足し算で お釣りを計算 店の人

足し算で お釣りを計算 店の人


 わたしはかつてこの国の小さな店の人の計算方法を体験した。最初は何をやっているのかまったく理解を超えていたのだが……ありのまま起こった事を話そう!


 わたしはとある店で買い物をした。仮に金額が22ゼニーだったとしよう。ワタシは100ゼニー札を出した。当然店の人がお釣りの計算を100-22とささっと引き算で計算すると思ったのだがそうではなかった。店の人は電卓も使わず……いつのまに足し算をしていた。


 何を言ってるのかわからないと思うし、わたしも一瞬目の前で何をされているのかわからなかった。


 日本の詰め込み教育で徹底的に計算ドリルの宿題を出された世代や、公文式や百ます計算で鍛えられた人は一瞬で100-22=78と暗算できてしまう。そうじゃなくても筆算の引き算で計算すると思う。


 ときろが、その店の人の計算はこうだ。まず品物の値段を声に出す。


「22」


 次にトランプで賭け金をレイズするように100ゼニーを超えない範囲で大きな紙幣を場にに出す。この場合は50ゼニー札だ。商品の値段に50を加えた数を言う。


「72」


 これではまだ100ゼニーに足りない。さらに20ゼニー札を上乗せレイズして足した数を言う。


「92」


 まだ100ゼニーに届かない。ここから先は紙幣ではなく硬貨だ。5ゼニー玉を上乗せレイズして足した数を言う。


「97」


 あとは1ゼニー玉を出して順に足していくのだ。


「98、99、100! はい、これがお釣りね。50+20+5+3で78ゼニーのお釣り!」


 お気づきだろうか? この店の人は繰り下がりどころか引き算も使わず、足し算のみでしかも繰り上がりすら使わずにお釣りの計算をやってのけたのである! これが足し算のみでお釣りを計算する方法だ!


 ちなみに50ゼニー札がなければ20ゼニー札を何枚も出すことになるのでこうなる。


「22、42、62、82」


 ここから先は紙幣ではなく硬貨だ。10ゼニー玉、5ゼニー玉、そして1ゼニー玉の出番だ。


「92、97、98、99、100」


 そこおもむろに釣銭を数えるのだ。


「お釣りは20+20+20+10+5+1+1+1=78。で78ゼニーだよ」


 この足し算での釣り計算は時間はかかるが確実な計算法だと言える。


 だが、このようなお釣りの計算方法は過去の遺産となりつつある。コロナ流行以降の現在ではごく小さなお店までQRコード決済でのやりとりが盛んだ。


 人々の計算能力がさらに退行していくのもやむを得ない時世である。

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