魔法少女と無意味な会議
世界的な会議。それも世界の行く末を決めるものとなれば報道陣が居るものだが、この場所にはいない。
場所が妖精局なのもあるが、内容が内容なだけに呼ぶわけにもいかないのだ。
場合によっては国を、人を見捨てるといった話しになるかもしれないからだ。
会議室に集まっているのは各国の要人と、アロンガンテたち3人。そして妖精局からふたりだ。
既に全員集まっているが、時間まで静かに待っていた。
「予定時刻となったので、始めさせていただきます。席は全て埋まっているので出席者の確認は省きます」
アロンガンテの声が静かな空間に響き渡り、緊張が走る。
会議室と廊下を繋ぐ扉が閉まり、防音機能のある結界が展開される。
「皆様の貴重な時間を頂いていますので、さっそく本題に入らせてもらいます。先ずは破滅主義派を名乗る魔女たちによる被害状況です」
会議室の席は円形になっており、中央は立体映像を投影できる空間となっている。
その空間に、各国の被害状況が投影される。
一番酷い国ではランカーが半数死亡し、その関係で魔物の討伐能力が低下。
一般人や建物にも被害が出てしまっている。
楓の活躍により増えていた人口は、ここ数週間で減少傾向にあった。
「日本だけ他と被害が違うようだが、本当に破滅主義派に寄与していないんだね?」
「勿論です。それに、各国で活動している日本のランカーが、無実を証明していると思いますが?」
世界の中で最も被害が少ないのは日本だ。
魔法少女の死は防げていないが、ランカーは全員生存している。
「そうだが、こうも差があるとどうしても疑いたくなってしまうのだ。先日は衛星も壊してしまったそうだしね?」
「その事に関しては説明したと思いますが、破滅主義派のメンバーとの戦闘の結果です」
「その戦闘もやらせではないのかね? 魔法局と探知衛星の破壊なんて流石に被害が大きすぎないかね?」
アロンガンテはやはりと内心で呟いた。
だが、こんな事もあろうかと、手立ては考えてある。
「でしたら件の魔法少女。フリーレンシュラーフを各国に説明のために向かわせましょうか?」
「それは……」
レンの悪名を知らない者はいない。
悪名と言っても、本人には悪気はなく、仕方ない被害の結果だ。
本人の運が悪いのもあるが、よく事件に遭遇するのだ。
自身の魔法の関係もあって、どうしても被害が出てしまう。
その結果、ニュースや新聞の記事に載るような被害を出してしまっている。
一応レンの魔法による死者がほとんど出ていないのは、不幸中の幸いだろう。
そんな事もあり、どの国もレンには来てほしくないのだ。
「勿論賠償はしていますし、壊した分の補填としてレンには働いてもらっています。この話は以上でよろしいですね?」
「そうか……」
アロンガンテの圧力に屈する形で、男は頷いた。
「話が逸れてしまいましたが、続いて破滅主義派の主要メンバーについてです」
主だったメンバーは新魔大戦の時に姿を現したが、その素性や能力などは未確認なものが多い。
ロックヴェルトや一部の者は知れ渡って居るが、それだけだ。
何故アロンガンテが知っているかについてだが、アクマがリンネから受け取ったデータを横流ししたのだ。
イニーやアルカナに関するデータは渡していないが、それでも破滅主義派の全容を知るには十分であった。
映し出されるのは魔女を始め、計10人の映像。
しかし……。
「資料に書かれている通り、既に半数の死亡が確認されています」
「見れば分かるが、死体はどうなっているのかね? ただ倒されたと言われても、証拠がなければ信用出来ないぞ?」
発言した男の言う通り、証拠も無しに死んだと言われても信用は出来ない。
しかもこの資料を作成したのはアロンガンテであり、最も疑惑を持たれている日本の魔法少女だ。
「その件に関しては説明させていただきます。先ずは証拠となる死体についてですが、特殊な薬を服用することにより、残らないと報告を受けています」
アロンガンテが映し出される映像を切り替え、タラゴンと破滅主義派に属する魔法少女の戦いを流す。
戦闘の途中で魔法少女は、薬と思われる小瓶を取り出しで飲んだ。
身体が変化を始めたところで、アロンガンテは一度映像を止める。
「見ていただいた通り、薬を服用した魔法少女は異形の姿となります。また、戦ったタラゴンからは魔物の様だったと語っていました。そして……」
アロンガンテが映像を再び流し、タラゴンが異形の姿となった魔法少女を倒す所まで飛ばす。
タラゴンに倒された異形の魔法少女は魔物と同じく、塵となって消えてしまった。
会議室はあまりの事態に驚きが走り、中には隣同士で話し始める者も居た。
この映像は今回初めて公開したものであり、これを知っているのはタラゴンと、この時タラゴンが出向いていた魔法局の極一部である。
薬の事自体はアクマから聞いてアロンガンテは知っていたが、この会議に向けて証拠が欲しかった。
イニーが倒してきた5人は全員薬を服用したため、死んだ証拠はイニーの発言のみとなる。
それではイニーの戯言と言われ、実際は倒していないのではないかと言われるのは目に見えていた。
その事をタラゴンに漏らした所、イニーのためならとタラゴンは奮起したのだ。
戦い自体は早送りしているため分かり辛いが、タラゴンは結構苦戦しており、辛勝だった。
相手の魔法少女はタラゴンからしたら格下だったのだが、薬はタラゴンを追い詰める程の効果があったのだ。
ただ、辛勝の理由は周りの被害を抑えるために、タラゴンが強化フォームにならなかったからだ。
「魔物と同じく、塵となり消えてしまいます」
「……この動画は本物なのかね?」
「はい。実際にこの戦闘を見ていたオペレーターもいますので、なんならオペレーターの所属する魔法局に問い合わせていただいても結構です」
「塵となって消えてしまう。だから証拠はないと?」
「はい。倒された日時は資料に書いてありますが、その日以降で倒された魔法少女の活動は確認されていません。それをもって証拠とさせていただきます」
ざわつきが落ち着き、数名は頷いて理解を示す。
アロンガンテに難癖を付けたかった者たちはどうしたものかと悩むが、証拠が無い証拠を出されてはどうしようもない。
更に破滅主義派のメンバーと、判明している行動履歴を出されてはこれ以上反論も出来ない。
「理解をしていただいたと言う事で話を進めていただきます。半数が死んだとは言え、破滅主義派は魔女が一番の脅威です。オーストラリアでの事件も、実質的に魔女が単独で起こしたものと調査結果が出ています。今回は一ヵ所のみなので結果として解決しましたが、もしも複数の場所で事件が発生した場合について話し合いたいと思います」
「その話だが、要は国内にランカーを留めて置けば問題ないのではないかね?」
国内にイレギュラーが現れる可能性があるのなら、最初から防衛に努めておけば良い。
確かにその通りなのだが、そうした場合他の問題が浮かび上がる。
「その様にした場合、戦力の整っていない国から順番に滅ぼされてしまうでしょう。仮にですが、世界に1国だけとなった場合、経済は成り立つのですか?」
アロンガンテが言っているのは極論だが、魔女ならそれを可能とする魔法がある。
1国だけ残すなんて事はしないが、順番に国を滅ぼしていくことは容易いことだろう。
イニーが、アルカナが生きている限り極端な行動をしないのが、この世界の魔女だ。
「資料に書かれている結界についてだが、これについてはどうするのかね?」
「結界についてですが、外部から壊すのは危険と反対しています。よって、内部に直接転移するほかないでしょう」
結界を壊せると思われる魔法少女はいるが、その結界には魔法を反射する機能があった。
結界を壊すには強力な魔法を使わなければならないのだが、もしも結界の破壊に失敗した場合、周りの土地は荒れ地に変わる。
「イニーフリューリングか……。そもそもだが、その魔法少女は一体何者なんだね? タラゴンの義妹となっているが、その前の経歴が一切無いらしいではないか? 素性の知れない者に国を託すなどできる筈もない」
「その事に関しましては……」
「あなたではなく、本人が居るのですから、本人に話させるべきではないですかな? それとも、話すことの出来ないやましい事でもあるのですかな?」
アロンガンテの表情は変らないが、内心では舌打ちをしていた。
分かっていた流れだが、出来ればイニーに話させることはしたくなかった。
これまで大量の戦果を挙げ、ランカーを超える様な強さだが、まだ11歳の少女なのだ。
こんな、大人たちの薄汚れた言葉で、汚れてほしくないのだ。
アロンガンテはしぶしぶといった感じでイニーの方を見る。
フードを被っているため素顔は分からない。
しかし、アロンガンテが何を言いたいのかは分かっているので、静かに頷き、立ち上がった。
様々な思惑を含んだ視線がイニーへと向けられ、一体何を語るのかと期待……不安が高まる。
「皆様初めまして。イニーフリューリングと申します」
年齢の割に、しっかりとした言葉を話す。
それが、会議室に居る人が抱いた感想だった。
「皆様が気にしている私の経歴についてですが、私はとある研究の末に生まれた存在です」
一部の者はやはりと思い、何も知らない者はなんて事だと驚く。
だが、此処に集まっているのは各国を代表する者であり、多かれ少なかれ、世界の闇について知っている。
だから思ってしまう事がある。
イニーの様な万能な魔法少女を作れる程、技術が進歩している……と。
もし、イニーの様な存在を自分たちの意思で扱うことが出来たら?
少し前までは魔法局が魔法少女たちの手綱を握り、一部の者が着服出来る様にしていた。
だが、汚職はアロンガンテによって一掃され、これまで得られていた物が全て無くなってしまった。
そしてアロンガンテが主導権を握り、今は魔法少女たちの言いなりに近い状態となっている。
この状態を打破する事が出来るかもしれない。
そう思い、一部の者はイニーが一体何を話すのかと、耳を傾けるのであった。
「そのため、私には表社会の経歴はありません」
「研究所と言ったが、君はそこからどうやって?」
「私が契約している妖精に助けてもらいました。生き残りは私以外居なかったそうです」
「なるほど。経歴が無い理由は分かりましたが、どうして戦っているのですか? 研究所で何が行われていたかは知りませんが、普通魔物と戦うなんて選択しないと思いますが?」
魔法少女を人為的に作り出す。
それだけなら良いが、そこに特定の能力を持った魔法少女となると、話が変わってくる。
犠牲になった少女たちが数え切れない程居る。
それだけの悲劇が研究所では起きている。
そんな場所から逃げ出してきたのだ。
戦いから身を引いて、平和に暮らしたいと思うのが当然と考えてしまう。
「生きるためです。私には頼れる人も、お金もなかったので」
「成る程。確かにそうですね。不躾な質問失礼しました」
話終えたイニーは一度全体を見回し、これ以上質問が無いと判断して席に着いた。
アロンガンテはイニーに申し訳ないと思いながらも、思ったよりも話がスムーズに纏まって良かったと喜んだ。
内容は魔法少女の根底を揺るがすものだが、先ずは今を乗り切らなければならない。
「それでは話を……」
アロンガンテが続きを話そうとしたその時、防音のはずの会議室の中で、爆発が起こる。
黒い煙が立ち込め、会議室に居る者たちは何事だと騒ぎ出した。
直ぐにアロンガンテは兵装の一部であるスコープを装着し、桃童子が居る方を見る。
既にその場に桃童子は居らず、鈍い音と共に銃が撃たれる、音が響いた。
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