魔法少女と妖精たちの事情

 10回目の広場での戦い。


 広場を越える度に、魔物やトラップは姿を変える。

 時間で言えば約5時間程だろうか?


 怪我や疲労は回復出来たとしても限度があり、やりすぎは良くない。


 そして、広場での数十分の休み以外戦い続けているアロンガンテさんと桃童子さんは、一度長めに休ませた方が良さそうだ。


「桃童子さん」

「言わずとも分かっておる。ここらが潮時だろう」


 広場での戦いを終えた桃童子さんは強化フォームを解除して、大きく溜め息を吐いた。


 広場の魔物も段々と強くなってきて、流石に桃童子さんでも強化フォームなしでは戦えなくなってきた。


 更に、道中何度か分かれ道があり、どちらに進むか揉めたりもした。

 俺や妖精たちは問題ないが、要人たちの空気は最悪である。


「アロンガンテ。ここらで一度、長めの休憩といこうかのう」

「そうですね。イニーのおかげで忘れてしまいそうですが、魔力も結構減っていましたね」

「待て。休むくらいなら少しでも早く進んだ方が良いのではないか?」


 要人たちとしては、なるべく早く洞窟から出たいのは分かる。

 だが、休憩は俺たちだけではなく、こいつらにも必要なのだ。


「気持ちは分かりますが、休憩は私たちだけではなく、あなたたちにも必要なはずです。回復魔法は万能ではないのですからね」

「しかし、時間の制約がある以上少しでも急いだ方が……」


 また言い争いが始まったか……。

 今の状態を遭難で例えるのはどうかと思うが、遭難した時に大事なのは、無理をせず体力を温存することだ。


 タイムリミットがあるとはいえ、少しの無理が命を奪うのだ。

 

「大変そうだねー」

「人はせっかちだねー」

「……そうですね」


 いつからか、妖精たちが俺の頭や肩の上に、座るようになった。

 妖精たち曰く、此処が一番安全であり、飛ぶのは疲れるとの事だ。


 貧弱な俺の負担を増やすなと言いたかったが、妖精には恩を売っておくのも悪くないだろう。


 アクマが架空の妖精を作り上げていたり、俺が悪いわけではないが、新魔大戦の件もある。


 妖精。妖精界と事を構えるのは、魔女と同じくらい大変だとアクマも言っている。


「あなた方は大丈夫ですか?」

「繋がりは切れてるけど、魔力が豊富だから大丈夫です」

「お腹は減るけど、数ヵ月は生きられるよー」


 やはり妖精は人とは違うのだな。


「3時間位じゃな。それ位休まなければわらわたちの魔力も回復せん。わらわたちに死なれ困るのは、うぬらたちじゃろう?」

「――そうですね。我々も休むとします」

 

 アロンガンテさんたちから少し離れて眺めていると、どうやら話し合いが終わったようだ。

 

「硬くても良ければ。人数分のベッドを用意しましょうか?」

「お願いします。少しでも横になった方が休めますからね」


 適当に魔法を唱え、土で出来たベッドを作り出す。

 プライベートに配慮して壁も作っておいた。


 攻撃に関する魔法以外での消費魔力の上昇と、威力の減少。

 仕方ないとはいえ、地味に嫌なデメリットである。


 これだけでも、2割ほど魔力を消費してしまうのだ。


「見張りは私がしましょう。残り30分になったら交代してもらえれば、私は大丈夫です」

「……分かりました。時間になったら私を起こして下さい」


 今の所広場では魔物が出現していないが、用心するに越したことはない。

 そして、俺が見張りをするのが一番理に適っている。

 

 なにせ、供給量が少なくなったとはいえ、2人と違って休まなくても魔力は勝手に回復する。

 それに、アクマが居るので、魔物の気配もそこそこ探る事が出来る。


「あなた方は休まなくて良いのですか?」

「妖精女王に、もしもの時は力になれと頼まれているので、大丈夫です」

「悪い大人は近寄らせません」 


(どういうこっちゃ?)


『イニーを我が物にしたい人が話し掛けてこないように、見張ってるってことでしょ。一応この2人はそれなりに、高い地位に居るからね』


 確かに、今は俺に話し掛ける絶好の機会だ。


 大人ってのは狡くて汚いものだ。

 どうやって楽に利益を得るかを考え、どうすれば他者より先に行けるかを考えている。

 

 俺がそうだったのだから、政治家なんてもっと酷いだろう。


 頭の回る人間なら、今を見逃がすはずがない。


「そうですか。無理はしないようにお願いします」

「居るだけなので、大丈夫です」

「何もしない仕事ですー」


 アシュリーは、アロンガンテさんの拠点に居た妖精と同じく真面目系であり、もう片方……。


「そう言えば、あなたの名前はなんですか?」

「ミリーと呼んで下さいー」


 このミリーは喫茶店に居た妖精と同じく、ふわふわ系だな。


 これでそれなりの地位に居るってんだから、驚きである。


 そう言えば、妖精女王がどうのと言ってたな。


「先程妖精女王が、もしもの時は力になれと、命令されてると言っていましたが、どういう事ですか?」

「いやな気配がするので、もしもの時は魔法少女の助けになれと言っていました。特に、あなたについては悪しき者が近付かない様に見張れと」


 会った事もない妖精。それもトップに気を使われるとは思わなかったな。

 妖精の能力は当てに出来ないが、地位ってのはそこにあるだけで役に立つ。

 

 面倒事は嫌なので、今回はありがたく使わせてもらおう。


 数十分位の間、2人の話に付き合っていると、ベッドから起き上がる奴がいた。

 どうやら、頭の回る馬鹿が動き出したようだ。

 

(一応情報を頼む)

 

『アメリカの魔法局本部の副局長だね。名前はカイン・ホーエンス。黒い噂が絶えない屑だよ』 

 

 直接屑と言われるって事は、間違いなく敵側の人間なのだろう。

 

「やあイニーフリューリング」

「どうも。休まなくて大丈夫ですか?」

「この歳になるとやはり固い床は辛くてね。誰かと話していた方が休めるのだよ」


 好々爺に見えるが、値踏みするような視線位隠せば良いのに……。

 それとも、俺が幼いからって侮っているのか?

 

「寝られないとしても、横になっていた方が良いのではないですか?」

「まだまだ先は大変ですー」

「そう言わないでくれ。少し話したら戻るさ」


 笑ってはいるが、苛々しているのが丸わかりだ。


「話といっても、私からは何もありませんが?」

「少し聞きたいことがあるだけさ。私は君が居た施設の件で心を痛めていてね。なるべ沢山の子が救われるように動いてるんだ。出来ればで良いのだが、君が居た施設の事を少しでも良いので教えてくれないかい?」


 言っている事はまともだが、その裏の理由なんて馬鹿でも分かる。


 こいつが欲しいのは俺ではなく、俺の能力なのだ。


 出来れば直接的な聞き方をしたいのだろうが、妖精が居るので遠回しに聞いているのだろう。

 俺の居た施設を探し出し、そこから情報を集める。


 そんな事を考えているのだろう。


 だが、こんな事もあろうかと、アクマに台本を作ってもらっている。

 

「逃げるので精一杯だったので、周りの事は何も。ただ、私以外の生き残りは誰もいないと思います」

「そうか。因みに、何故居ないと思うのだね?」

「私の番号が1番だったからです」


 俺の答えを聞き、カインは押し黙った。

 何を考えているのか分からないが、どうせろくなことではないだろう。

 

「これ以上イニーを傷つける質問をするなら、報告させて頂きますよ?」

「――そんなに睨まないでくれ。ただ心配だっただけさ。他意はない。変な質問をして悪かったね。私も休ませてもらうとするよ」


 カインはアシュリーに睨まれ、軽く首を振ってベッドへと戻っていった。

 これからありもしない施設について考えるのだろうが、ご苦労な事である。


「なんで嘘をついたのー?」


 ミリーの声に、少し驚いてしまった。


(アクマ)


『妖精の一部には、魔法少女で言う固有の魔法みたいなのを使えるのが居るよ。多分ミリ-の場合、真偽を見抜ける何か持っているんだろうね』


 そういう事はもっと早く教えて欲しかったな……。

 まあ、こいつらは一応味方なので良かったが、敵だったら目も当てられない。


 アシュリーがジトーといった感じの視線を向けてくるが、嘘を見抜かれてしまうとは面倒だ。


 ……そうか、会議室での話も嘘だと見抜かれているのか。

 もしもあの場で追及されていたら、流石に言い訳も出来なかったな。


「情報では、施設で育てられた生き残りと聞いていますが?」

「会議室のも嘘ですー」


(どうする?)


『この世界の妖精女王がどんなのかは知らないけど、この感じだと敵ではなさそうだし、話せそうなところまで話しても良いんじゃない?』


 敵ではないと言っても、どうしたものか……。


 シラを切っても良いが、アシュリーはミリーの事を信用しているように見える。


 カインを牽制してもくれたので、今のところは味方と見ても良いが、世の中都合の良い話ほど、信用出来ないものだ。


「確認ですが、あなたたちは味方で良いのですか?」

「最低でも、妖精女王はあなたの味方ですよ。アルカナの事もご存知ですから」


 妖精女王は……か。まあ、良いか。知られた所で何か変わるわけでもないしな。


「そうですか。私は施設では育ってませんよ。私自身は何の変哲もない一般人でした」

「嘘じゃないよー」


 俺自身はただの一般人である。

 ただ、この身体と能力は別だがな。


「そうですか。施設に関りが無いのなら幸いです。あそこは、この世の地獄ですからね」

「知らない事は良い事ですー」


 もしも。本当にもしもだが、そんな地獄に生まれることが出来ていたのなら、どれだけ楽しかったのだろうか……。


「……施設出身ではないのは分かりましたが、どうしてあなたの経歴は真っ白なのですか? 一般の出ならば、どこかしらに生まれた記録が残るはずですが、魔法少女になる前の記録は何もありませんでした」


 そりゃあ性別が変わって、身体は異世界の人間のものだ。

 生まれた記録も、育ってきた記録もあるわけがない。


 流石にアクマも偽の記録を作り出すことは出来ず、まっさらなままだ。


「私自身は一般人ですが、ちょっと特殊な事情があるのです。アルカナの事を知っているのなら、私が敵ではないのは分るでしょう?」

「――そうですね。不躾な質問失礼しました」

「構いませんよ。気になる事があると確かめたくなるのは、人も妖精も変わりませんから」

 

 受付の妖精もそうだが、こんな小さい存在に謝られると、妙な罪悪感を感じてしまう。

 

 太々しい態度はイラッとするが、まだそっちの方が、気持ちが楽だ。

 

「話は変わりますが、妖精女王はどんな方なのですか? 敬称以外何もしらないものでして」


 妖精たちのトップであり、妖精界を統括する存在だってのは知っているが、姿も名前も知らない。


 正確には、全く公になってないのだ。

 

「あの方は慈悲深くもあり、ちゃらんぽらんでもあります」


 ……ちゃらんぽらん?


「優しい方で、大体全部やってくれるよー」

「魔法少女に関しては妖精局が指揮していますが、妖精界の拡張や建築物は妖精女王が指揮しています。ですが、よくサボるので、監視が必要だったりしますね」


 どうやら俺が思っていたイメージとは違うな。

 もっと完璧な存在だと思ったら、アクマと対して変わらないようだ。


「そうですか。後で私がお礼を言っていたと伝えて下さい」

「伝えておきます。ですが、それはこの洞窟を抜けることが出来たらですね」

「生きるも八卦。死ぬも八卦ですー」


 それを言うなら当たるも八卦、当たらぬも八卦だが、まあ良いだろう。


 ミリーの様な妖精に、真面目に対応すれば疲れるだけだ。

 

「因みにですが、2人には役職はあるんですか?」

「私は妖精局の情報部所属で、主任となります」

「ミリーはただの部下ですー」


『説明宜しく』


『アシュリーの方は、表向きは情報部で魔法少女たちの情報の精査をやっているけど、裏では汚職に関係した妖精や、人の始末をしているみたいだね』


 用は、妖精局の暗部ってやつか。

 元々敵対する気はないが、敵対しない方が賢明そうだ。


『ミリーの方はあまり情報がないね。多分、アシュリーの隠し玉なんだと思うよ』


 こんな卑怯臭い能力なんだから、隠すのは当たり前か。

 アクマも知っていれば教えてくれていただろうし、流石情報部と言った所か。


「ミリーさん。宜しければで良いのですが、先ほどのカインさんの言葉は?」

「ほとんど嘘だったよー」

「運よく証拠を集められそうですので、後は此方にお任せください」 

 

 やはりそうだろうな。

 少女だから、妖精だからと侮るから馬鹿を見るのだ。


「分かりました。よろしくお願いします」

「今回を機に馬脚を現す方が多ければありがたいですね」

「時間外労働は嫌ですー」

 

 フリーランスだった俺には、時間外労働なんて概念はなかったな。

 いつも早く終わらせようと、寝る間も惜しんで仕事をしていた。


 報酬が出来高制だった関係だが、個人的にはミリーに賛成である。


 そんな感じで時間を潰していると、アロンガンテさんと約束していた時間となる。


 このまま俺が残っても良いが、約束通り交代しよう。


 なにせ、先はまだわからないのだから。

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