魔法少女とラブレ……手紙

 イギリス滞在最後の日。


 最後と言っても、後はバイエルンさんに挨拶して終わりだ。


 ベッドから起き上がり、軽く体をほぐす。


 ナイスバディなのも良いが、つるつるストーンの方が落ち着くな。

 幸運なことに、今の状態なら生理に悩まされることがない。


 男の象徴たる象さんが無いが…………これ以上変なことを考えるとアクマが怒るので止めておこう。


 アクマは俺に女子らしさを求めてくるが、男には難しい話なのだ。


『おはよう。悪い話と悪い話があるけど、どっちから聞く?』


 どっちも悪い話なのはなんでなんでしょうね?


(どっちからでも)


『了解。前者の悪い話だけど、昨日山を抉った魔法があったでしょ? あれ、宇宙まで届いてたみたい』


(雲も吹き飛んでたし、宇宙まで届いてたとしてもおかしくないな。それで?)


『衛星……壊しちゃったみたい』 


 そうか、衛星か……衛星?


(衛星って地球の周りにある衛星か?)


『うん。魔物や魔法少女を探知する結構重要な奴に、ハルナの魔法が当たったみたい。衛星には結界が張られてたんだけけど、見事に貫いたね』


 確かに悪い話だな。

 弁償の代金はおそらく問題ないが、魔物に悩まされている今の状況で壊してしまったのは不味いな。


(世間的にはどうなっているんだ?)

 

『まだ未発表だけど、アロンガンテが手を回して、レンがやったことにしたみたい』


 今度会議があると言ってたし、俺の外聞のために擦り付けたのだろうか?

 アロンガンテさんが手を回したなら大丈夫だと思うが、レンさんには心の中でだけ謝っておこう。


(まあ、やってしまったものは仕方ないな。それで、もう1つの悪い話は?)


『昨日説教しようと思ったのにハルナが直ぐに寝ちゃったから……覚悟しといてね』


 昨日の戦闘が終わった後、第二形態を使った事について説教をするとアクマは言っていたが、飯を食べて風呂に入った後、そのまま倒れるようにして寝てしまった。


 昨日の戦いは身体を酷使しただけではなく、一撃も貰う事の出来ない状態での3対1だったため、精神的にも少し摩耗していた。


 寝てしまったのは仕方ない事だと、俺は思う。


(すまなかったな。昨日は疲れていたんだ)


『それは分かってるけど、説教するって言っておいたのに、そのまま寝るなんてねー』


 ねーと言われても、人間は眠気には逆らえないのだ。


 とりあえず、俺にとっては悪い話だったな。

 後で美味しいジュースでも買って、機嫌を取るとしよう。


 それよりも、風呂に入って朝食を作らなければ。


(説教は帰ってからで頼む。ところで、今は何時だ?)


『6時位だよ』


 6時か……少し急いだ方が良いな。


 サッと風呂に入り、変身してからパンと適当なおかずを用意する。

 変身していた方が若干筋力が増すので、便利なのだ。


 見計らったかのようにレンさんが起きてきて、一緒に朝食を食べる。


「今日でイギリスでの任務も終わりね。リンデって子はどうだった?」


 リンデか……。


 色々とあったが、総じていえば普通の魔法少女だった。

 人並みの想いがあり、人並みに嫉妬する。


 リンネの妹ってのは少々驚いたが、小心者に見えたし、これ以上邪魔をしてくることはないだろう。


「これと言って特には何も。それより、いつ出ますか?」

「そう。なら食べ終わったら出ましょうか。アロンガンテも待っているでしょうからね」


 そのアロンガンテさんに、レンさんは罪を擦り付けられているが、保身のために言わないでおく。

 俺が破壊したのは山だけだ。

 それ以外の事は知らない。


「分かりました」


 食べ終わったらとレンさんが言ったが、レンさんは既に食べ終わっている。

 食べ終わっていないのは俺だけだ。


 いつも通りの早さで食べ終えて、食器を洗う。

 出しておいた調味料や雑貨を再びアクマにしまって貰い、準備完了だ。


「此方の準備は終わりました。レンさんは大丈夫ですか?」

「ええ。着替えと少しの雑貨だけだからもう準備は終わってるわ」

「分かりました。それじゃあ行きましょう」


 レンさんが俺の肩に手を置き、アクマにバイエルンさんの執務室の前へ転移してもらう。


 執務室に入ると、相変わらずバイエルンさんは忙しそうにしていた。

 そう言えば、アポとか取っていないのだが、良いのだろうか?

 

「誰だ……ああ、あなた方ですか」

「もうイギリスも大丈夫そうだし、予定通り今日で帰ろうと思うわ」

「そうですか。1週間ありがとうございました。特に昨日は破滅主義派と戦ったとか。流石に魔法局が全壊したのは衝撃的でしたが、幸い死者はほとんど出ずに済みました」


 死者はほとんど出ていないかもしれないが、魔法局はとんでもないことになっていた。

 流石に一日では終わらず、今日も解体作業をしているのだろう。


「それと、イニーさんが抉ってしまった山は修復しておくので、心配しなくでいただいて大丈夫です」

 

 山については心配していないが、その先の物については心配がある。

 とりあえず、知らない体でいるしかない。


 それはそれとして、ちゃんと報告は上がっていたようだな。

 レンさんをけしかけなくても良さそうだ。


「魔法局と山については、アロンガンテがお金を出すと言っていたわ」

「それはありがたい。やっと通常の流れに戻ったが、まだまだ経済的には立ち直れていないからな。アロンガンテさんに宜しくと言っておいてくれ」

「分かったわ」


 経済で思い出したが、魔法局に所属している魔法少女が死んだ場合、口座の一部は国に接収される。

 イギリスもそれなりの数の魔法少女が死んでいるので税金が入ってきてると思うのだが、それでも足りないのだろうか?

 まあ、俺が気にすることでもないか。

 

「そう言えばリンデは役に立ちましたか? この一週間は忙しくてリンデとはほとんど話せていないのですが、どうでしたか?」

「そうね。もしも次があるのなら、料理だけはちゃんと練習するように言っておいて」


 ちゃんと料理できる人もいるだろうが、今回は運が悪かったってことだ。

 まさか人様に料理を作るなんて昔は考えられなかったが、自分の好みの味付けが出来るのだけはありがたかった。


 だが、正直面倒ではあるので、出来る限り他人に作ってもらいたいのが本音だ。


「ははは。伝えておきます。もうお帰りになるのですか?」

「そうよ。また依頼があったら会いましょう。じゃあね」

 

 バイエルンさんから乾いた笑いが出るが、仕方ないことだろう。

 国としては助かったが、魔法局が1つ破壊されているのだ。

 出来れば来てほしくないのが本音だろう。


 これでイギリスでの最後の用事が終わったので、後はテレポーターから帰るだけだ。


 バイエルンさんの執務室を出てテレポーターに向かう。

 すると、テレポーター室の前に見慣れた魔法少女が居た。


(リンデか。昨日からの行動はどうだった?)


『一応マーカーを付けといたけど、家からは出ていないね。それと、誰とも会っていないはずだよ』


 それなら危険性はないだろうが、一体何の用だ?


 昨日の様に怯えてはいないが、心なしか少しやつれている気がする。

 

 リンデは俺に気づくと、近づいてきて一枚の封筒を差し出してきた。


「……これは?」

「後で見て欲しいの。それと……ごめんなさい」


 リンデは俺に封筒を押し付けると、逃げるようにして、何所かに行ってしまった。


「ラブレター? 隅に置けないわね」

「それだけは絶対ないと思います」


 なにせ、リンデの姉と俺は敵であり、間接的とはいえ、リンデは俺を殺そうとしたのだ。

 それはそれとして、ごめんなさいと言っていた事を考えると、何かしらの謝罪文だろう。

 後で確認するとして、袖の中にでも入れておこう。


「ふーん。まあいいわ。それじゃあ帰りましょう」

「はい」


 テレポーターの職員に座標を言い、テレポーターに入る。


「あっ、お帰りなさい」

「ただいま、アロンガンテは居るわよね?」


 アロンガンテさんの拠点に帰ってくると、受付の妖精が出迎えてくれた。


「はい。2週間ほど外出記録はないので、居るはずです」


 拠点で生活できるとはいえ、ずっと家に帰っていないのか……。

 また目の下に隈が出来ていそうだな。


 魔法局に比べるとこじんまりとしたテレポーター室から、アロンガンテさんの執務室へ向かう。

 レンさんは執務室の前にあるインターホンを押さずに、そのまま執務室の中に入って行く。


 中に誰か居たらどうする気なんですかね?


 まあ、どうせ怒られるのはレンさんだし、俺も一緒に入ってしまおう。

 

「戻りましたか。先ずは座って下さい。報告は既に聞いていましたが、イギリスの様子はどうでしたか?」


 アロンガンテさんは相も変わらず、椅子に嚙り付く様にして仕事をしている。

 隈自体は薄いが、疲れているのは雰囲気で分かる。


「全体の質が悪かったわね。ついでにご飯が不味かったわ」

 

 不味かったのはリンデが作った一回目だけで、それ以降は俺が作っていた。

 大体一言目に「美味しいわ」とか「良いわね」とか言っていた。


 男の作った大雑把な料理なのだが、本当に良かったのだろうか?


「食事については念には念を入れておく必要がありましたからね。食事はイギリスの人に作ってもらってたのですか?」

「最初だけ作ってもらって、それ以降はイニーが作ってくれてたわ。将来は良いお嫁さんになりそうよ」


 くすくすとレイさんは笑うが、俺が嫁に行くことは絶対にないと断言しておこう。

 先は分からないが、肉体をこれ以上成長させる気はないからな。


 ソラ様々である。


「イニーが料理を……タラゴンが聞いたら怒りそうですね」

「そうなったら助けてね。私、タラゴンは少し苦手なのよ」


 ほう。そうなのか。

 属性的にも、性格的にも正反対だが、人柄的に仲が悪いようには思えないんだがな。


「苦手なのはレンが悪いんでしょうに……。しかし、まさか本当に破滅主義派が現れるとは思いませんでしたね。実際に戦ってみてどうでしたか?」

「私の方は逃げられてしまったけど、通常時なら負けることは無さそうね。例の薬を使われたらどうなるかは分からないわ」


 レンさんの方はただの時間稼ぎだった訳だからな。

 レンさんなら魔女の結界を打ち破って来そうな気がするし、リンネが取った選択は妥当だったのだろう。


「そうですか。イニーの方はどうでしたか? 3人倒したとだけ聞いていますが、出来れば詳細を教えてください」

「分かりました」

 

 リンネとの約束通り、リンデの事を抜いて、戦いの事を話す。

 転移座標を書き換えられ、結界に囚われたこと。

 3対1になるも、なんとか勝った事。


 アルカナの同時開放と、ソラを使った身体の交換については伏せておく。

 話しても良いのだが、客観的に考えた場合、身体に負荷が有ると言われて、またジャンヌさんの所に行けと言われそうだからだ。


 それと、リンネとの会話とリンデから渡されたメモリースティックについても黙っておく。

 これについては内容次第と言ったところだろう。


 なるべく掻い摘んで話しながらも、重要な事は黙っておく。

 

「こんな所ですね。後はレンさんから報告があったと思いますが、破壊された魔法局の関係者を治療をした程度ですね」

「分かりました。これで倒された破滅主義派のメンバーは5人ですか……一応下位のメンバーと思われる魔法少女はこちらでも倒したと報告が上がっていますが、幹部クラスを倒せたのはイニーだけですね」


 そりゃそうだろうとしか言えない報告だな。

 向こうは結界を張れるし、転移も出来る。


 強さも下手なランカーよりも上なのだから、逃げようとすれば簡単に逃げる事が出来る。

 俺の場合は殺しに来ているのを殺しているから倒せているが、逃げを選択されたらどうしようもない。


 ロックヴェルトが良い例だろう。


 魔法を封じる事が出来れば良いのだが、そんな手段は持っていないので、逃げるのを防ぐ手段がないのだ。


「向こうも不利になれば逃げますからね。倒せないのは仕方ないでしょう」

「それでも倒さなければ、我々に未来はないのですがね……。さて、話は変わりまして、こちらから一つ報告があります」

 

 レンさんからの報告が終わり、アロンガンテさんが仕切り直す。

 アロンガンテさんからの報告。

 間違いなく衛星についてだろうな。

 

「イニーが破壊した山についてですが、実はそれだけでは済まなかったようです」

「山の先……もしかして宇宙まで届いてたのかしら?」

「その通りです」

 

 アロンガンテさんがリモコンを取り出してボタンを押すと、執務室の壁に映像が映される。


 それは半壊した衛星だった。


 ものの見事に壊れており、どう見ても正常に動いているようには見えない。


「見ての通り、抉られた山の直線上にあった衛星が壊れていました」


 うん。アクマから聞いてたから良いけどさ、2人ともそんなジトっとした目で見るのは止めてくれませんかね?

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