魔法少女は拉致をする(犯罪です)

 リンデを助けてから魔物を倒したり危なそうな魔法少女を助ける事約2時間。


 12時には一度家に帰らなければならないのだが、俺はレンさんよりも早く帰らなければならない。


 米は家を出る前に炊いてあるので問題なく、うどんも時間が掛かる物ではないので問題ない。


 少し早めに帰り、昼食の準備をする。


 うどんを茹でたり油揚げに酢飯を詰めたりしていると、レンさんが帰ってきた。


「ただいま。良い匂いがするわね」

「おかえりなさい。昼食はうどんとお稲荷さんになります」

 


 男1人暮らしなので、最低限の料理は出来るが、誰かに料理を振る舞うのはこれが初めてだな。

 初めての相手が、このレンさんになるとは思わなかった。


「もう出来るのかしら?」

「はい。後は茹でたうどんを、丼によそえば終わりです」 


 レンさんはお稲荷さんが盛られた皿をリビングに運び、飲み物の用意をしてくれた。

 さて食べましょうという時に、リンデが訪ねて来た。

 

 一応リンデの分もあるが、イギリス人ってお稲荷さんを食べられるのだろうか?

 

「こんにちは! お昼は……」

「リンデの分もありますよ。座って下さい」 

「あ、ありがとうございます」


 リンデの分のうどんをよそい、リビングに持っていく。


「箸とフォークはどちらを使いますか?」

「フォークでお願いします」


 リンデだけが美味しい美味しいと言いながら食べ、俺とレンさんは黙々と食べる。

 昨日と違い、レンさんのお箸の進みは早い。


 食べ終えた後は食器を片付け、午後に向けた打ち合わせだ。


「レンさんの方はどうでしたか?」

「数ヶ所支部を回ったけど、活気が無いわね。それと、職員と魔法少女の仲は駄目そうだったわ」  

 

 バイエルンさんの言葉に、嘘はないって事か。

 オーストラリアも結構険悪な状態だったが、存亡を賭けた戦いとなれば流石に協力をしていた。


 ……俺が脅したのもあるが、それでも協力はしていたのだ。


 これは個人的な感想だが、大人と子供が分かり合うってのは難しい話だ。

 一致団結出来ている間は良いが、小さな綻びが肥大化し、大きな罅になり、最後は砕けてしまう。


 そうなってしまえば、直すのは相当難しい。

 しかも、悪いのは大抵大人の方なのだ。

 利権や金。名誉や優越感。


 そんな物の為に魔法少女を誘惑し、腐敗していったのだ。


 勿論魔法少女側が悪い事もあるが、魔法少女の事は、魔法少女の間で処理出来ていた。

 これまで指定討伐種が、歴史に残る様な大事件を起こしていないのが、その結果だろう。


 力が有るとは言え、ほとんどの魔法少女は子供なのだ。

 それを導くのが大人だと言うのに……。


「そうですが。この後はどの様に行動をするんですか?」

「支部を回って、脅していくことにするわ。あのバイエルンって人の所に、全ての支部局長を連れて行って、先ずは話し合いね」

「あのー、それって大丈夫なんですか?」


 リンデが心配するのは当たり前だろう。

 話し合いと言っているが、その前に脅して拉致すると言っているのだ。


 ランカーだからと言って、魔法少女にはそんな強攻手段を取れる権限はない。

 下手すれば国際問題になるだろう。


「穏便になんて言っている暇はないわ。それに、何かあれば、アロンガンテがどうにかしてくれるはずよ」


 そうですねと思ってしまうが、口には出さない。

 アロンガンテさんが、レンさんに冷たい理由が分かってきた気がする。


「それに、何かあれば私が全ての魔物を受け持てば問題も起きないでしょう? 魔物が居なければ、魔法局と魔法少女は必要無くなるでしょうからね」


 暴論だが、その通りと言えばその通りだ。

 魔物が居なければ、魔法局と魔法少女は動かなくても済む。

 一応レンさんのサポートが必要だが、そんなのは1人か2人で済む話だ。


 ならばその間に話し合いをしていても問題はないだろう。


 まあ、そんな事を出来る魔法少女は、そうそう居ないのだがな。


「流石にそれは無理なんじゃあ……」

「私なら問題ないわ。それに、イニーも出来るんじゃなくて?」

「数時間なら、可能かもですね」

 

 アルカナの力を乱用すれば、イギリス程度の広さなら可能だろう。

 SS級やイレギュラーの対処に不安はあるが、オーストラリアで一応実証済みだ。


 リンデの視線が初めて会った時から、どんどんヤバい人を見るような視線に変わっていってるが、ヤバイ人のカテゴリに、俺を含めるのは止めてほしい。


 俺は借り物の力だが、レンさんは素でこれなのだ。

 まさに化け物と言った感じだ。


「イニーの方は、どうだったの?」

「討伐されていない魔物を、討伐していました。後は危なそうな魔法少女を、助けていました。今の所、例の影も無いですね」

「あの時は、ありがとうございました」


 リンデ以外にも危なそうな魔法少女は数人居たが、サクッと倒してから一言告げ、怪我をしていたら勝手に治して、お礼を言われる前に逃走を繰り返した。

 ついでに討伐されていない魔物も一通り倒したので、多少治安も良くなるだろう。

 

 例の影とは魔女の事だが、レンさんには伝わるだろう。

 

「そう。今の所は問題なさそうね。それじゃあそろそろ行きましょう。移動は任せたわよ」

「分かりました。どの支部に行きますか?」

「何所でも良いわ」


 そう言うと思ったよ。

 どうせ全部回るのだし、適当で良いか。

 イギリスの魔法局は本部を入れて6ヶ所ある。


 名前までは憶えていないが、アクマがどうにかしてくれるだろう。

 

「それでは適当に捕まって下さい」


(適当に頼んだ)

 

『了解』


 2人が服を掴むのを確認してから、アクマに転移してもらう。

 そう言えば、どの辺りに転移してくれって言ってなかったが、大丈夫だろうか?


 景色が変わると、目の前には高そうな椅子に座った男が居た。

 ……ああ、やっぱりアクマは悪魔らしいな。


「だ、誰だお前たちは! 私が誰だか分かっているのか!」

「あら? 直接なんてせっかちなのね。確かニューポート支部の局長だったわね」


 せめて入り口からの方が良かったが、よくよく考えると、どう転んでも荒事になる可能性があるんだよな……。

 そう考えると、直接来るのが一番良かったのか?


「そうだが……いや、その顔は見覚えがあるぞ。確か日本の……」

「自己紹介なんて、後で良いでしょう。単刀直入に聞くけど、今の現状をどう思っているかしら?」


 ニューポートの局長はレンさんに聞かれ、僅かに目を迷わせる。

 先ほど知っていると言っていたから、どう答えれば良いか迷っているのだろう。

 

 答えを間違えれば、殺されるかもしれない。

 

 そう思っていても、おかしくない。


「――あまり良い状態ではないと思っている。だが、下手に魔法少女を信用出来んし、バイエルンも信用できないのが現状だ。ならば、出来る事をやるのが、私の仕事だと思っている」

「そう。なら現状を打破するのに、力を貸してくれるわよね?」


 因みにだが、この部屋には誰も入れないようにアクマが手を回している。

 どんどん冷や汗を流しているこの局長も、何故誰も来ないのかと焦っているのだろう。

 

 仮に来たとしても、レンさんには勝てないので、意味はないがな。


「……ああ」

「イニー」

「はい。直ぐに戻るので待っていて下さい。何か伝えることはありますか?」

「会議室を用意して待っているように伝えて」

「待て。一体何の話を……」


 喚き始めた局長に触り、バイエルンさんの所に転移する。

 バイエルンさんは先日と同じく事務仕事をしていたが、俺らが現れると、大きく目を目を見開いた。


 ニューポートの局長は座っていた状態で転移したので、尻餅をついてしまったが、俺は悪くない。


「レンさんから伝言です。全局長を運んで来るので、会議室を宜しくとの事です」

「いや……うむ……分かった」


 バイエルンさんは何か言おうとしたが、相手がレンさんでは、何を言っても無駄だと思ったのだろう。

 ただ、頷いた。


「気持ちは察しますが、穏便にやるには遅すぎたんですよ。今はただ、従いなさい」

「そうだな……頼む」


 色々と遅すぎたのだ。

 もしかしたら次の瞬間には、魔女が動き出すかもしれない。

 グダグダとやってはいられないのだ。


 転移してレンさんの所に戻ると、なにやら局長の椅子に座って作業をしていた。


「どうしたんですか?」

「局長が居なくなっても混乱しないように、アロンガンテにお願いしといたのよ。念には念をってね。次に行きましょう」

「これって一応犯罪になるんじゃあ……」


 リンデの言う通りだが、最終的にはアロンガンテさんが、丸く収めてくれるだろう。

 その後も残りの五ヶ所を回り、バイエルンさんの所に送り届けた。

 

 一ヵ所だけ護衛の魔法少女が居たが、レンさんがサクッと気絶させてしまった。

 気絶と言っても魔法の一撃なので、結構酷い有り様だった。

 俺の回復魔法がなかったら、当分の間病院送りになっていたかもしれない。


 これで魔法局の局長は集め終わったので、会議となるが、上手く話が進むことを祈ろう。

 まあ、駄々をこねる奴が出たとしても、選べるのは局長を辞める事だけだ。

 仮に辞めないで居座ろうとすれば、レンさんがどうにかするだろう。


 何をどうするかとは言わないが、その人とは二度と会えなくなるだろうな。


 リンデは終始おどおどしていたが、少しは勉強になったはずだ。

 力がなければ、何も出来ない。

 そして、力が有る者はそれ相応の仕事をしなければならない。


 もしもレンさんが魔法少女としての仕事をしなければ、おそらく楓さんが動くのだろう。

 辞めるか、それとも働くかを迫り、今のイギリスの局長たちみたいになるだろう。

 正直何故レンさんがランカーになったか分からないが、今の所強引だがちゃんと仕事をしている。


 この姿勢だけは、リンデも見習った方が良いだろう。

 

「終わりましたが、魔法少女の方はどうするんですか?」

「そっちはどうとでもなるから構わないわ。わめく大人さえどうにかなれば、方法は幾らでもあるのよ」

「そうですか。それでは私たちも戻りましょう」


 レンさんとリンデが掴まってからイギリス魔法局本部に転移する。

 これから行われる会議で、イギリスの存亡が決められると言っても、過言ではない。


 一応バイエルンさんはアロンガンテさん側の人間だが、だからと言ってその腹の内は分からない。

 そして、他の局長たちは微妙って言葉が似合う奴らばかりだ。


 とりあえず、意見が纏まる事を祈ろう。

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