覚悟

時刻は11時20分、沢田と巻町は一先ず警視庁から離れ、一岡が最近まで勤めていた工場へと足を運んでいた、しかし、「他に何か可笑しな様子とかありませんでした?」 「いえ、これと言った事はありませんよ、真面目に作業していましたから。」巻町は幾つかの作業員に話を聞き込んだがそれと言った怪しい行動は誰一人と知らなかったの一点張りで低迷していた、いや、むしろ工場で働く皆が自分達に協力的ではないように見えた、困惑しながら巻町は沢田の元まで駆け寄った、「駄目です、一岡について知る人物は誰一人」 「巻町!」沢田は突然巻町の話を遮った、「あいつが皆に指示したんだろう」巻町は沢田の見つめる視線にゆっくり目を向けると、視線の先にいたのは工場長だった、「まさか工場長が警察に協力するなと伝えたんですか」巻町は首を傾げながら疑問を投げ掛けた、するとじっとしていた沢田が突然その工場長の元へと歩いていった、「ちょ、待ってください、自分には未だ理解が」沢田は作業場から少し離れた工場長への部屋の前へと着いた、その場には工場長が居座っている、工場長は随分と寂れたパイプ椅子に座り込み新聞を読んでいた、「すいませんが、少しお話よろしいですか」沢田は新聞に目をやっていた工場長に躊躇なく話を伺った、「先程お話した通りですよね、彼について私は何も」 工場長は少し苛ついた様子で新聞を閉じて立ち上がると沢田の顔を見て訴えた、すると沢田は工場長の着る作業着の胸に付けられた名札に目を向けた、「迫水さん、未だ未だ聞きたい事が残っています」そう言うと迫水という工場長は思わず名札に目線を落とした、沢田は堅くなに表情を変えることなく迫水に問いかけ詰めよった、「私は何も知りません、彼について話す事はもうありません、帰ってください。」迫水は強い口調で沢田に言い放った、巻町は気まずそうに間に入り込み沢田に帰ろうと伝えたが、沢田は否定した、「私は一岡の使っていた機械を見ましたが、古く寂れているこの工場の中でも特に手入れが成していて、一岡は随分と仕事熱心だったんだと使っていた機械を見ればすぐにわかります。知らない筈がない」すると迫水は顔を伏せしばらく黙り込んだ、すると次の瞬間、工場長の部屋の中に置かれている小型のテレビから突然でかいサイレン音が鳴り出した、そのサイレン音にその場にいた誰もが身体の底からゾッとした感覚になった、慌てて迫水はテレビを確認しに行くと、沢田と巻町も気になり着いてきた、「何が起きてるんだこれは!」沢田はテレビから映し出される映像を見ると思わず驚愕した、「たった今入ってきた速報をお伝えします、11時30分頃新宿区東京都庁内から爆発が起きたと通報がありました、現在がわかり次第お伝えします、あ!、たった今現場と中継が繋がりましてお繋ぎします」工場長の室の周りには人が集まり慌ただしくなった、「沢田さんすぐに本部へ連絡します!」そう言うと巻町は部屋から駆け込んで出ていった、テレビを見つめる沢田はしばらくの間思わず言葉が出なかった、テレビから映る現場の映像は昨日爆発が起きた渋谷スクランブル交差点よりも甚大な被害がであることが伝わってきた、「刑事さん、一岡についてお話しします」突然映像を見ていた工場長の迫水が眞鍋に向けて口を開いた、そして沢田の方を振り向くと迫水は深く頭を下げた、「私は、私は、私は!私は!私は!彼を止めることが出来なかった、だから貴方に彼を止めさせてください!」迫水は涙ぐみながら沢田に気持ちをぶつけた、「話してください、一岡は事件前に何を企んで、どのような人間だったのか。」





警視庁会議室内では爆発が起きて数分後には現場は騒然としていた、そして捜査員達は爆発を食い止める事が出来なかった悔しさをぶつける者も現れた、「畜生!」 「落ち着け!岡本!」 「落ち着けられるか!俺達は助けられなかったんだぞ、落ち着いてなんかいられらるか!」その岡本の言葉に余計に現場は騒がしくなってしまった、荒々しくなる会議室になっていると次の瞬間「バン!」会議室の前からでかい音で机を叩く音が一発鳴り響いた、誰もが音のした前を振り向くと、机に手をつけたまま立ち上がった牧田の姿が見えた、「お前ら刑事だろ!刑事が諦めたら被害者の無念はどうする、まだ終わっちゃいない!何としてでも容疑者逮捕する、それが我々の仕事だろ、」牧田はこれまでに見せることのなかった強い口調で低迷する捜査員達に訴えかけた、しばらく会議室の中は静かな空気へと変わった。

「プルルルル、プルルルル」静かな空気の中いきなり会議室の携帯機が鳴り出した、「一課長!犯人からの電話です」そう話すと、牧田はすぐさま電話を準備した、「繋げてくれ」

通話を音にした瞬間加工された声で電話の奥から声が聞こえてきた、「警察の皆さん、先程の爆発見てくださいましたか、私が要求した時間から二時間が経ちました、しかし依然として対応は変わらなかった、都庁爆発は貴方達と政府への警告です、」 「警視庁捜査一課長の牧田だ、お前の事は着々とわかっている、一岡、」牧田は対抗するかのように一岡に言い詰めた、捜査員達は息を呑んで電話に集中した。




その頃スタジオでは、「これを見てわかったろ!」テロリストが占拠され速報を伝えるのに送れていたが、木村の話した爆発がまた起きる事について予言が的中していた、「坂口さん、これ彼が話していることは現実に起きることなんじゃないんですか」裏スタジオで構える坂口は都庁爆発の速報で驚きを隠せずにいた、「木村さん、何故爆発が起きるとわかったんですか?」新堂はカメラの事を忘れただ夢中で木村に問いかけていた、すると木村は突然数秒間沈黙した、「わかった、新堂さん話します。爆破事件の犯人は私の兄です。」新堂は驚きを隠せなかった、「木村さんのお兄さんがあの爆破事件の犯人なんですか!」もう一度新堂は問いかけると木村はゆっくりと頭で頷いた、「兄が着々と計画を経てていたのはまさかとは思ったが、薄々気がついてた、俺は兄の計画を止めさせたい、どんなに愚かな事なのか、それを伝えたかった」木村の話した言葉にスタジオにいた誰もがじっと木村に賛同するかの様に静まり返った、すると裏スタジオのドアから突然ノックする音が聞こえた、ドアを開けるとテレビ局員の一人がプロデューサーの坂口を呼び出した、「坂口さん、今すぐに来てください」 坂口は慎重にスタジオの外へと出ていった、「一体何のようだ?」 「SATが到着したと、現場の状況を教えて欲しいと」足早に廊下を歩く局員に坂口は頭を抱えていると、2人の足は突如止まった、廊下に繋がる階段のドアから出てきたSAT数人かが、前からこちらに向かって歩いてきていた、「リーダーの真壁です」慌てて坂口も名前を交わした、「プロデューサーの坂口です」強面でいかつい体格の真壁に坂口は思わずビビっていると続々と隊員達が集まってきた、「それで現場はどこです?」。



11時42分、会議室では緊迫とした犯人の電話は続いていた、「未だ爆弾は都内の何処かに設置しています、貴方達はこれからの行動に気を付けなければ何時でも爆破しますよ、」 「ぢ、ふざけやがって」岡本は犯人の言葉に怒りを隠せなかった、「どうすれば爆弾は解除できる、一つだけでも教えてくれ」 「解除する方法はただ一つ、これから一時間後に新宿駅のロッカーに現金10億を詰め込んで立ち去ること、金はその場で確認する、もし下手な真似をしたら爆弾を起動させる、10億が手に入ったら一つ爆弾は解除する、」 「他の爆弾はどうするきだ?」牧田は恐る恐る問いかけた、「残り爆弾は、榊原内閣の解散を決断しない限り爆発は続ける、話しは以上だ」 「待ってくれ、未だ話しは」通話は途中で切れてしまった、通話が終わると牧田の横に座る上山はすぐに立ち上がり話し始めた、「これからすぐに現金を用意し、新宿駅へと捜査員は待機しろ」 「ですが10億なんてそんな金何処にあるんです?」 すると牧田も同じく立ち上がった、「ざっとで良い、ある程度の大金は詰め込んでおき、一岡が現れた瞬間すぐに逮捕しろ、いいか失敗は許されない、これは大きな確保のチャンスだ!」

「はい!」一斉に捜査員達は応えると準備へと進め始めた。





政府官邸では、大勢のSPに囲まれながら入り口へと出てきた首相の榊原は地下駐車場入口付近に止めてある車両へと乗り込んだ、「偉いことになりましたな、総理」 「はぁ、全くだ」後部座席には先に首相補佐官の三ノ原が乗り込んでいた、「今回の爆発場所はまさかの都庁です、これは国家テロだと判断するべきです」 険しく話す三ノ原に榊原は余り聞く耳を持たなかった、「近江幹事長からも大至急記者会見を開くべきだとの事です」

「だとしたら都民にはどう伝えればいい?」榊原はじっと走る車の窓の外を見ながら考え込んだ、「先程の爆発で都知事も巻き込まれたとの情報もあります、今は総理にかかっていますよ。」

「犯人の目的は内閣の解散だと言ってる、まさかあの事で犯人は」すると三ノ原は榊原の膝を叩き喋ることなく首を振った、「とにかく大至急会見を開きます。」

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東京占拠 たけ @Takesaku0001manabu

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