なんてこと! 我が血は穢れた血なのか!

なんてこと! 我が血はけがれた血なのか!


 まるでホラーかサスペンスである。でも誤解しないで欲しい。わたしの血に問題はない。幸いにも慢性的な感染症はない。持病もない。


 呪われた一族ではないので、人の生き血が飲みたくなることもない。吸血行為についてはむしろ被害者だ。わたしから吸血する犯人は、人間をもっとも殺している動物、蚊である。


 蚊はさまざまな病原体を媒介して多くの人間の生命を奪ってきた。その中でもっとも恐ろしい病原体がマラリア原虫。その名の通り、マラリアの原因になる非常に小さな寄生虫だ。


 だが、安心して欲しい。わたしは熱帯のこの地で四半世紀暮らしているが、その間、わたしの周りにマラリアにかかった人は一人もいない。だから、正直言ってマラリアには無縁でどんな病気なのか実感が湧かない。なにしろわたしが住むところには他の蚊はいても、マラリアを媒介する蚊のハマダラカがいないのでマラリアもない。


 実はハマダラカは、幼虫であるボウフラ時代、非常に清潔な水でないと生きていけない繊細な蚊だ。わたしのいる国では人里離れたジャングルのうんと奥地にでも行かないとハマダラカ出会えない。そういうことになっている。


 あれは2011年のこと。その存在しないマラリアにわたしは悩まされた。


 一時帰国していたわたしは、輸血用の血液が不足しているらしいと聞いて、地元の献血センターを訪れた。献血のためのさまざまな問診に答えていったが、とある項目で引っかかった。


「4週間以内に、海外旅行へ行きましたか? もしそうなら、どの国のどの地域ですか?」


 わたしは正直につい4日ほど前に〇〇〇〇の〇〇〇〇から帰国したと伝えた。そして、旅行どころかその地に居住していることも伝えた。


「残念ですが、献血できません。輸血での感染症リスクを減らすため、海外からの帰国当日から4週間以内の方の献血はご遠慮いただいています」


「ええ?!」


「加えてお住まいの地域はマラリアの感染者がゼロではない地域なので帰国後3年間は献血できません」


「なんてこった!」


 熱帯某所に住むわたしの血は、帰国後3年間も「みなし汚染血液」扱いになるルールだった。コレじゃ当分日本で献血はできない。マラリアなどの熱帯病のスクリーニング検査が日本の献血センターでできるはずもないから必要な措置なのだろう。


 うーん、残念!

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