魔法少女は会議を見守る
「集まっているわね。誰も逃げなくて良かったわ」
会議室にはバイエルンさんを筆頭に、俺が連れてきた局長たちが座って待っていた。
逃げなくてと言っているが、逃げたらその時点で終わりだからな。
責任か、それとも金か。
どちらの理由なのかねぇ?
「待て、リンデも会議に参加させるのか?」
「ええ。イギリスの魔法少女として見守ってもらう予定よ。勉強には丁度良くないかしら?」
バイエルンさんは苦い顔をするが、レンさんに言い返す事が出来なかった。
確かリンデはバイエルンさんの孫だったから、これから行われる会議を見せたくないのだろう。
魔法少女なんて煌びやかな言葉の裏に隠された、社会の闇。
それを見せたくなんてないのだろうな。
空いてる椅子が2つ有り、片方にレンさんが座り、もう片方にリンデを座らせる。
俺は名目上ただの補佐なので、後ろに立って控える。
椅子を用意しようかとも聞かれたが、今回はこれで良いだろう。
集まっている6人プラス俺たち。
ロンドン魔法局本部のバイエルンさん。
ロンドン魔法局支部のライリーさん。
ニューポート魔法局支部のアルバートさん。
グラスゴー魔法局支部のエアさん。
レスター魔法局支部のハリーさん。
ヨーク魔法局支部のフレディーさん。
「自己紹介なんてものはいらないわね。何故集められたか分かるかしら?」
「分かってはいる。だが、悪いのは野放しにしていた本部と、従っていた魔法少女であり、私は現状で出来ることをしていただけだ。それについてはどうこう言われる筋合いはない」
信用できないから、やれる事をやる。
アルバードさんの言っている事は間違ってはいないが、今回については間違いである。
会社や学校なら自己責任で済むが、魔法局ではそれは駄目だ。
既に魔法少女にも、一般人も被害が出ている状態でその言葉を言ってはいけない。
命が掛かっている仕事で、出来る事をやってるから文句を言うなってのは、感情を逆撫でするだけだ。
「そうですよ。確かに一部の魔法少女とは上手くいっていないですが、それは向こうも悪い訳ですし、今以上の事は難しいかと」
エアさんが同調し、他の局長も大体頷く。
バイエルンさんだけが苦い顔をするだけだ。
リンデの顔は見えないが、あまり良い気分ではないだろうな。
「そうね。それで問題無く回っていたらそれでも良かったのだけれど、駄目なのは分かっているでしょう? これまでの事は大目に見るけど、今からはバイエルンに従いなさい」
「それは……」
「あまりにも……」
レンさんの言葉に異論を唱えたいが、言葉次第ではレンさんが牙を剝く。
それが怖いのが、もごもごと言うだけだ。
「本来なら魔法局は本部の意向に沿い、各局が連携して魔物と戦う。もしも国の事を思うなら、話位は聞いて上げても良いんじゃないかしら?」
問題点として、誰もバイエルンさんの話を聞かなかった事が原因だ。
イギリスの魔法局の腐敗がどれだけ深刻だったのかは知らないが、せめて話位は聞いていれば、もう少しマシだったのかもしれない。
昔あった国同士の戦争も、最初はちょっとした勘違いや意見の食い違いから始まり、小さな積み重ねが肥大化した結果、互いに殺し合う戦争となる。
思想や宗教などの関係もあるかも知れないが、最初は小さな火種からなのだ。
レンさんはバイエルンさんの方に顔を向け、話せと促がす。
様々な思いを込めながら、全員がバイエルンさんを見る。
「――先ずは私が不甲斐ないばかりに、魔法局の腐敗を止める事が出来ずにすまなかった」
バイエルンさんは静かに頭を下げた。
「そして、イギリスの現状も私に責任がある。各位が思う事もあるだろうが、魔物……破滅主義派の脅威が去るまでは何も言わず私に力を貸して欲しい。全てが終わった後、私は責任を取って局長の座を降りる。その後なら好きにやってもらっても構わない」
何も言わず、全てを受け止める。
選択としては間違いではないだろう。
ここで何か言い訳をすれば水掛け論となり、レンさんの仲裁が入る可能性がある。
だがここで泥を被れば、馬鹿でもない限りバイエルンさんに従うだろう。
それに破滅主義派……魔女が居なくなれば魔物の脅威も下がり、多少の事なら問題にならない。
まあ、馬鹿な事をすればアロンガンテさんやレンさんがどうにかするだろう。
「さて、バイエルンはこう言ってるけど、あなたたちはどうするのかしら? 子供みたいに追及するのか、大人として受け止めるのか。どちらかしらね?」
「……分かりました。私は従いましょう。しかし、少しでも不穏な動きがあれば、私は独自に動こうと思います。それで裁かれることになろうとも」
最初に発言したのはエアさんだが、どんな状況でも独自に動き始めたのが分かればレンさんが消すだろう。
最悪の場合イギリスと言う国が無くなり、妖精とかが代理で管理することになるかも知れないが、その時はその時だ。
俺には関係ないし、最低限の人口を保てれば世界としては大丈夫なのだろう。
何があっても、アロンガンテさんやレンさんに任せるだけである。
エアさんに始まり、他の局長たちも不請と言った感じだが、とりあえず命令には従うと明言した。
「一旦纏まったから、次は指針について話すわね。魔物の討伐は3人1組で行うように通達なさい。また、S級以上の魔物は必ずランカーを同行させること。それと、命令違反の魔法少女は厳しく取り締まるように。何か質問はあるかしら?」
「取り締まると言っても、それをする為の戦力が無いのですが……」
ライリーさんは消え入りそうな声で発言するが、ランカーも少なく、ランカーに準ずる実力の魔法少女もほとんど居ない。
それは既に分かっているので、面倒そうなのは昨日の夜の残業で、粗方倒してある。
「それについてだが、昨日の夜に謎の魔法少女により、イギリス内に巣くっていた指定討伐種や、素行の悪いものはほとんど倒されている。これから先は問題無いだろう」
その言葉にほとんどの局長が驚くが、下から報告は上がっていなかったのだろうか?
結構な数を倒していたので、どの魔法局にも異常として知らせがいっているものだと思ったんだがな……。
どうやら上だけではなく、下も駄目そうだな。
しかし、此処まで酷いと何かの力が働いているのではないかと疑ってしまう。
(イギリス内に、破滅主義派の影はないんだよな?)
『そのはずだけど、この世界の破滅主義派のメンバーを全員知っている訳じゃあないから、絶対とは言えないね。私たちを欺いていたとしても、おかしくないよ』
欺くか……探知や索敵はアクマ任せだし、そのアクマが見つけられないのなら、俺にはどうしようもない。
とりあえず一撃で死ななければ回復する事は出来るので、不意打ちにだけは気を付けよう。
なんにせよ、既に破滅主義派が動いているものだと仮定しといた方が良いだろう。
「それなら良いが、魔法少女の消耗率についてはどうなっている? 正直かなり厳しいのだか」
「此方もですね。なんとかやりくりしていますが……」
魔法局同士連携して頑張りましょうと指針は決まったが、頑張る為の魔法少女が居ない。
「各魔法局の財政はどうだ?」
「外部から魔法少女を呼ぶほどの余裕は……」
こんな状態でやりくりしているのだから、そりゃ金もないわな。
国外から借りるにしても、それを返せる当てがない。
まあ、金があったとしてもどうにかならないとは思うがな。
重苦しい空気が場を支配し始めると、レンさんがクスクスと笑い始めた。
「そうね。もしも此処で、周りの状況を知る事が出来なかったらどうなっていたかしら? ギリギリまで耐えて、助けを求めたら相手もギリギリで共倒れ」
レンさんは全員を見渡し、様子を伺う。
「お金も想いも権力も、等しく力の前には無価値なのよ。そして、あなたたちに現状を打破する力は――無い」
「ならばどうすると言うのだ? 我々を集めたのはあなたなのだろう?」
責任転換ともとれる、フレディ-さんの言葉。
つまり、レンさんの言葉通りだと認めているようなものだ。
「そうよ。けど、私にあなたたちを救わなければならない理由は無いもの。別に国として亡びても、人が居れば建て直すことは可能だわ。そうすれば少しはまともになるんじゃなくて?」
「しかし!」
表向きはイギリスの救援だが、やり方は任されてるし、酷いようなら強引な方法もやむなしとなっている。
最悪支配層が滅ぶくらいなら、大目に見られるだろう…………多分。
フレディーさん以外の局長もレンさんに反論をするが、バッサリと切られる。
現状を正確に認識したと思われる頃、レンさんはバイエルンさんの方を見た。
「さて、もうそろそろ私から提案させてもらうわね。此方の行動に一切の制限をせず、黙認するなら助けて上げるわ。勿論あなたたちの
クビが首と聞こえた様な気がするが、この人の場合は物理的な意味なのだろう。
限界まで追い込んでから助け舟を出すのは交渉の基本だが、レンさんは一体何歳なんだ?
「どう助けてくれると言うのだ?」
「イニーの事は知っているでしょう? 全員治してあげるわ。費用は私が持つから安心して。それと、その間は私が全ての討伐を受け持ってあげる。流石に一般人もとは言えないけど、関係者までなら治療してあげるわ」
普通なら何を馬鹿な事と切り捨てる提案だが、俺とレンさんなら可能である。
これは主に魔法系の魔法少女に言える事だが、射程をほとんど気にしないで戦えるため、やろうとすれば1国位なら1人で回す事が出来る。
出来ると言っても、日本で言うならタラゴンさんとレンさん。
ついでに楓さん位だろう。
国外ならストラーフさんも出来るのではないだろうか?
ただ、建物や地面などへの被害が凄い事になるだろう。
しかしレンさんの場合は、この被害が最小に抑えることが出来るはずだ。
そしてさらっと怖い要求をしているが、それが本命だろう。
何も起きなければ良いが、オーストラリアの様なことになった場合、レンさんと俺は、何をしても許される免罪符を手に入れることが出来る。
「良いのか?」
「ええ。あなたの上からの命令でもあるから。異論はあるかしら?」
追い詰められている彼らに、レンさんの言葉を正確に理解は出来ないだろう。
目の前に垂らされた糸に縋るか、それともそのまま地獄に落ちるか。
選ぶしかないのだ。
ついでに、魔法少女の治療を行えば、魔法少女側の不信感も払拭出来るだろう。
そうすれば多少は協力的になるだろうし、後はイギリスのランカーと、レンさんがどうにかしてくれるはずだ。
「無さそうね。治療は今から3時間後にこの本部で行うから、遅れないように各自連携してね。もしも問題が起こるようなら、その時点で国として終わると思いなさい」
「分かった。支部局長たちも協力を頼む。さあ、行くぞ!」
バイエルンさんの一言で局長たちは動き出し、会議室を出て行った。
何人かが俺に視線を向けたりしていたが、ガン無視である。
「どうだったかしら?」
レンさんは、隣で黙っていいるリンデに話しかけた。
「……私の国って本当に危ない所だったのですか?」
「ええ。私たちが来なければその内滅んでいたでしょうね」
リンデは膝の上で両手を握り締めて俯く。
何を考えているかを察するのは簡単だ。
だが、それを糧に成長するか、殻に閉じこもるかはリンデ次第だ。
「私たちも動くとしましょうか。すまないけど、イニーには頑張ってもらう事になるわ。今回の治療費は私が出すから、お願いね」
正直治療費などいらないのだが、無償でやるには規模が大きすぎる。
貰うだけ貰ってアロンガンテさんに寄付するかな。
「分かりました。出来れば私もそっちに回りたいですが、今回は我慢するとします」
治療で人を相手にするよりも、討伐で魔物を倒す方が個人的には良いのだが、今回は従うとしよう。
どうせ奴らと戦う事になるのだ。
戦っても楽しくない魔物を譲るくらいどうってことない。
昨日の夜の戦いで、少しは気が晴れている。
「ありがとう。補助はいる?」
「慣れてるので大丈夫です。折角なので連れて行ったらどうですか? 私も昨日連れて行きましたからね」
「そうしたいのだけど、ちょっと本気を出すから難しいわね」
ああ、氷漬け事件か。
「そうですか。なら此方で引き取ります」
「ありがとう。それじゃあまた夜か、朝に会いましょう」
そう言い残して、レンさんは会議室を出て行った。
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