魔法少女と初めてのネカフェ

「ものの見事に壊れてるわね」

「小さい隕石程度なら問題なく防げる結界も張られていたのですが、ご覧の有様です」

 

 無重力の宇宙空間に漂う半壊(全壊)した衛星と、その破片。

 そこはかとなく悲壮感を感じる。


 地上や空くらいなら分かるが、宇宙にあるものは流石にどうしようもない。

 そこまで届くとは思わなかったし、そもそも結界が壊れるとは思っていなかった。

 

 完全な不可抗力なので、俺は悪くない。


「衛星自体は数年に一度位の頻度で、魔法少女が悪戯に壊す事件が起きているので珍しいと言う程でもないですが、時期が悪かったですね……」


 知らなかったが、衛星が壊される事件は結構起きていたのか。

 テレビとかSNSでは全く見たことなかったが、事件的に報道が規制されていたのだろう。


 既に何回か起きている事件ということは、対処も出来るはずだ。

 だが、時期と破壊した人物の問題はどうしようもないんだよな……。


「確か破滅主義派の関係で会議があるんだったかしら? 確かに魔物を倒すために欠かせない衛星を、今壊すのは不味いわね」

「はい。なので提案があります……と、言うよりは既に報告書は作成済みですが、全てレンがやったと報告済みです」


 既にアクマから聞いていたが、なんとも酷い。

 他に罪を擦り付けるのに使いそうな魔法少女がいれば良いのだが、状況と位置を考えると、他に居ない。

 破滅主義派に擦り付けても良いが、その場合修理費をどこから出すのか問題になる。


 予算を組んでどうのこうのする位なら、身内が壊した事にして弁償した方が、修理までの時間を短縮できる。


 更に言えば、レンさんなら仕方ないで済まされると言うのもある。


 問題児万歳だ。

 

「そう。アロンガンテにも迷惑を掛けてるし、イニーにも世話になったから構わないわ」

「ありがとうございます。後で相応の礼はします」

「礼はいいから休みを増やして頂戴ね」


 特に俺が口を挟むこと無く、解決したみたいだな。


「おそらく罰金刑になると思いますが、代金は此方で立て替えておきます」

「別に私の口座から引き落としても良いわよ? どうせ使わないものだもの」


 イギリスでの生活を見ていた感じ、レンさんの生活は普通の庶民だった。


 まあ、俺の作った飯を美味しいと言いながら食べていた時点で、大体分かってはいたがな。


 レンさんも俺と同じく、金は貯まる一方で使い道がないのだろう。

 

「なら使わせていただきます。重要な話はこれで一旦終わりですね。イギリスでの任務お疲れ様でした、レンは帰っていただいて大丈夫です。イニーは会議について話があるので残って下さい」

「分かったわ。色々とあったけど、楽しい遠征だったわ。またね」


 レンさんは俺を撫でると、執務室から出て行った。


 1週間も一緒に暮らすなんてタラゴンさん以来だが、レンさんみたいに物静かだと気を使わなくて済むので楽だったな。


 だが、それはそれとして負けたままなのは嫌なので、後でリベンジさせてもらうとしよう。

 

 前回はアルカナ無し強化フォーム無しだったが、次は互いに全部解禁して戦いたい。


 本気のレンさん……アルカナを使ったとしても勝てるか分からない相手。


 とても楽しみだ。 


「さて、困り事も解決しましたので、例の会議について話ましょう」


 会議と言われても、正直やる意味を感じないんだよな……。

 仮に戦うなとか言われたとしても、俺が戦いを止めることはない。


 協力すると言われたとしても、今のところはアロンガンテさんが居れば事足りる。


 なんならアクマだけで十分と言えば十分だ。


「分かりました。私が何かしないといけないことはあるんですか?」

「基本的には私の方で答える予定ですが、直接指名された場合は答えていただく事になります」


 流石に直接答えろと言われたら仕方ないよな。

 年齢を理由に答えないなんてのも魔法少女には意味はないし、そこは諦めよう。


「分かりました、因みに人数と場所は?」

「場所は妖精局本部となります。人数は20人程度になると思います。今は昔ほど国がある訳ではないですからね」


 国の数は始まりの日以降、減る一方だからな。

 ミグーリア以外にもそこそこ新興の国は立ち上がったりしたが、ミグーリア以外は残らなかった。


 昔は100以上あった国も、今は50もなかったはずだ。


 20人の中には妖精も含まれているのだろうが、多すぎると言う程ではないな。


「それと、薄々気付いているとは思いますが、この会議はあまり意味がありません。国がいくら頑張ったとしても、最終的に戦うのは私たち魔法少女ですからね」


 身もふたもない言い草だが、一般兵器で魔法少女を殺すのは基本的に不可能だからな。

 昔不運なことに、核兵器に巻き込まれた魔法少女が居たらしいが、大怪我をしたが死ぬことはなかった。


 また、放射能による汚染も問題なく、今も普通に生きているらしい。


 ダメージソースとしてなら核は使えるかもしれないが、土地の汚染問題があるので、戦う場所を選ばなければならない。

 更に言ってしまえば、破滅主義派の奴らは転移をする方法があるので、簡単に逃げる事が出来る。

 

 つまり、一般人に出来る事はなにもないのだ。


 一応ロシアが作っていた様な、魔導銃みたいな兵器があればまた別だが、ストラーフさんが言っていた通りに開発費が高い癖に効果をあまり見込めない。

 

 ならば何故会議なんて事をするんだと思うかもしれないが、何をするにしてもちゃんと報告をしましょうって事だ。


 魔女が世界を滅ぼそうとしているのはどの国も知っているだろうが、その魔女が何を出来るのかを正確に把握している国は無いと言っていいだろう。


 新魔大戦の時は戯言だとでも思っていたのだろうが、オーストラリアの事件を受けて、流石に危機感を持ったのだろう。


 ついでに、その魔女に対抗している俺をどう扱うかなんて話もあると思うが、それについては全て突っぱねてしまえばいいのだ。


「分かりました」

「ありがとうございます。日時は予定通りになりまして、時間は9時までに此処に来ていただければ大丈夫です」


 とうとうか……。

 嫌だ嫌だと言いたいが、駄々をこねるのは止めておこう。


「分かりました。後は何かありますか?」

「いえ、連絡は以上になります。何か聞いておきたいことはありますか?」


 聞きたいこと……。

 後でアクマに聞けば良いが、アロンガンテさんに聞いておけば良いか。

 

「妖精界でPCを使える場所って知ってますか? 出来れば民間で」

「民間でですか? 一応この拠点内にもありますが、民間となると商業地区のテレポーターを出て目の前のお店ですかね」


 あそこか。

 商業地区はたまに沼沼に行く時に使うくらいで、そんなところにあるとは思わなかったな。


「確かタラゴンの家にもあったと思いますが、何か用事が?」

「はい。少し調べたいことがありまして。念のためではありますが、場所がバレても大丈夫な所が良いのです」


 アロンガンテさんは、おやっと言った感じで眉を潜める。

 

「調べたいことですか……。聞いた感じ少し危険なようですが、大丈夫なのですか?」

「危険は無いはず」


 リンネを信用している訳ではないが、リンデの事を考えればウイルスとかは仕込んでいないはずだ。


 あくまでも念のためだ。


「そうですか……。あまり無茶をするななんて言えませんが、イニーが倒れたら悲しむ人が居ることを忘れないで下さい」


 似たようなセリフを前も言われたが、悲しまれたところで俺には関係ないのだ。

 

「無理はしないですよ。それでは失礼します」

「――そうですか。また会議の日にお会いしましょう」


 これにてイギリス遠征の全工程が終了となる。

 ついでに部屋を出る前にアロンガンテさんへ回復魔法を使っておく。


 精神系の回復魔法はあまり使う機会がないので、アロンガンテさんは貴重な経験値だ。

 

 さてと、商業地区か……場所は知っているので転移でも良いが、テレポーターで行くとしよう。

 

 またあの受付にどやされるのは面倒だからな。


「お帰りですか?」

「はい。商業地区までお願いします」

「承知しました」

 

 テレポーターに入り、商業地区にテレポートする。


 学園に居た時ほどではないが、結構賑わっている。

 あちこちで戦いだなんだと騒いでいるが、だからと言って経済を回さないと世界は衰退してしまう。

 魔法少女たちは、買い物や美味いものを食べてストレスを発散し、次の戦いに備えるのも仕事の一つだ。


 雑多としているテレポーター施設から抜け出し、アロンガンテさんが言っていた場所へ向かう。


(あまり行くことがなかったから知らないが、なんて言うんだっけ?)


『ネットカフェだよ』

 

 ああ。それだ。

 泊まる時は基本ビジネスホテルだったから名前が出なかった。


 そもそも群馬にはネットカフェの需要があまりなく、店舗自体が少なかった気もする。


 さて、さっさと店に入ってしまおう。


「いらっしゃいませー」


 店員の声を聞きながら、店に入り、メニューを見る。

 プランは基本的に時間か……それと部屋も何種類かあるみたいだな。


 そんな長居もする気はないが、部屋はなるべく良い奴にしておこう。

 こんな時でもないと金を使う事なんてないからな。


「すみません」

「はい。魔法少女の方ですね。所属国と名前。可能であればランキングをお願いします」

 

 身分証の代わりと言う事か。

 昔なら免許を出して確認してもらっていたが、魔法少女ならではの証明方法だな。


「日本のイニーフリューリングです。ランキングは……」

  

 あっ、ランキングは今不明状態なんだよな。


 店員が首を傾げるが、分からないと言っておくか。


「ランキングは分からないです」

「畏まりました。少々お待ちください」


 店員である妖精がパソコンで何かを調べ始め、「あっ」と声を上げた。

 あっってなんだよ。

  

「確認が取れましたのでご利用できます。プランはどうしますか?」

「魔法少女特約の一番上の奴で、3時間でお願いします」


 1時間もあれば大丈夫だと思うが、プランの一番下が3時間からなのだ。

 早め終わるようなら、出てしまえば良いだろう。


「畏まりました。最上階の2号室へどうぞ」


 最上階か。店内マップを見た感じだと、全部で5部屋あるみたいだな。

 2号室って事は、俺以外にも無駄金を使ってる魔法少女が居るらしい。


 受付票を貰ってエレベーターで最上階に行き、少々物々しい扉を開けて部屋に入る。


 ……ネットカフェと言えば小さな個室だと思うのだが、どう見ても個室ではなく部屋だ。

 流石魔法少女特約だな。高いだけのことはある。


 鍵もただの施錠ではなく、機械と魔法が併用されているため、壊すのも容易ではないだろう。

 仕事柄パソコンの扱いは慣れているが、アクマに任せた方が安全だろう。


(アクマ)

 

『了解』


 アクマが同化を解除して、中から出てくる。

 その手には例のメモリースティックが握られていた。


 パソコンの電源を入れて起動を待つ。

 

「鬼が出るか。蛇が出るか……」

「せめて使える情報であれば良いですが……」


 どうやら認識はちゃんとしてくれたみたいだな。

 それじゃあ、破滅主義派の情報とやらを拝ませてもらおう。

 

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