳が、一つだけ煌めいていた。


「全てを見極め、狙い撃つ」


 星司が新たに生まれた瞳へチカラを込めると、再び右眼に霊力と気力が混ざった輝きが増していく。


 更に、輝きと共に溢れ出したチカラの余波が、星司の眼前に複数のリングを並べた列を形成していった。


『ッ!? ……ナンダ、アイツハ?』


(準備は完了しましたが……派手に光りすぎて、気づかれてしまいましたね)


 星司はチカラを溜めながら、ヤテンの霊的構成を見極めていったが、強大な霊圧を感じたことで、萌香達と戦いながらもヤテンが警戒してしまう。


 そこに、


「隙ありでござる」


『ヌオッ!?』


 星司を警戒したヤテンへ桜が斬り掛かり、


「【連星:霊視レーザー眼】!!」


 ズビュウゥゥゥゥン!!


 瞬時に右眼から放たれたビームが、空中のリングを潜りながら拡大していく。


 直径一メートル程度の太さとなったビームは、桜の斬撃を避けたヤテンの腰部分へと、狙い違わず直撃した。


『ガァァァァァッ!?』


 そのビームは、霊的結合力の弱い箇所を的確に撃ち抜いて黒燐を破壊すると、内部を直進して、骨格に混ざって尾骶骨のように混沌と繋がっていた柄だけの長杖を破壊した。


 すると、ヤテンに繋がっていた混沌のラインが千切れると同時に、混沌の召喚陣にもノイズが走りだす。

 また、異界を形成していた核の崩壊が始まったことで、空間を隔てる境界面にヒビが入り始めた。


 そして、異界の主であるヤテンにも、異常が生じていく。


『……アッ!?』


 ザラザラザラ…………。

 と、一斉にヤテンが纏っていた黒燐が剥がれ落ちた。


 混沌との接続が切れたことで、骨格が剥き出しになってしまったのだ。


『オレノウロコガ!? オレノヤボウ、ドラゴンノカラダガァッ!?』


「アレレ? オカシイぞぉ? ドラゴンマンかと思っていたら、ホネトカゲマンになっちゃった!」


「栄枯必衰でござるなぁ……」


「発言から、スカルドラゴンでは満足してなかったみたいですね」


「フェイバリットとか言ってたっすが、生きてるドラゴンを召喚するための実験だったってコトっすね」


 《混沌竜人ヤテン》の正体、それは竜人の骨格に混沌の鱗が張り付いた紛いモノでしかなかった。


 萌香達は、星司をチラリと見た後で、頷き合う。


「トドメを譲ってもらったみたいだね?」


「なかなか漢気のある御仁でござるな」


「格好はアレですが……」


「眼からビームでの援護っすか……事後報告書が、今から憂鬱っす……」


「はいはい、キリちゃんも気合い入れて!

 じゃあ、ラストはアタシが決めるから、ヨロシクね!!」


うけたまわったでござる。

 では、拙者から参ろうか……〔斬り捨て御免〕!!」


 ズザザン!!


『アガッ!?』


 激しく混乱していた野天の両腕が、桜が放った水流の斬撃によって同時に落ちる。


「仕込みは終わっています。

 〔凝れて、縛れ〕!!」


 ダンッ! バキ、バキバキ……。


『シマッタ!? ウゴケヌッ……ダガ、』


 雪姫が地面を踏みつけると、ばら撒かれていた氷結弾が一斉に反応する。

 瞬時に氷の茨となって発動した〈氷縛陣〉がヤテンの下半身を拘束する。


「油断はしないっすよ……。

 〔幻想に惑え〕っす」


 スゥ……。

 と、薄い霧がヤテンの眼前に立ち篭め、その中から萌香が飛び出してくる。


『サセルカアッ!! ガァァァッ!!!!』


 ゴバァァァァァッ!!


 ソレをヤテンは、大きく開けて迎え撃ち、特大のブレスを放って消し去った。


『ギャハハハハハ!! ヤハリ、オレハドラゴンナンダ!!』


「キリちゃん、ナイス!!

 そして、ホネトカゲマンはさよならだよ」


 しかし、喜び叫んだヤテンは、頭上から聴こえた声に硬直する。


 空間ごとヒビ割れ始めた、広大な地下の天井に、萌香が逆さで立っていた。


「〔ギャルの一念岩をも穿つ!!〕」


 呪文と共に、凄まじい輝きを放つ籠手を構えた萌香は、燃え上がる気力で炎のような尾を引きながら、真下に向かって跳躍する。


 その姿はまるで赤い流星だった。


『マ、マッテ……』


「おりゃあああああああっっっっ!!!!」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!

 ゴシャグシャベシャゴシャグショッ!!


『ガガッガガ、ギガ、ゴガッ!?!?』


 落下する速度を一切落とさずに、萌香は頭頂部から背骨を伝って腰骨までを、拳の連撃によって砕き続ける。


「万代流奥義──〈雨穿あまうがち〉!!」


 ドゴンッ!!


 そして、ヤテンを殴り抜けた萌香が、地面を殴ることでクレーターを造りながら着地すると、


 ドンッ、ドドンッ、ドドドドドンッ!!


『アガッ、バカナ!? オレハ、ドラゴンダゾォォ!!』


 ドゴォォォン!!!!


 萌香を追いかけるように、ヤテンの骨格を構成する骨が、上から順番に指先まで連鎖的に爆発していき、最後に残った頭蓋骨も盛大に爆発四散していった。


「うし!! 大成功!! ギャル最強!!」


 ガッツポーズを決める萌香の元に、退魔士チームが集まってくる。


「見事にござったな」


「モカちゃん流石です!」


「あの再生能力でも、コレなら復活は無理っすね……」


 労いの言葉に笑顔を向けていた萌香が、表情を引き締める。


「さてと、いい加減、あの厨二少年と話してみなくちゃね……ん? 先に異界の限界が来ちゃったかぁ」


「ござ?」「まぁ?」「何とか終わったっすね……」


 全員が周囲を確認する中で、


──ジジ……ジ……ジジ……。


 異界全体にノイズが走り、世界の境界線が剥がれるように崩れると、萌香達は人界へと戻ってきていた。


「此処は、人界のビル内っすね。

 地下に倉庫用スペースがあった筈っす」


「全員無事だね。ッ!?」

 萌香が桜達の様子を確かめた瞬間、


──ジジジジジ!!

 と、激しいノイズが、萌香のすぐ側で再び発生する。


「はああっ!? 野天じゃん!?」


 慌てて飛び退いた萌香が目を向けると、ノイズが収まった場所には、スカルドラゴンの砕けた頭蓋骨と、人間の姿で気絶する野天の姿があった。


「コイツ……しぶといねぇ?」


「ここまで強力な修正力は久々に見たでござるなぁ」


「この方、粉々でしたよね?」


「恐らく、混沌が世界に霧散する直前に、異界が壊れたっす。

 劣化した混沌が修正力に染まって、失われたカタチが修復されたっすね……ただ、元通りとはいかないと思うっす」


「あ〜、野天からチカラを感じない気がするね……、まぁ、コイツはいいとして、アッチはどうしよっか……」


 そう言って、萌香が視線を向けた先には、所在なさげに佇む、三毛猫状態のマタを肩に乗せた普段着の星司がいた。



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僕の右眼が疼く!! 仮面ライター @kamen_writer

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