魔法少女アロンガンテの帰還
イニーと桃童子が戦ってる頃、アロンガンテたちはテレポーターを使い、妖精界へと帰ってきていた。
回復魔法で疲労を誤魔化していたが、無事に帰って来られた事により気が抜け、要人たちは倒れこんでしまった。
無事なのは魔法少女であるアロンガンテと、妖精たちだけだ。
「あなたは!」
「話は後です彼らを全員病院に運んで下さい。それと、アシュリーたちは……」
「こちらの報告はしておきます」
「ありがとうございます。礼は後程」
アロンガンテも出来る事なら休みたいが、直ぐに拠点に戻らなければならない理由があった。
もしもの場合に備えて残して置いたマニュアルだ。
それがあれば1週間は持つと思っていアロンガンテだが、冷静に考えてみた結果、自分以外では無理だと結論を導き出していた。
知り合いの妖精に頼み、アロンガンテは拠点へとテレポートした。
「アロンガンテさん!」
「ただいま戻りました。何か事件とかは起きていませんか?」
アロンガンテに気づいた受付の妖精は、驚きながらアロンガンテの名前を呼び、嬉しさから少し泣きそうになる。
「白樫さんと、ゼアーさんのおかげで今の所滞りなく業務は進んでいるそうです。ただ、桃童子さんの抜けた穴が大分大きく、そちらは手が足りていない状態です。ところで……」
「教えて頂きありがとうございます。詳細は後で教えますので、今は失礼します」
受付の妖精が何を聞こうとしたのかを察したアロンガンテは話を切り上げ、自分の執務室へと向かった。
あの場に残ったイニーと桃童子の事が、気にならないと言えば嘘になる。
ただ1つ分かっている事は、桃童子がもう帰ってくる事が無いってことだけだ。
アロンガンテには桃童子がどの様な状態なのかは分からなかったが、回復魔法が効かない状態の意味は分かっていた。
イニーや要人たちが居たので、感情をあまり表には出さなかったが、誰も居なければ泣いていただろう。
仕事柄冷たい印象を抱かれる事が多いアロンガンテだが、人並みの感情はある。
共に戦ってきた仲間が死ねば、涙だって流したくもなる。
だが今はそんな暇もない。
「戻りました」
「……やっと帰ってきたのね。報告はこれをやりながらにしましょう」
アロンガンテの執務室には机が追加で2個増えており、白樫とゼアーが仕事をしていた。
アロンガンテが使っていた机には少しの書類と、大量のメールが溜まっている。
アロンガンテは椅子に座り、直ぐに仕事を始めた。
「それで、何があったの?」
「会議に出席していた中に、魔女に買収された者が居たらしく、特殊な洞窟に閉じ込められていました。私たちが居なくなってから、そちらで動きはありましたか?」
「何もなかったわ。ただ、結構な地位に居た人たちが一斉に居なくなったせいで騒ぎにはなったけど、帰ってこれたなら直ぐに収まると思うわ」
「……そうですね」
少し間が空いたいた後にアロンガンテは答えたが、その様子から、全員無事ではななかったのだと白樫は察した。
「被害は?」
「インドの官僚と、オーストラリアの外務大臣。それと――桃童子さんです」
白樫とゼアーの腕が一瞬止まる。
桃童子の死はそれだけの衝撃がある事だった。
「閉じ込められたのは50もの広場と、それらを繋ぐ通路で形成された洞窟でした……」
アロンガンテは洞窟で何があったかを話した。
食料や水がない状態での約3日間の出来事。
イニーのおかげで休むことはできたが、いつ死ぬか分からない恐怖は、容赦なく要人たちを蝕んでいた。
いつ終わるかも分からない洞窟での生活。
倒した魔物の数は万を超え、SS級だけでも100を超えていた。
あと少しの所で倒れた、オーストラリアの外務大臣。
そして、倒れた外務大臣を本人の希望で殺したイニー……。
後少し。そんな希望を打ち砕く、最後に待ち構えていた最悪の魔物――天使――。
そんな天使を相手に1人で立ち向かった桃童子。
戦いこそ見ることは出来なかったが、片腕を失って立ち尽くす姿は、未だにアロンガンテの目に焼き付いている。
自分よりも圧倒的に強い桃童子をしても、無事では済まなかった。
その事に恐怖もしたがそれ以上に感銘も受けた。
色々と言いたくもあったが、桃童子の圧に負け、速やかに帰還した。
――イニーを残して。
「正直誰か欠けていたら、帰ってくる事は出来なかったでしょう。幾度か諦めかけたりもしましたが、桃童子さんとイニーのおかげで、なんとかなりました」
「本当によく帰って来られたわね。しかもあの人数を守りながらでしょう? 桃童子の件は残念だけど、魔法少女の世界ではよくあることだからね」
魔法少女が死ぬ事は、今の世の中ではよくあることだ。
魔法少女を辞めれば良いのだが、戦わなければ誰かが代わりに死ぬ。
生きるためには戦わなければならないのだ。
大切な誰かを守るために。
「ああ、なるほど」
話を聞いていたゼアーは何かに思い至ったのか、そんな声を上げた。
「どうかしましたか?」
「うーん。これって機密事項なんだけど、状況が状況だし、教えてあげるわ」
限られた一部の者しか知らない桃童子の限界突破。
諜報に掛けているゼアーが、知らないはずはなかったのだ。
「アロンガンテも不思議に思ってると思うけど、桃童子では天使に勝つことは不可能だわ」
「――はい」
桃童子の事を侮辱するのか、と怒鳴りそうになったアロンガンテだが、戦いが始まる前はそう思っていた。
3人で戦っても勝てる確率は低い。
いや、仮に勝ったとしても無事に戻ってくることは出来なかっただろう。
「先ずだけど、アロンガンテが知っている天使の情報って公式のやつだけよね?」
「はい。桃童子さんの戦闘記録は、見ることができませんでした」
「あれね、とある理由で一部隠蔽されているのよ。それも飛び切り酷い能力がね」
魔物の情報は誰でも回覧出来るのだが、一部の情報は一定の順位や、強さがなければ回覧することができないようになっている。
たとえばだが、その魔物に殺された魔法少女の数や、初めて討伐した魔法少女の名前などだ。
たが極僅かだが、能力や存在すら秘匿されている魔物が存在する。
その中に天使も含まれていた。
公開されている天使の能力は、純白の姿をした死ぬ前までの能力だ。
死んだ後の、堕天使の能力は限られた極一部の魔法少女にしか教えられていない。
その理由は、堕天使の能力である魔力汚染のせいだ。
天使と戦えば、戦った魔法少女は魔力に汚染されるだけではなく、天使が撒き散らした魔力は結界が解除されても残るのだ。
それを知るのは討伐に当たった桃童子だけだが、当時からランカーであり信用出来る桃童子の言葉だ。
信用に値するだろう。
何より、もし堕天使の能力を公表した場合、何故桃童子が無事なのかと問題になってしまう。
楓の判断により、全ては闇へと葬られたのだ。
存在自体が人類へと仇なす最悪の魔物。
そして自分を更なる高みへと至らせた最良の魔物。
それで名付けられた名前が天使であった。
「戦った魔法少女は勝ったとしても生存できないだけではなく、辺り一面も汚染されてしまう。それが天使のもう1つの姿。堕天使よ」
「……確かにその情報を知っていたら、あの姿を見た瞬間、全てを諦めていたかもしれませんね」
「勝っても周囲は汚染されるから、桃童子が居なければ天使が現れた時点で、負けだったでしょうね」
アロンガンテは手を休める事無く動かしながら、当時の事を思い出す。
イニーが作り出した道を通り、天使へと一直線に向かう桃童子。
僅かに見えた表情からは悲壮感や死地へ行く覚悟の様なものは感じなかった。
イニーは、桃童子がどうなるのかを知っていたのだろうか?
(知っていたのでしょうね……。だから私を行かせなかった)
「戦いが終わった後桃童子はどんな感じだった?」
「私が見た時は片腕がありませんでしたが、それ以外はいつも通りでした」
「……それはおかしいのよね。まあ、その事はおいといて、次は桃童子がどうして勝てたか教えるわ」
桃童子が初めて天使と戦った後、どうして無事だったのか?
これは桃童子の言葉と、ゼアーの推論からなるのだが、桃童子が自身の肉体でのみ戦う魔法少女だったのが要因の1つだ。
汚染された高濃度の魔力は魔法少女では変換出来ず、魔力として外に出すのが難しい。
だが桃童子は魔力をその身に宿して戦うたため、堕天使が相手でも戦うことができた。
それでも堕天使に勝つことは出来ないのだが、そこで桃童子は周りにあった魔力を大量に取り込んだ。
そんな事をすれば死ぬか、化け物になるのが関の山だったが、桃童子は耐えた。
限界を超えた強化をすることで至ったのが桃童子の阿修羅だ。
肉体の限界を超えた強化はそれ相応のデメリットはあるが、その強さは折り紙付きだ。
最後は堕天使を一方的に屠ってみせた。
戦いの後はジャンヌの尽力のおかげで一命を取り留めた。
「勝ったとしても、その先に待つのは死。魔女も惨い事をするわね」
「そして、魔力による汚染を人為的に抑えているのだから、やがて限界が訪れる。そうなれば魔物と同類になるはずだったんだけど、そんな様子は見られなかったのでしょう?」
「はい。いつもと変わらぬ様子ではありましたが、とても落ち着いた……死期を悟った感じでした」
その点だけがゼアーは不思議であった。
ゼアーの記憶には魔女が使う薬の事も記憶されている。
桃童子が限界を迎えた場合、魔女の薬と同じように魔物化すると、ゼアーは思っていた。
(いえ、もしかしたらアロンガンテたちが帰るまでやせ我慢していたのか、それとも何か私が考えていた以上に、桃童子に余裕が有ったのか……)
そんな事を考えていると、アロンガンテが最初に言っていた言葉を思い出した。
「……イニーってその場に残るって言ってたのよね?」
「はい。理由は話してくれませんでしたが、有無を言わさぬ凄味がありました」
「因みに、イニーに余裕は?」
「私もそうでしたが、広場へと入った段階でギリギリだったと思います」
(…………いや、ないわよね)
いや、流石にそんな馬鹿なマネをイニーがするかと考えたが、死に体の状態でそんなことをするとは思えなかった。
そんな馬鹿なマネとは、桃童子相手に戦う事だ。
単純に桃童子がやせ我慢しているだけだとしても、隔離されている洞窟の中ならば、桃童子を置いていくのが正解だ。
桃童子ならば、自決するだろうとも思う。
ある意味裏ボス的存在に喧嘩を売ることはないだろうと、ゼアーは思った。
思ったのだが……。
アロンガンテの端末が鳴り、3人とも静かになる。
アロンガンテは着信の相手を見て、スピーカーモードにしてから出た。
「もしもし」
『ああ。多分繋がると思ったが、正解だったようだね』
相手はジャンヌだった。
何故ジャンヌが掛けてきたか分からないが、3人はとある予感があった。
「はい。お騒がせしてすみませんでした」
『相手は狡猾だから仕方ないさ。挨拶はこれ位にして、イニーが血塗れでアロブヘイムのテレポーターに倒れていたのだが、何か知らないか?』
ゼアーは思った。
(あの桃童子相手に勝ったの!? アルカナすら十全に使えないはずだろうに……イニーって私が思っている以上に異質なのかしら?)
時間がある時はイニーの事を調べたりもするゼアーだが、他の魔法少女みたいに影に入って調査をしたりはしない。
調査しようにも、アクマの探知に引っかかるので、出来ないのだ。
そのため、イニーの第二形態や
「……予想はつきますが、後で報告を纏めます。命に別状は?」
『衰弱しているけど、安静にしていれば問題ないね。アロンガンテは大丈夫なのかい?』
「直ぐに倒れる程ではないです。私の認可が必要なものを終わらせたら休もうと思います」
『そうか。邪魔するのも悪いし、これで失礼するよ……最後に1つだけ。イニーが桃童子の籠手を持っていたのだが、そう言う事かな?』
「……おそらくはそうだと思います。私も最後まで現場にはいなかったので」
『そうか……。あまり気にするな……とは言えないが、これも魔法少女ならよくある事さ。それじゃあ』
通話が切れるが、誰も声を出そうとはしなかった。
ゼアーが話した事と、イニーの状態から何があったのかを察するのは簡単だった。
イニーは桃童子と戦い、帰ってきた。
そして倒れていたのはイニーだけ。
桃童子がどうなったのかは、考えるまでもないだろう。
「私が……」
「無理でしょうね。勝てる……戦いになるのはブレード位じゃないかしら?」
イニーが桃童子を殺した。
その役目は自分がやるべきだったとアロンガンテは思ったが、アロンガンテでは桃童子に勝つことは不可能なのだ。
「落ち込んでないでしゃんとしなさい。終わった事をいつまでも考えても仕方ないわ。後はイニーが起きてから話しましょう」
「……そうですね」
いつ死ぬか分からない洞窟から帰還したとはいえ、アロンガンテは仕事をしなければならい。
報告は妖精のアシュリーに頼んであるが、アロンガンテも報告書を書いたり、要人たちの国に連絡を入れなければならない。
何よりも、魔女の動きが一番気掛かりであった。
世界の終わりは、もう間もなくだ……。
魔法少女名:イニーフリューリング
(日本)ランキング:不明
年齢:11歳
武器:杖
能力:攻撃魔法+回復魔法。(その他不明な能力が多数)
討伐数
SS以上:不明
S:不明
A:不明
B:不明
C:不明
D:不明
E以下:不明
ハッキングを開始。プロテクト解除。SYSTEMによる介入を開始。情報を開示します。
魔法少女名:イニーフリューリング
契約中のアルカナ:悪魔(愚者)・恋人
本名:榛名史郎
(日本)ランキング:不明(無し)
年齢:11歳(26歳)
武器:杖+剣(条件下で全ての武器)
能力:攻撃魔法+回復魔法。その他多数の能力
討伐数
SS以上:204
S:119258
A:2040344
B:8789261
C:4313768
D:1763767
E以下:978545
備考
様々な因果が絡み合い誕生した唯一の希望。
残された数少ないアルカナのほとんどと契約を果たした、最後の契約者。
再生と破壊を身に宿した歪んだ魔法少女。
特殊な条件で魔法少女になったため、基礎能力は他の魔法少女に比べて圧倒的に低いが、その身から溢れ出る
本来ならば彼女は世界に現れる事無く消えるはずだった……されど、失われていった存在がアクマを導いたのだろう。
どうか彼女が堕ちることなく、真っすぐに歩めることを願う。
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