魔法少女ととっておきの罠
アクマが言った事を、オウム返しするだけで事なきを得たと思った直後、爆発音が聞こえ、会議室内を黒煙が満たす。
態々襲撃しますと教えてくれるのは良いが、一体何をするつもりだ?
そんな事を考えてると、射撃音と何かが壁に衝突する鈍い音が聞こえた。
(アクマ)
『桃童子が襲撃して来た馬鹿を殴り飛ばしたみたいだね』
まあ、そうなるよな。
対人に特化している桃童子さん相手に煙幕なんて無意味だ。
少々荒っぽくなるが、俺も仕事をするか。
「
閉まっていた扉が勢いよく開き、会議室内に立ち込めていた煙を外に追い出す。
「可能性としては考えていましたが、念のため注意しておいて下さい」
隣に座るアロンガンテさんが小声で注意してきた。
妖精局内は魔法局の数倍のセキュリティがあるとかアクマが言っていた気がするな。
妖精局内で魔法を使えば、その履歴が残り、追跡が可能らしい。
更に魔法の使えない一般人の場合は妖精局に入った時点で、特殊な魔法が掛けられるので同じく追跡だ。
つまり、逃走は不可能なのだ。
(捨て駒か?)
『だと思うけど、何が目的だろう?』
表向きはアロンガンテさんの襲撃……だが、そんな見え見えの行動はブラフだろう。
「一体なんだ!」
会議に出席している男の1人が怒鳴り散らすが、そんな煩くしないで座っていた方が安全だろうに。
「静かにせい。馬鹿が短慮を起こしたみたいじゃが、既にこのざまじゃ」
桃童子さんは、壁で横たわる男を指指す。
「こんな所で事件が起こるとは……」
「一体なんの目的なのでしょうか? 銃声も聞こえたと思うのですが……」
ざわざわとざわつく中、突如桃童子さんの姿が消え、新たに壁に人が衝突する音がした。
手足が曲がっているが、死んではいなさそうだな。
その人物の手から、何かが零れ落ち、音を立てながら床を転がる。
「不自然な動きをしたため気絶させてもらった。すまぬが、全員一度席についてもらいたい」
桃童子さんは有無を言わさず雰囲気に圧倒され、騒ぎ立てていた者は全員静かになり、ゆっくりと席に座り始めた。
相変わらず凄い覇気だ。
桃童子さんから、先ほど転がった何かに視線を移すと、俺の勘が危険信号を出した。
落ちていたのはカプセルの様なものなのだが、カプセルには不思議な文字が書かれていて、明滅していた。
書かれている不思議な文字は、俺が魔法陣を描く時に使っているものと一緒だ。
つまり、魔法が関係している代物だ。
何が起きるか分からないが、あれを放置するのは不味い。
「も……」
俺が桃童子さんを呼ぼうとすると、筒が光り輝き、会議室内を光で満たす。
「なんだ!」
「目が!」
会議室に居る各国の要人たちが煩いな。
(アクマ!)
『今解析中! けど……』
ああうん、けどの後の言葉は言われなくても分かった。
この感覚は何度も味わってきたので、何が起きているか理解できた。
(転移か……こんな事を仕掛けてきたのは魔女か?)
『私が直ぐに解析も、解除も出来なかったから間違いなくそうだと思う』
どうやってあの筒を持たせたのか分からないが、まんまと罠に掛かったみたいだ。
今度は一体何が起こるんだろうな。
「ここは……洞窟?」
光が晴れると、広い洞窟の中に居た。
通路は2つで、妙な魔力を感じる。
桃童子さんによって気絶させられていた2人は居ないな……。
転移させられたのは全部で16人。
内3人は魔法少女……と言っても俺たちの事だ。
2人が妖精で、他は各国のお偉いさん方となる。
「一体何が起きたんだ?」
「あの筒の魔法により転移させられたみたいです。イニー」
アロンガンテさんが呼んだが、転移出来るか聞いているのだろう。
(転移できるか?)
『駄目みたい。漂っている魔力が濃いのと、ジャミングされていて現在の場所が分からなくなっているよ。それと、結構広い洞窟みたい。魔物と思われる気配も感じられるから注意して』
なるほど、糞みたいな人間を連れての脱出ゲームか。
面倒だな。
「転移は無理みたいです。それと、魔物が徘徊している可能性があります」
「なんだと! 俺たちは閉じ込められたって言うのか!?」
「会場を急に変えたのはアロンガンテだったね。もしかして、我々を殺すために仕組んだと言うのか!」
「これだから魔法少女など当てにしたくなかったのだ!」
やれやれ、こんな所で声を出して魔物が寄ってきたらどうするんだ?
魔物だからって、意味もなく暴れているわけではなないんだぞ?
「アシュリー。何か魔法は使えますか?」
「空間系は全部駄目みたい。ただ、おそらくここは地球の何所かだと思う」
アロンガンテさんが妖精に魔法を使えるか聞くが、結果は俺と同じみたいだ。
だが、妖精界から地球か……態々準備してたのか?
「そうですか。端末も繋がりませんし、どうしますか……」
『計画通り送られてきたようね』
声が聞こえたので辺りを見回すと、空中に魔女の姿が投影されていた。
こんな大それた事を出来るのは魔女位だ。
『そこは、とある孤島に作られた洞窟だ。あなたたちにはそこで死んでもらう予定だ。しかし、ただ殺すのでは面白くないわ』
面白くないと言っているが、俺が先に死んだ場合、残りの者はさっさと殺す気だろう。
「待て! 要求もなく、ただ殺すために我々をこんな所に送ったのか!?」
『そうよ。あなたたちみたいな屑に要求することなんて何もないわ。生きたかったら頑張りなさい。そうそう、その洞窟には沢山の魔物が徘徊しているから、気を付けてね』
クスクスと魔女の笑い声を残し、映像は消えた。
「やれやれ。わらわのミスであるな。あやつめの腕を吹き飛ばせば良かったのじゃ」
「妖精局内で、血生臭い事件を起こすのは憚られますからね。しかし……」
アロンガンテさんは顔を青くしたり、苛立っている要人たちに視線を向ける。
魔女は脱出できると言っていたが、最初の問題として、前と後ろのどちらに進むかを決めなければならない。
他にも問題はあるが、先ずはそこだろう。
「皆様。これから先は、わたしたちの指示に従っていただいても宜しいでしょうか?」
「いや、此方が指示を出すから、お前たちは指示通りに動け。その方が生き残れる可能性があるからな」
「それより、もう一度魔女と交渉するのはどうだ?」
「魔物の事は、専門である魔法少女に任せるべきではないかね? 私たちでは魔物とは戦えないですからね」
好き勝手言っているな……。
人種も年齢も違い、思想も違うのだから、協調性なんて期待するのは無理だ。
正直ひとりでさっさと進みたいのだが、アロンガンテさんと桃童子さんが居る手前、勝手な行動はしない方が良い。
「静まれい!」
桃童子さんが柏手を打ち、注目を引く。
言い争いを始めていた者は全員静まり、少し離れた場所に居る妖精が2匹……2人が驚いて飛び上がっていた。
「お主ら何か勘違いしておらぬか? 魔女の言い分通りなら、ここでの死は誰にも伝わらぬ。つまり、何が起きても問題ないと言う事じゃ」
桃童子さんは地面から石を拾うと、片手で砕いて、破片を見せ付ける。
言葉にしなくても、桃童子さんの言いたい事が伝わったのか、沈黙が流れる。
今は桃童子さんが砕いたのは石だが、その石の代わりに砕くのが何になるか。
それを想像してしまったのだろう。
「生きたかったら従うのじゃ。無論、意見があるのなら幾らでも聞こう。良いな?」
「……はい」
修羅場を潜っているだけあって、桃童子さんの胆力は凄いな。
「意見が纏まった所で、先ずは偵察を出そうと思います。それまで皆様は休んでいて下さい」
「その偵察は誰が行くのだ?」
「――私と桃童子が行きます。イニーは念の為待機していて下さい。もし10分経っても帰って来なかった場合は、死んだものと思っていただいて構いません」
「分かりました」
死んだものか。
全くの未知の領域だし、空間系の魔法は使用できないみたいなので、魔法によるマッピングが出来ない。
周りに漂う魔力にのせいで、アロンガンテさんのビットも十全には機能しないだろう。
若干心配そうな眼をしている奴らが居るかが、人間死ぬ時は死ぬのだ。
「大丈夫なのかね?」
「イニーもS級程度の魔物には勝てるので、護衛としては問題ないです。それに、洞窟の通路では、イニーは戦い辛いでしょうからね」
今居る広場位広ければ威力のある魔法が使えるが、見た限り通路は結構狭そうだ。
B級やA級なら氷槍を当てれば良いが、もしも避けられた場合、俺は不利になってしまう。
何せ、俺の肉体はとても脆弱だ。
狭い通路で近づかれたらどうしようもない。
それに、問題はそれだけではない。
(アクマ)
『一応魔力の供給はされているけど、前みたいに0から100みたいな感じに一気には無理だね。解放自体は問題ないけど、魔力の残量は注意が必要だよ』
ジャミングと魔力。そして、結界も張られているのだろう。
そのせいで、アルカナを解放しても無限に魔力を使うことが出来ないのだ。
まあ、この事は黙っておこう。
「桃童子も良いですね?」
「うむ。時間も惜しいし、わらわは向こうを調べてくる」
「ならば私はあちらですね」
桃童子さんとアロンガンテさんは装備を装着し、二手に分かれた。
立っているのもなんだし、全員分の椅子位は作ってやるか。
「
地面が蠢き、土で出来た椅子が出来上がる。
ちゃんと固めてあるので、尻が汚れる事もない。
「良かったら座って下さい。立っているのも疲れるでしょうから」
「……すまない」
「ふん」
何人かは立ったままだが、座る座らないは好きにすれば良い。
出来れば俺も座りたいが、一応護衛なので立ったままだ。
さて、アロガンテさんたちが帰ってくるまでに、問題の洗い出しをしておくか。
場所は不明だが、魔女は島と言っていた。
ならば、外部からの助けは来ないものと思った方が良いだろう。
まあ、結界があるから助けは期待していないがな。
続いては、この洞窟の深さだ。
これまで魔女が仕掛けてきた事を考えれば、相当難関な構造になっているだろう。
つまり、時間が掛かると言う事だ。
そして、人は食べて寝なければ死んでしまう。
(食材や服を取り出すことは出来そうか?)
『それも駄目だね』
飲み物も食い物も無い。
この事に気付いている奴が何人居るか分からないが、非常に危険な状態だ。
一応水は俺の魔法で何とかなるかもしれないが、食い物はどうしようもない。
一応妖精たちに確認しておくか。
「すみません」
「はい。なんですか?」
「此処ではどれ位の魔法が使えそうですか?」
2人一緒になって漂っている妖精に声を掛ける。
片方は確かアシュリーと呼ばれていたが、もう片方は知らない。
「私は雷の魔法を少し使えるだけで、後は全部無理です」
「私はそもそも魔法が使えませーん」
……どうやら使い物にならなさそうだな。
「そうですか……教えて頂きありがとうございます」
「どうも結界によって隔離されているような印象を受けます。十分注意した方がいいでしょう」
注意した所で生きる糧がなければ人は死ぬ。
人によっては飴くらい持ってる奴が居るかもしれないが、期待するだけ無駄だろう。
食糧危機については、アロンガンテさんと桃童子さんが戻って来てから考えよう。
後の問題は……そうだな。なるべく急いで戻らなければ世界が機能不全を起こす可能性がある。
アロンガンテさんが抜けたとしても、少しの間は白橿さんが頑張ってくれるだろうが、長くは持たないだろう。
(タイムリミットはどれ位だと思う?)
『よくて3日だろうね。戦闘や移動。食べ物の無い状態だとそんなもんだよ。それに、アロンガンテが抜けている状況はマズいからね』
奇しくもアロンガンテさんを抑え込む作戦が成功しているんだよな――。
洞窟から脱出したら世界が滅んでましたなんて落ちにならない事祈ろう。
「戻りました」
「同じくわらわもじゃ」
いつの間にか10分経っていたらしく、2人が広場に戻ってきた。
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