魔法少女と当然の流れ
魔法少女タケミカヅチ。
魔法少女してはまだ新人だが、魔法少女ランキングは既に43位となっており、一端の魔法少女と言える強さがある。
武器は大型の円月輪であり、武器としては難しい部類だが、防御面に優れている。
更に雷の魔法も使え、攻めは勿論、逃げる速さはピカイチである。
そんなミカはランキング3位である桃童子とは姉妹の様な関係であった。
正確には近所に住んでいた桃童子の家にミカが何度も遊びに行き、姉として慕っていたのだ。
桃童子はランカーになる前から戦闘に明け暮れていたが、帰った時はいつもミカの面倒を見ていた。
ミカが魔法少女になってからは会う機会は減ってしまったが、それでも仲の良い姉妹のままだった。
そんな仲だったのだが、ある時を境に変化が訪れる。
「わらわを鍛えてはくれぬか?」
ミカは久々に会った桃童子にそう言ったのだ。
桃童子はミカに何故かと理由を聞いた。
「友達を助けられる力が欲しいのじゃ」
とある事件で友達に庇われ、死なせてしまうところだった。
もしも自分に力が有れば……。
そんな後悔をしない為に力が欲しい。
そう桃童子に願ったのだ。
この時点でミカは東北支部の先輩にも訓練をしてもらっていたが、武器の違いにより少し頭打ちになり始めていた。
そんな時に桃童子と再会したのだ。
桃童子から見たミカは出来の悪い妹と言った感じだった。
そんな妹が魔法少女になっただけでも驚きなのに、自分から強くなりたいと言ったのだ。
願いを叶えてやるのが、姉としての責務だろう。
桃童子はこれまでも魔法少女を鍛え、世に送り出してきた。
その手腕をとくと振るうことにした。
だが、ミカは桃童子の事をあまり知らなかった。
もしも知っていれば桃童子に教えを乞うなんて馬鹿な真似をしなかっただろう。
そもそもだが、日本は勿論他国のランカーである魔法少女たちの下には弟子が存在している。
だが、日本は他国に比べて弟子の数が少ない。
それには理由があるのだが、簡潔に表すと……。
日本のランカーは頭がおかしい。
この一言に尽きる。
そもそも弟子がいない楓や、寝る方が優先で弟子を取らない…………来ないレン。
全員逃げてしまったアロンガンテや、裏方専門のため弟子を取っていないゼアーなども居るが、それはそれとしてまともなのがいない。
フルールだけは普通に見えるが、実はアロンガンテに次ぐワーカーホリックである。
その内容も対魔法少女を主体としているため、時には人を殺めることもある。
結構ハードなのだ。
ランカーの弟子として残れている者は優秀なのだが、どうしても師匠であるランカーの影響を受けてしまっている。
例外としてグリントが居るが、おそらく日本唯一の良心だろう。
残りは全員戦闘バカなので……。
「おかしいのじゃ! なんかおかしいのじゃ!」
今のミカの様に辛い目に遭う事が日常茶飯事である。
「避けずに攻めんか! 早うせんと頭をカチ割るぞ!」
「なんかいつもより痛いのじゃ! ひゅあ!」
ミカは桃童子の拳をなんとか避けながら逃げ回る。
ミカの後方ではイニーが邪魔にならない程度に魔法で援護していた。
いや、正確にはミカが逃げられないようにチマチマと壁を作っていた。
ミカは変な悲鳴を上げながら桃童子に反撃をするが、全ていなされてしまう。
その様子をイニーは楽しそうだなと思いながら見ていた。
「死にとうなければ足掻け! 一分の隙を見逃さず、好機を探すのじゃ!」
「無理なものは無理なのじゃ!」
桃童子の右ストレートをミカは円月輪の刃でいなし、距離を取ろうとするが、桃童子は器用に身体を回転させながら回し蹴りをする。
ミカは回し蹴りによって吹き飛び、僅かに距離が空くも、ミカと桃童子の間にイニーの氷槍が刺さり、桃童子は氷槍を足場にして大きく跳ぶ。
桃童子は空中で一回転してから空を蹴り、ミカへと必殺の蹴りを放つ。
「死ぬ!死ぬのじゃ!」
「死にたくなければば抗ってみせるのじゃ!」
一応桃童子は手加減しているが、並の魔法少女では桃童子と接近戦など出来ない。
だが、ミカは魔力による通常の身体強化だけではなく、雷の魔法による強化もしていた。
基本的に反射速度の強化しかしていないが、やろうとすれば大幅な強化をすることができる。
しかしそれは諸刃の剣であり、限界まで強化した場合、身体を内側から焼かれてしまう。
そこまで強化をするような事態に陥ることはないが、強化すれば強化フォームの魔法少女と互角に戦える強さである。
強さであるのだが、時間で言えば3分が限度である。
ミカは泣く泣くそんな強化を自分に施し、桃童子を迎え撃つ。
2人が激突し、地面がひび割れて突風が吹く。
イニーは運悪く風によって吹き飛ばされ、同化しているアクマは笑っていた。
「防げたようじゃな」
「痛いのじゃ……」
なんとか桃童子の蹴りを防いだミカだが、決して無事とは言えない怪我を負っていた。
「この程度を無傷で防げないでどうするのじゃ。わらわは武具すら付けとらんと言うのに……」
この戦いで桃童子は、イニーと戦った時に装備していた籠手などは外していた。
装備を外す事によって、度を過ぎた火力が出ないようにしているのだ。
「じゃが、確実に成長しておるの。精進するのじゃぞ」
「……はいなのじゃ~」
若干弱音混じりの返事をミカはした。
「お疲れ様です」
余波によって吹き飛ばされていたイニーは、いつの間にか戻って2人に回復魔法を掛けた。
シミュレーションとはいえ、怪我は無い方が良いだろうと思ったイニーの老婆心だ。
「イニーは単独での戦闘しか出来ないと思っておったのじゃが、中々やれるようだのう」
「少し訓練する機会がありまして」
イニーは学園に居た頃、マリンと共に訓練をしていた。
元々誰かに合わせるのは得意であったイニーだが、訓練のおかげで精度が上がっているのだ。
「なるほどのう。正にオールラウンダーというわけじゃな。さて、ひよっこの訓練も区切りがついたのじゃが……」
桃童子は籠手と脚甲を装備し、イニーを見る。
その様子を見てミカは首を傾げた。
「そう言えばお姉ちゃんとイニーは知り合いなのかえ?」
「知り合い……そうじゃなあ。知り合いであり、わらわの黒星の相手じゃ」
「はえ?」
そんな馬鹿なとミカは思うが、ミカはイニーがどれだけ非常識なのかをよく知っていた。
だからと言ってランキング3位であり、姉である桃童子に勝てるのかと問われれば、流石に無理だろうと思ってしまう。
ミカは本当なのかと聞こうと思ったが、桃童子から溢れ出る魔力に当てられて言葉が詰まってしまった。
若干漏らしそうになるミカだが、桃童子の視線の先であるイニーを見る。
相も変わらずフードのせいで顔が見えないが、何故かローブが土によって汚れていた。
「……少しだけですよ」
イニーは結局こうなったかと内心でため息を吐きながらも、若干高揚していた。
イニーにとって戦いとは食事と同意義である。
定期的に摂取しないと死んでしまう。
それほど大事なものだ。
特に今は
イニーが返事をした事により、桃童子の魔力が膨れ上がる。
「ミカちゃんは離れていて下さい。多分荒れると思うので」
「わ、分かったのじゃ」
ミカは竦みそうになる足を懸命に動かし、2人から距離を取った。
「アルカナとやらは使わなくて良いのかえ?」
「使いますが、どうしたものかと……」
イニーが解放できるアルカナは3種類あるが、内2種類は桃童子とは相性が悪い。
前回は初見殺しで勝てたが、桃童子に二度目は通じない。
それは桃童子の能力のせいだ。
日本の他のランカーと違い、桃童子の能力は強いものではない。
だが、桃童子は文字通り血反吐を吐く戦いの末、能力を昇華させた。
能力の名前は見切り。
流石にイニーが使った悪魔の能力は無理だったが、ただ威力の高いだけの攻撃はほとんど桃童子に通じない。
種の割れた悪魔の能力では、桃童子に勝つ事は出来ないのだ。
そして愚者では捨て身の特攻をされた場合、肉体の能力的に負けてしまうのだ。
同時開放すれば話は別だが、そこまでして勝ちたいとはイニーは考えていない。
つまる所、使えるアルカナは恋人しかないのだが……。
恋人の能力はイニーの内面が反映される。
なので、どう戦えば桃童子に勝てるだろうかとイニーは考えていた。
「ナンバー
イニーが呟くと、イニーが白く輝き、服装が変わっていく。
白いローブは踊り子の様な動きやすく官能的な物に変わる。
髪と目は燃えるような朱色となり、腰には二振りの剣が収められている。
イニーが選んだのは一撃の重さではなく、手数だった。
桃童子の武器は両手と両足だ。
一撃も重いが、対応するだけの手数がなければ、競り負けてしまう。
奇しくもそれは、ブレードが桃童子と戦う際に取る戦法と一緒だった。
「双剣かのう。ブレードとは違うと良いのじゃが、準備は良いかのう?」
「いつでも良いですよ。時間にも制限がありますからね」
強化フォームとは違い、イニーのアルカナは1回当たり5分ほどの制限がある。
なので、戦うなら早い方が良いのだ。
イニーはバックステップを数度して桃童子から距離を取り、腰の剣を引き抜く。
左右で色が違い、右手の剣は白く、左手の剣は黒色をしていた。
「前回は負けた故に、最初から本気も本気といこうかのう。開闢せよ。”阿修羅”」
桃童子は強化フォームとなるが、その姿は前にイニーと戦った時とは変わっていた。
闘気の様に魔力が桃童子から溢れ、籠手と脚甲が変化する。
ただでさえ鋭い瞳には魔法陣が浮かび上がり、顔には朱色の線が走る。
桃童子の周りの空間が魔力により、軋む様な音を奏でる。
そして、桃童子の背後が割れ、背後霊の様な魔力の塊が現れた。
その姿はただの強化フォームと呼べるものではなく、全ての制限を解除した姿。
言うなれば、
シミュレーション内だからこそ出来る荒業。
先の事を捨てた限界の先の力。
死を恐れず戦い続けたからこそ手に入れた、唯一無二の姿。
「いざ! 尋常に勝負!」
桃童子は音を置き去りにしてイニーに接近する。
近づいてくる桃童子を見て、イニーは微かに笑っていた。
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