隔離中 ヤモリ舌打ち 我は咳

隔離中 ヤモリ舌打ち 我は咳


 わたしはヤモリが嫌いだ。


 ケケケケケケケと美声のスキャットでなくオオヤモリのことではない。和名ホオグロヤモリという小さいヤモリだ。日本のヤモリと大きさも色も姿かたちもそっくりに見える。ただしコイツは日本のヤモリと違い、チッチッチッチッチッと舌打ちするようなこれっぽっちも音楽的でない声で鳴く。


 この舌打ちをするヤモリは窓ガラスによく張り付き、灯火に集まる虫を狙う。そして窓やドアの隙間から屋内に侵入して壁や天井を我が物顔で這い回る。虫を食べる分はかまわない。だが、小魚のアラっぽい臭い糞を投下するのが嫌だ。固めの糞ならティッシュでつまんで捨てるだけだ。だが柔らかい糞は染みを作り汚染するので大迷惑だ。このヤモリは捕獲追放対象の害獣だ。殺すのだけは忍びないのでキャッチ&リリースしている。


 話は変わって昨年三月のことだ。わたしは新型コロナウイルスに感染して十日間、自宅の自室で一人隔離生活を送っていた。食事は部屋の前に置いてもらえたが、対人の接触は厳禁だ。幸いノドの痛みだけで他の症状はなかった。身体がなまるのを恐れたわたしは運動に取り組んでみた。


 おかげでコロナが一気に悪化した。


 わたしはそれから咳に悩まされることになった。夜、部屋で一人コーホーコーホーとキン肉マンに出てくるウォーズマンみたいな咳をしながら思った。尾崎放哉おざきほうさいの有名な自由律俳句「咳をしても一人」の状況みたいだと。わたしは柄にもなく寂寥感せきりょうかんを味わっていた。


 そのときだ。


チッチッチッチッチッ


 わたしのそんな感傷に水をさすアピールがあった。例のホオグロヤモリである。


「たしかに一人きりじゃない。でも、ウンコ垂れのヤモリといても全然うれしくない!」


 そう声を大にして逆アピールしたいが、コロナでノドを痛めていたわたしに大声を出せるはずもなく、またヤモリを追いかけ捕まえる体力も残っていなかった。


チッ!


 やはりヤモリは気に入らない。わたしも大きな舌打ちをした。


 舌打ちをするホオグロヤモリの写真はこちらの近況ノートにて。

https://kakuyomu.jp/users/TokiYorinori/news/16817330661190007197

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