魔法少女は魔法少女を助ける

 眠い眼を擦りながら起き上がる。

 変身する事で、着替えを省略する。


 男だった頃は一徹位出来たが、今は夜更かしすら辛い。

 今日は、昨日潰した魔法少女の分も働かないといけないので、早く支度をしなければ。


 ついでに、レンさんと自分の朝食も作ってしまおう。


 パンをオーブンで焼いて、ソーセージと卵をフライパンで焼いて乗っければ完成である。

 リビングに運んでいると、レンさん……名前も教えてもらったがレンさん呼びで統一しといた方が間違いがないので、そうする。


「おはようございます。何か飲みますか?」

「おはよう。緑茶か玄米茶をお願い」


 選ぶ飲み物が渋いが、両方とも持ってきて有るので、玄米茶を淹れる。

 紙パックなので簡単だ。


「昨日の夕飯と違って美味しいわね」

「味付けは国ごとに違いますから、仕方ないですよ」


 パンはバターを塗って焼き、卵とソーセージは塩コショウで焼いただけである。

 リンデの料理は食えなくはないが、妙に薄かった。

 素材の味を活かすと言うよりは、そのままだ。


「昼食はどうしますか?」

「一度戻ってくるとするわ。あっさりした物が良いわね」

「分かりました。12時位には私も戻るようにします」


 さっぱりしたものか……うどんといなり寿司で良いかな。

 幸い米と炊飯器はあるので、作ることができる。

 

「ご馳走様。それじゃあ私は行くわね」

「はい。無暗に魔法を使わないように、気を付けて下さい」

「善処するわ」 


 俺に被害がないからいいが、善処するって事はやる可能性もあるって事だ。

 頑張れよ、イギリスの人たち。


「イニーもやりすぎないようにね」

「善処します」 

 

 食べ終えたレンさんは変身すると、直ぐに簡易テレポーターで跳んでしまった。


 食器を洗い、シャワーを浴びて準備完了だ。


(それじゃあ行こうか……と言いたいが、家の周りに反応はあるか? ついでにイギリス内の魔物の反応は?)

 

『2人近くに居るね。それと、まだまだ徘徊している魔物は居るね』


 昨日結構倒したが、山や森など人が足を踏み入れる可能性がなさそうな所は、後回しにしたからな。


 少し無理をすればオーストラリアの時みたいに殲滅出来るが、やり過ぎるなと言われているので、自重しよう。


(2人ね。目的は分かるか?)


『今は様子見してるだけだね。魔力反応から調べてみたけど、2人とも使い走りみたいだね。無視で大丈夫だよ』


(そうか。基本的に俺もレンさんも転移で移動するので、見ていても意味がないのに、ご苦労なこった)

 

 この家は防音の面もしっかりとしているので、魔法でも使わない限り盗聴など出来ない。

 家の中にあったのは昨日処理したので、まさに見ているだけである。


(それじゃあ頼んだ。了解。強い順から送っていくよ) 

 

 強いと言っても、B級以下だろうからな。

 A級を放置している程馬鹿ではないだろうし。


 視界が変わり、うっそうとした森……雪の中にダイブする。


(もう少しどうにかならなかったのか?)


『うん……ごめんね』

 

 どうやらわざとではないので、許すとしよう。


炎波フレイムウェーブ


 炎の波で周りの雪を解かす。


 ついでに魔物も討伐出来てしまった。


(次)


『先に言っておくけど、イギリスって結構自然が厳しいから、転移先は注意してね』

 

 出来れば最初に言ってほしかったが、昨日は問題無かったので気を抜いてしまっていた。


 次の転移先は湖の畔だった。

 氷が張っているが、雪はそこまで積もっていない。


 魔物は湖の中か……普通の生物もいるので、あまり高火力の魔法は使わない方が良いが、どうしたものか……。


 出来る事なら全て蒸発させるか、氷の塊でも落としたいが環境破壊は出来ないのだ。


 仕方ないが、氷槍を当たるまで撃ち続けるか。

 

氷槍の庭園アイス・オブ・ガーデン

 

 湖の上に大量に氷槍を作り、待機させる。


(マーカーを頼む)


『了解』


 視界に敵の位置が赤く表示され、1本の氷槍を落とす。

 しかし魔物には突き刺さらず、外れてしまった。

 見えないものに当てるのは少々難しいな……。

 

 ただの魚なら簡単には当てられるが、相手は魔物だ。

 ついでに水の抵抗を受けるので地上とは違い、到達までにタイムラグがある。


 まあ、数射てば当たるだろうが……ここまで多くの氷槍を用意しなくても良かったな。


 それから14回程射ってやっと倒すことが出来た。

 被害は魚1匹だけなので、上々の結果と言えるだろう。


 最初と2回目は少し大変だったが、それからは淡々と倒していった。


 一通り倒されていなかった魔物を倒した時だった。


『おや? リンデが魔物と戦っているみたいだね。仲間も居るみたいだけど、どうする』


(どうするとは?)


 一応魔法少女なのだし、戦っているのは普通の事だろう。

 

『多分だけど、ちょっと危ないかもね』


 危ないか……。


 助けるか、それとも放っておくか。

 タイミングが良すぎる気もするが、人生なんてそんなもんだろう。

 

(面倒だが、見に行くか……適当に上空へ送ってくれ)

 

『了解』


 翼となれフリューゲルで翼を生やしてからアクマに転移してもらう。


 イギリスは曇りの日が多いらしいが、今日は運良く晴れだ。

 多少雲が多いが、身を隠しながら覗くには丁度良い。


 眼下では2人の魔法少女が、4匹の魔物と戦っている。

 流石に見難いので、氷のレンズを作って拡大する。


 勿論、魔力の消費量は凄まじい。


(確かにこのままでは負けそうだな)


『でしょう?』


 魔物は4匹とも狼型だ。


 敏捷が高く、ネチネチと嫌な攻撃をする事に長けている。

 そして獲物が弱ったら一気に襲い掛かる。

 

 新人魔法少女が、命を落としやすい魔物だ。

 

 今も2人は魔物に翻弄され、傷が増えていっている。


 簡易テレポーターがあれば逃げることも出来るだろうが、狼型から走って逃げるのは難しい。

 後は俺みたいに空を飛べれば問題ないだろうが、見た所それも出来なさそう。

 

 さて、助けるのは簡単だが、今回の俺は任務……仕事としてイギリスに来ている。

 助けて終わりなら良いが、そうもいかないのだ。


 仮に姿を見せないで倒したとしても、俺が倒したと直ぐにバレるだろう。


 ま、見殺しにも出来ないので、助けるとするか。


炎弾フレイムバレット」 


 誤射の恐れはないが、念のため視認しやすい火の魔法を使う。

 無数の炎の弾は正確に魔物を撃ち抜き、塵へと変える。


 戦っていた2人の魔法少女は驚いて周囲見渡すが、俺が居るのは頭上なので、直ぐには見つからない。


 さて、降りるとするか。


「大丈夫ですか」

「あなたは……」

「い、イニーちゃん!」


 知らない方の魔法少女は降りて来た俺を怪しむが、リンデの方は普通に出迎えてくれた。


「今のはイニーちゃんが?」

「ええ。危なそうでしたので援護させていただきました。私が勝手にやったので、報酬はいらないです」

「でも……」

「リンデ。この魔法少女は知り合いな……の? …………イニー……イニーフリューリング!」

「あっ、はい。日本から来た魔法少女で、日本ランキングの2位の補佐として同行しています」


 名も知らぬ魔法少女は驚いてから顔色が悪くなり、僅かに後ずさってから頭を下げた。

 どうしたかとリンデの方を見ようといた、その時だった。

 

「助けて頂きありがとうございます!」

「どうしたんですか先輩?」

「リンデも頭を下げなさい! この方が誰だか分ってるの!」


 まだ名前を知らない魔法少女はリンデの頭を掴み、一緒に下げさせる。

 この方と言われたが、こっちとしてはどの方? である。


「いた! えっ? 先輩は知ってるんですか?」

「魔法少女としての記録を次々と塗り替え、既に最強の一角に名を連ねる魔法少女よ! 更に回復魔法もあの聖女様と同等と言われているのよ! 分かりやすく言えば、ランカーと同じなのよ! このお馬鹿!」

「ふみゃ!」


 あっ、叩かれた。

 基本噂の類は見ない聞かない触らないを心がけているので、この様に反応をされても困るだけだ。


 とりあえず助けたことは伝えたし、去るとしよう。

 

「お礼は結構です。それでは失礼します」


(次に頼む。それと、危なそうな奴が居たら言ってくれ)


『了解』


 まだ何か話しそうだったが、無視して転移する。

 一応転移前に回復だけはしておいたが、後で拝まれない事を願おう。

 

 12時までは後2時間位か……出来る限り頑張ろう。

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