魔法少女と魔女の正体(不明)
メモリースティックの中には3つのデータが入っていた。
「メモ帳に動画。それとアルカナへと書かれた実行ファイル」
「ウイルスとかの危険性は無さそうだね。どれから見る?」
どれからと聞かれても、順番なんて有って無いようなものだ。
「メモ帳動画実行ファイルの順番ですね」
「了解」
アクマがマウスを器用に使ってメモ帳を開く。
中身はリンネが書いたと思われる魔女と主要メンバーたちの考察だった。
いや、正確には日記みたいなものみたいだな。
少々読み難いが、アクマと一緒に読んでいく。
魔女と出会った日から始まり、各メンバーとの出会い。
魔女が示した明確な未来。
魔女が渡した数々の世界の知識や技術。
アルカナと魔女の考察。
アルカナの裏に存在する世界の意志と呼ばれているものについてや、魔女とは一体誰なのか?
最初は疑問形だった文は日が経つに連れて「だろう」「かも知れない」などの文へと変わっていく。
そして、俺が魔法少女となり、魔女と会ってからの日記はリンネの苦悩がみて取れた。
そんな中、気になる一文が有った。
「そうだったのか。これでようやく腑に落ちた。彼女に勝てる魔法少女はこの世には居ないのだ。何せ彼女は……」
メモ帳を読んでいたら頭にノイズが走り、眩暈が起きる。
床に膝を突くと、アクマが寄ってきた。
「あー。なるほど。ごめんね」
「……どういう事ですか?」
「私たちアルカナから教えられない事があるって話をしたでしょう? 正規の手段以外で契約者が情報を得ようとすると、情報をブロックしちゃうんだ」
正規の手段ね。これは一応正規な気もするが、おそらく本人から聞く以外は駄目なのだろう。
仕方がないが、正体についてはそこまで重要ではない。
再びメモ帳を見ると、一部の文が何故か読めず、理解することが出来ないようになっていた。
読めない所は諦めて、最後まで読み終える。
結構長かったが、破滅主義派の事を詳しく知ることが出来た。
俺がこれまでに殺した5人がどうして破滅主義派に入ったのかは中々闇が深いものだった。
向こうには向こうの正義があるのかもしれないが、俺にとっては関係の無い事だ。
戦って良い相手であり、殺したからと言って罪に問われることもない。
都合の良い敵ってだけだ。
後は面白い新事実として、どうやらリンネは俺と同じく温泉が好きらしい。
破滅主義派の拠点に無理をして温泉を引いたようだ。
それと、メンバー全員の名前も知る事が出来た。
色々と発見もあったが、個人的には微妙の一言である。
「流石に拠点の場所は書いてないですね」
「うん。流石にリンネも書かないよね。一応使えそうな情報は後でアロンガンテに送っておくよ」
当たり前だが、リンネも知られても構わない情報しか載せていないはずだ。
内容的にアクマ以外の誰かと一緒に見た方が良かったかも知れないが、時すでに遅しだ。
アクマが検問した時点で、大事な所は消されてしまっている。
次は動画だが、再生時間は5分程で短いものだ。
「次にいきますか」
「そうだね。それじゃあ再生するよ」
『これを見ているのがイニーだとして話させてもらう。おそらく君は先にメモ帳を読んでからこの動画を見ていると仮定して話させてもらう』
動画のリンネが言う通りなのだが、妙に癪に障るのはどうしてだろうか?
『どうせアルカナと共にメモ帳を読んだと思うが、魔女の正体はその目で確かめてくれ。さて、どうして動画なんて形でデータを送ったかだが、今から話す内容は全て仮説であり、文字にするのは少々厄介なものだからだ。――では話そう』
イラっとくる始まりだが、リンネが話す仮説はとても面白いものであった。
内容は魔女の特異性とその存在意義。そして、原初の世界についてだ。
魔女の目的は原初の世界と呼ばれる世界の破壊だ。
原初の世界が消えれば、それに連なる世界が全て消えてなくなる。
ここまでは俺も知っている知識だ。
では何故魔女がそんな事をしようとしているのか?
端的な理由は聞いているが、中身は教えてくれなかった。
リンネは仮説と前置きをしながら、なるべく遠回しに話を続けた。
魔物と人。
この2つの要素が世界線での共通事項らしい。
魔女の生まれた世界は魔物の数こそ少ないが、最低でも強さはこの世界で言うB級相当だったみたいだ。
平和を願い戦ってきた魔女は魔物の駆逐に後一歩の所まできたが、その先に待っていたのは人類の裏切りだった。
純粋なる正義とは、世の中にとって邪魔でしかなかったのだ。
更に味方のはずの魔法少女すらほとんどが裏切り、窮地に陥ることとなる。
僅かながら魔女を守る者も居たが、あえなく殺され、最後には魔女だけが残された。
そして、この世界では北極に封印されている魔物が現れた。
それからも色々とあり、魔女だった魔法少女は絶望に呑まれて変わってしまったらしい。
全てリンネの仮説となっているが、アクマの表情的に的外れって訳ではないのだろう。
人の世は愚かだと言ったものだが、所詮人など自己の利益しか求めていないからな。
それに、尖った戦力は平和な世界では邪魔なだけだ。
『最後にだが、君が魔女の救いとなる事を願うよ』
その一言で動画は締めくくられていた。
「……ハルナ」
「なんですか?」
「大丈夫?」
大丈夫とはまた抽象的だな。
大方向こうの裏事情を知って戦う気を無くしてないかを聞いてきているのだろう。
今の話が全て本当なら、なんとも救いのない話だ。
人によって同情をしてしまうかもしれない。
まあ、俺には全く響かないがな。
「問題ないですよ。私がやることに変わりはありません。それよりも、最後のも見てしまいましょう」
「……うん」
最後のは俺へではなく、アルカナであるアクマに向けてのものである。
何かしら起こるのは確定だが、何が起こるかは見当もつかない。
「それじゃあ開くよ」
「ちょっと待つです」
アクマがクリックしようとすると、エルメスが突然出てきて、アクマからマウスを奪ってファイルをクリックしてしまった。
「ちょ! 一体何するのさ!」
アクマが怒鳴る中、黒いウィンドウが表示されて幾何学的な文字が大量に映し出される。
それら全ての文字が画面から浮き上がり、エルメスに吸われてしまった。
これはもしかして本当に罠だったのか?
「ふむ、思っていた通りですね」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。それと別に罠だったわけではないです。とある情報についてだったのですが、少々特殊だったためにアルカナを指定していただけですね」
特殊な情報か。
気になる言い方だが、リンネも別れる前に言ってくれれば良いものを……。
「その情報ってなんなのさ? ついでに何で私を押しのけたの?」
「泥棒猫には少々刺激の強い内容だと思ったからですよ。泥棒猫が落ち込むと史郎が困るですからね」
エルメスの言う通りアクマが落ち込むと面倒なのは確かだが、だからと言って身体を張るほどの事だろうか?
どちらの能力も俺には必要なので、消えられると少々困る。
最悪の場合、能力だけは残して消えてもらいたい。
「さて、情報についてですが、ずっと昔から行方不明だった
「サン? 結構昔から行方不明で足取りがつかめなかった?」
「です。薄々分かっていたことですが、サンは向こうの手に落ちているです。だから私たちが能力を使うと、魔女が気付く事が出来たってわけですね」
アクマが能力を使うと居場所がバレると言っていたが、そんな裏事情があったのか。
いくら魔女が常識外れとはいえ、人の枠には収まっているという話だ。
アルカナが力を使ったからと言って、位置を知るなんてそうそう出来ないはずだが、魔女がアルカナを確保しているなら位置を特定することも可能なのだろう。
「サンって最初に行方が分からなくなったのは覚えてるけど、どう言うこと?」
「魔女はサンを生体ユニットとして機械に取り込み、対アルカナ用の兵器として運用しているみたいです。リンネはどのアルカナが使われてるかは知らないみたいですが、残っているのはサンだけなので確定ですね」
なんともまあ惨いことをするものだな。
アルカナ自体が不死なので、無理をさせなければ常に運用できるのが狡い所だな。
しかし、そうなるとその生体ユニットとやらをどうにかしたいが、この世界には無いのだろう。
だが、情報が有るか無いかでは有った方が良いだろう。
この世界での戦いとは関係ないがな。
「なるほどね。あまり気にはしてなかったけど、重要な情報だね。だけど、私を押しのける必要はあったの?」
「ノーコメントです。とりあえず伝えることは伝えたので帰るです」
エルメスはそれだけ言って俺に同化してしまった。
何やら他にも情報がありそうだが、この感じだと話してくれそうにはないな。
しかし、破滅主義派とは良く言ったものだな。
その本質は救いであり、復讐でもある。
こんな腐敗した世界など、滅んだ方が良いのかもしれない。
いや、正確には再び人類を選別すると言った感じか。
仕方ないとはいえ今の世の中は屑みたいな人間がうようよしている。
滅ぼすという観点だけで見れば、俺も魔女には賛成だ。
だからといって、この世界を壊されるのは少々困る。
敵が居なければ、戦うことは出来ない。
魔女にとって屑な人間は敵かもしれないが、俺にとってはカモなのだ。
最終的に、俺と魔女が相容れる事はないだろう。
……そう言えばリンデから手紙を貰っていたな。
ついでだし、今の内に読んでおこう。
袖の奥から封筒を取り出して封を切る。
読もうと思ったのだが、全て英語で書かれているので少々時間が掛かりそうだ。
こんな時はアクマだな。
「アクマ。これを読んでもらって良いですか?」
「リンデからの手紙だね。……ああ。英語で書かれてたんだ。それじゃあ読むよ」
英語は読めないこともないが、流石に日本語と同じ様に読むのは無理だ。
アクマに読んでもらったリンデの手紙は俺に対する謝罪と、リンネとリンデに起きた過去の出来事が書いてあった。
リンネは最低でも、欠損を治せる程度の回復魔法を使える事が判明している。
つまり相応の暗い過去があるって事だ。
手紙の内容を纏めると、父親が魔法局の不手際と言う体で殺されたらしい。
その裏事情は結構複雑だが、簡潔に言えばそんな感じだ。
リンネの日記にもその様な事を匂わす言葉もあったので、本当のことだろう。
父親が殺されて魔法少女になってからも色々と苦悩して、魔女のてを取ってしまったみたいだ。
多少思うこともあるが、手紙も読み終わったし、帰るか。
誰も彼もが自分のために戦っている。
ただ、それだけも事だ。
「用事も済ませたし、帰りますか」
「……そうだね。これまではあまり魔女たちの事を気にしてこなかったけど、向こうにも相応の理由があるんだね」
「世の中そんなものですよ。ですが、限度がありますからね」
復讐はやった本人に対してするものであり、他人を巻き込むのは、復讐ではなくただの憂さ晴らしだ。
俺も他人ことを言えた義理ではないが、何事もやりすぎは駄目なのだ。
パソコンからメモリースティックを抜いてアクマに渡す。
そして電源を落としてここでの用事は終了だ。
「それじゃあ帰るとしましょう」
アクマが同化してから扉を開けて外に出る。
『あっ』
「あっ」
「あっ」
偶然1号室の扉が開き、目が合うと同時に三つの声が重なった。
常々思うのだが、アクマの索敵能力ザル過ぎないか?
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