魔法少女と死への旅路

 アロンガンテさんと桃童子さんが帰ってきてからもたらされた情報は、結構酷いものだった。


「最低で魔物のランクがA級で、罠まであるのか?」

「はい。それと、分かれ道も多数有り、此処と同じ様な広場が在りました」

「うむ。こちらも1つ確認しておるが、中にはイレギュラーと思われる魔物が鎮座しておった」


 通路には魔物が徘徊し、更に罠もある。


 広場には強力な魔物。

 

 魔女は生きたかったら頑張れと言っていたので、クッキーの破片位の有情を残しているはずだ。

 おそらく、広場の敵を倒せば、そこをセーフティーゾーンとして使えるようになるのだろう。


 今の所、この広場には魔物が湧いていないからな。


 だが、何かしらデメリットもあるはずだ。


 例えば、セーフティーゾーンは1つしか作れないとかな。


「ならば、我々は此処で待機し、あなたたちに全ての魔物を倒してもらってから移動するのが得策ですかな?」

「……いえ。それは止めておいた方が良いでしょう」


 アロンガンテさんは少し悩んだ末、提案を断った。

 提案した男は何故と、眉を顰める。 

 

「これは予想ですが、此処の様な安全地帯を複数作る事は出来ないと思います。私や桃童子さんが見つけた広場の魔物を倒す度に、古い安全地帯が無くなると思いませんか?」


 これはゲーム的な思考だが、魔女ならそうするだろうと思う。


 それに、魔法少女とは言え、往復するとなると時間が必要だ。


 もしも片道3日とかなれば、要人たちは耐えられないだろう。


「そうか……」

「魔女め……必ず捕まえて殺してやる」

「計画は成功とは言え、これでは全て台無しではないか」

「いや、イニーフリューリングと接する時間が増えたと考えれば、完全に悪いと言うわけでも……」

 

 数人がこそこそと話しているが、勿論しっかりと聞こえている。

 馬鹿はどこでも馬鹿なのだ。

 

「アロンガンテさん。食料と水ですが……」

 

 アロンガンテさんを呼び、耳打ちする。


 アロンガンテさんは僅かに顔を顰めた。


「そうですね。もしも脱出が長引く場合、重要な問題となりますね。食べ物がなければ動く事も、戦うことも出来なくなってしまいます。速やかに行動した方が良さそうですね……」

「妖精たちも、物をしまっている異空間を開けないみたいです。それと、飲み水だけは私が用意できます」


 攻撃以外での魔法は消費魔力が大きくなってしまうが、生きるためには仕方ない。

 それに、アロンガンテさんと桃童子さんが居れば、急に俺の出番が来ることもないだろう。


 そして、他の方々には悪いが、俺にはソラが居るので稼働できる期間は他の人より長い。

 更にソラに栄養を送るのと、もしもの場合に備えて、ローブの袖の部分にレーションが少し入っている。


 本当に使う機会が来るとは思わかったが、備えあれば憂いなしだ。


「不幸中の幸いですね。少し待っていて下さい」


 アロンガンテさんが俺から離れ、再び要人たちと話し合いを始めた。


(因みに、洞窟の構造とか分かりそうか?)


『半径10メートル位が限界かな。解析を頑張ってみるけど、期待しないでね』


(了解)


『それと、その内そこの男たちから接触があると思うけど、下手な事を言わないようにね』


(大丈夫だ。忘れているかもしれないが、俺は26の男だぞ? 対人経験はそれなりにある)

 

『だと良いんだけどね』


 多少肉体に引っ張られてるとはいえ、思考などは特に変わりはない。

 怒鳴られようが、殴られようが、俺が動じる事なんてないだろう。


 アクマが不安を煽ってくると、逆に安心出来てしまう。

 

「残りたい方は残っていただいて構いません。しかし、移動した方が賢明だと思いますよ? なにせ、魔女による被害は数万人を超えていますので、悪辣なトラップが此処にも仕掛けられている可能性がありますからね」

「……分かった」


 どうやら話し合いも終わったみたいだな。

 この内何人が生き残れるのだろうか?


「先頭は桃童子さんとイニー。後衛は私が勤めます。皆様は中央にお願いします。先ずは桃童子さんが探索した通路を進みます」

「うむ。了解したのじゃ。全員ゆくぞ!」


 おっと、俺も前に行かないとな。


 桃童子さんの少し後ろに付き、一緒に歩きだす。


 通路は横幅10メートル。高さは5メートル位かな?


 一番怖いのは避けられない程の攻撃をされる事だな。


 俺たち魔法少女は各自防げるだろうが、ただの人では、下級の魔物の攻撃でも致命傷となる。

 

 後ろに攻撃がいかないように、ちゃんと防がなければならない。


 毎度毎度、俺だけやたら不利な状況にされるが、魔女は狙ってやっているのだろう。


 どうせ今も何処かで、この状況を見ているはずだ。


「ふん!」

「見つけました」

 

 桃童子さんは拳で。アロンガンテはビットや低出力のレールガンで、魔物を倒していく。

 現れるのは推定A級や、たまにS級と思われる魔物だ。


 俺1人りでは辛いが、流石ランカーと言ったところだろう。


 とは言ったものの、俺にもちゃんと仕事がある。


放出ショット


 空中に待機させている氷槍を撃ち出し、こちらに飛んできた岩を砕く。


 戦闘の余波で飛んでくる岩や石を、要人たちに当たらないように防いでいるのだ。


 歩き始めて10分程だが、魔物の種類は様々だ。


 一番面倒なのは無機物系の魔物だな。

 死んだからといって、瞬時に塵へと変わるわけではないので、飛び散った破片が後ろにも飛んでくるのだ。


 しかも、当たれば致命傷になる程の物がだ。

 速やかに倒し、進むためには仕方ないとは言え、もう少し後ろにも気を使って欲しいものだ。


 しかしこの頻度で魔物に襲われると、厳しくなりそうだな。

 魔法少女とはいえ、戦い続ければ魔力は減るし、疲れもする。


 更に、いつ魔物に襲われるか分からない緊張感もある。


 ついでに、罠が地味に面倒だ。

 どれもこれも、しっかりと命を狙ってくる。


 肉体の疲れは徐々に表れるが、精神的な疲れは急に表れる。


 まあ、そこら辺は俺が回復出来るので、心配する程のものではないな。

 

「止まるのじゃ」


 通路の終わりが見え始めた頃、桃童子さんが止まった。

 

「どうかしましたか?」 

「作戦会議と言うわけではないが、今回はわらわ1人で行かせてもらっても良いか?」

「どうしてでしょうか?」

「ちと確認したい事があってのう。イニーは出来れば通路から援護を頼む」


 なんとなくだが、桃童子さんが何を考えているのか分かるが、まさかな?


「それでは行ってくるのじゃ」


 桃童子さんは軽く地面を踏み込むと、凄い速さで去ってしまった。


 ……援護しろと言ったのに、何故俺を置いていく。

 とにかく、追いかけないとな。


「私も行ってきます」

「はい。大丈夫だとは思いますが、お気をつけて」

 

 桃童子さんとは違い、トテトテと言った感じの走りで広場へと向かう。


(魔物の情報は?)


『馬型と人型の2体からなる、人馬一体の魔物だよ。勿論SS級だし、弱い魔法少女なら近づく事すら出来ず、一太刀の元にさよならだよ』

 

(人馬一体ね。魔法は使うのか?)


『勿論だよ。しかも珍しい事に、複数の属性魔法を使うよ。前にハルナが戦ったマスティディザイアと同等の厄介さだね。ついでに、識別名は黒雲丸だよ』


 変な名前だが、魔物の名前は最初に遭遇した魔法少女と、魔法少女が所属している魔法局で決めるのが通例らしい。

 つまり、変な名前でも通ってしまう事があるのだ。

 

 それにしても、中々厄介そうな魔物だが、余裕があれば俺が戦いたかったな。

 ともあれ、言われた通り援護と……おや?


(これってもしかして?)


『桃童子が確かめたかったのって、こういう事か』


 魔女の気遣いか、それとも絶望を見せつけるためか。

 桃童子さんが戦い始めると、通路と広場が隔離されてしまった。


 正確には、広場が異空間となっているのかな?

 広場の様子は通路側から確認出来るが、既に荒れ放題である。


 もしもただの広場のままだったら、この後休むためには使えないし、通路にも魔物の魔法によ被害が出ているだろう。

 

 なんなら、余波で崩落が起きてもおかしくない。


(結界の強度は分かるか?)

 

『外側の強度は高くないけど、壊すと中の空間が壊れるように設定してあるね。中に居る桃童子は勿論、通路にも被害が出るだろうね』


 面倒と言うか悪辣と言うか……。


 まるでRPGのゲームでよくあるダンジョンだな。


 とりあえず、桃童子さんが戦い終わるのを待つとしよう。


 それにしても、S級とSS級の差って大きすぎな気がするな。


 間に準とか特とかもあるが、S級は県や州が滅ぼせる位で、SS級は国1つ以上をなので、その差は歴然である。


 SS級の魔物も少し細かい分類があるが、人によってイレギュラーと呼んだり、単にSS級と呼んだりとマチマチだ。


 もう少し細かい分類分けをした方が、討伐をする時の指針になりそうな気もするが、何故変更しないのだろうか?


 何なら数字で10段階とかでも良いと思うのだがな……。

 

 そんなどうでもいいことを考えている間に、桃童子さんが魔物を倒してしまった。

 

 通路と広場を隔てている結界が消え、荒れていたはずの広場は平たんな状態に戻る。


「お疲れ様です」

「うむ。やはり援護は出来ないようじゃな」

「はい。桃童子さんが入ると結界が張られました」

「だろうな。まあ、そうでなければあの様な魔物を押し留めることもできなかろう」


 桃童子さんや魔物がちょっと力を込めるだけで、簡単に崩落するからな。

 魔女も生き埋めは望まないらしい。


「先ずはアロンガンテに報告じゃ。戻るぞ」

「分かりました。その前に治療しておきます」

「うむ。助かる」

 

 流石にSS級となると無傷とはいかない。

 いや、強化フォームにならなかったのを見る限り、力を温存しているのだろう。

 ……しかし、強化フォーム無しでSS級を倒せてしまうのだから、恐ろしい人だ。

 

 来た道を戻り、アロンガンテさんたちに合流する。


 とは言っても、直ぐ近くだがな。


「戻りましたか。どうでしたか?」

「懸念した通りの事態が起きたのじゃ。説明するから全員よく聞くのじゃ」 

 

 桃童子さんは先程俺にした様な説明を全員にした。


 それと、いくつか検証しておきたい事も話した。


 広場で戦える人数や、俺たちが転移させられた広場の現状。

 魔物を倒した後の広場の安全性。

 この洞窟を脱出するまでにかかる時間。

 そして、俺たちが生きられるタイムリミット。


「人である以上、わらわたちは消耗し、腹が減り動けなくなる」

「そうだな。転移された場所が場所だけに食べ物なんて誰も持っていないよな?」


 要人の1人が言葉を投げかけ、俺以外の全員が頷く。


「だろうのう」

「幸い飲み水はイニーが出せるので、その点は不幸中の幸いですね」


 俺も出来ることならこの食料を渡したいが、もしもの場合の備えは大事であり、この少ない食料を巡って争いなんて起こされたらたまったものではない。


「わらわは最初に転移させられた広場に向かってみるのじゃ。こっちの広場はまかせたぞ」

「分かりました。こちらは広場にて待機しておきます」


 桃童子さんは走り去ってしまい、俺たちは先程桃童子さんが戦っていた広場へと入る。


 俺が殿となり、アロンガンテさんが先に広場へと入って、様子をうかがう。


「大丈夫そうですね。直ぐに桃童子さんも帰ってくると思いますが、少し休憩としましょう」

「そうですね……」


 ほんの数十分だが、要人たちの顔には疲れが出ていた。


 ランカーが居るとはいえ、常に死の気配に晒されているのだ。

 疲れてしまうのも仕方ないだろう。

 だが。


癒しよヒールサークル


 魔法陣を床に展開し、全員を治療する。


「身体が……」

「これが魔法か……素晴らしいものだな」

「これで疲労は大丈夫だと思います」


 疲労が無くなる代わりに、多少蓄えている栄養を消費してしまうが、万全な状態の方が良いだろう。

 

「戻ったのじゃ。やはり、前の広場には魔物が居たのじゃ」

「桃童子さんの見立て通りですね。やはり全員で移動するしかなさそうです。それと、長く留まるのもやめた方が良いのですね?」

「うむ。こういう時は、休憩できるからと長く留まるのは危険じゃ。どれだけこの洞窟が長いかわからんが、時間は敵にしかならんのじゃ」


 場慣れしている人がいると、スムーズに計画が進むな。

 だが、こんな特殊な状態なのに、何故桃童子さんは対策を直ぐに立てられるのだろうか?


 ありがたいが、とても謎な人だな。

 

「まあ、疲労についてはイニーのおかげでかなり軽減出来ますが、無理は禁物ですね。運悪く罠に掛かる可能性や、分断される可能性も考慮しておいた方が良いでしょう」


 アロンガンテさんの言う通りだな。

 特に一番怖いのは分断される事だろう。


 3人だから守れているが、1人でも欠ければ負担が増大する。


 それに、俺が欠けた場合回復と飲み水が両方とも得られなくなってしまう。

 アロンガンテさんや桃童子さんは大丈夫だとしても他の人たちは相当辛くなるだろう。


「さて、先ずは進まぬことには始まらぬ。良いかのう?」


 桃童子さんの掛け声にほとんどの人が頷き、再び通路へと向かう。


 それにしても、毎度ながら運が悪い。

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