夜の象 テールランプも 揺れていた

 今はもう見かけない。10年位ほど前には、タイの夜の繁華街や観光地を歩き回り、観光客からエサやチップをもらってお金を稼ぐゾウが、ワタクシの働く街にもいた。


 ところが、昼だけでなく夜も遅くまでゾウを寝かせないで歩かせるため、覚醒剤を使ってるんじゃないかとか、そうでなくても動物虐待だとかの話があって違法になった、はずだ。ぷっつりと見かけなくなったから。


 その頃、残業を終えて、暗い夜道を走っていると前方の暗闇の中、チカチカ点滅する赤い光が動いて見えた。


「危ない!」


 なんだろうと思っていたら、あっという間に至近距離まで近づいていて、慌ててブレーキを踏んだ。遠近感が完全に狂わされていた。


 前方ずっと暗闇の道だけだと思った空間を占めていたのはゾウの巨体だった。闇夜のカラスならぬ闇夜のゾウだ。あんなに大きな体なのに全くその存在を認識できなかった。


 ついでだが、象の足にはひづめもないから、歩いてもカコッカコッと言う音もしない。足の裏は柔らかくかかとにも脂肪のクッションが入っている。意外なことだが、ゾウはネコのように静かに歩くのだ。もちろん、怪獣映画のようなズシーンズシーンという足音もしない。だから、歩行中に何かものを壊してもしない限り、闇夜にその存在に気がつくのは難しい。


 だからであろう。この象のしっぽには電池式で点滅する赤い反射板が付いていた。まさしくテールランプだった。象が歩くたびに、この赤いテールランプは、右へ左へとぶらんぶらんと揺れていた。このテールランプがなければ、ワタクシはゾウのお尻にバイクごと飛び込んでオカマを掘ってしまうところだった。ひょっとしたら、このテールランプは命の恩人かもしれない。


 そして、実はもう一つの危険がある。当たり前だが、象は動物だ。毎日大量のエサを食べ、大量のウンチ💩をするのだ。


 とある儀式で日中、街中を練り歩く着飾ったゾウを見たことがある。その時のゾウは歩きながらボタボタとスイカほどのウンチを垂れ落としていた。さすがにスケールがでかい。


 でも、もしゾウがワタクシが出会った暗い夜道でウンチを垂れ落としていたならば、イヌのウンチどころではない。一大事である。そんなもの見え養いし、想定外なので、下手をするとゾウのウンチにバイクのタイヤがとられて転倒して大怪我をしかねなかったのだ。おお怖い。


 ということで、交通安全の為にも、動物愛護のためにも、ゾウさんたちは夜出歩かず、ぐっすりお休みいただいた方がお互いに幸せであると思う。


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