魔法少女と新米魔法少女

 アロンガンテさんが用意してくれた拠点……家はロンドンの郊外にあった。


 ここでイギリスについて、少し思い出しておくとしよう。


 イギリスは元々連合国であり、軍事力としても世界で見れば上位に位置していた。

 しかし魔物の出現により、悲惨な運命を遂げることとなる。


 過程は飛ばすが、最終的にアイルランドが海に沈み、スコットランドも一部の領土が海の中だ。


 魔法によって領土を元に戻す話し合いもされたらしいが、管理の観点からそのままとなった。


 何故ここまで大打撃を受けたかというと、魔物や魔法少女が現れた時の初動のせいだ。

 なまじ軍事力があったせいか、軍部が自分たちでどうにかすると啖呵を切ったらしい。

 

 政府も軍部の意向に賛成したが、結果として今の有り様となった。

 

 政府と軍部は信用を失い、代わりとして魔法局があったが、この前の騒動で同じ末路を辿ろうとしている。

 魔法少女側も度重なる戦いでベテランを失い、上に立てる度量がある人も消え去り、お先真っ暗である。


 さて、なぜこんな話をしたのかと言うと、要はイギリスに余裕のある人間がいないのだ。


 視察も兼ねて外を少し歩いたが、明るい雰囲気とは言い難い。

 

 そんなこんなで家に着いたが、やはり問題が起きたのだ。

 セキュリティ自体は問題ないのだが、中に問題があった。

 

「掃除が必要ですね」

 

 入っている家電やベッドなどは袋が被せてあるので大丈夫だが、家の中は全体的に埃っぽい。

 一度風を通して掃除しないと駄目そうだ。


 掃除とかされているのが普通だと思うが、小言を言った所で何も始まらない。

 

「あ、あの、頑張ります!」


 居心地悪そうなリンデだが、やる気はあるようだな。


「レンさんは先に魔物の討伐に行きますか?」

「そうね。私が居ても邪魔になるだろうし、先に顔見せに行ってくるわね」

「分かりました。夜には戻ってきて下さいね」


 レンさんは簡易テレポーターを使って何処かに行ってしまった。

 さて、やるとするか。


 こんな事もあろうかと、掃除道具一式は持ってきてある。


「あの、どこから掃除をしますか?」


 おっかなびっくりと言った感じで声を掛けられたが、気にする必要はない。

 掃除の基本は上からやって四角くやるのだ。


(アクマ)

 

『はいはい』


 アクマに掃除用品一式を出してもらうが、何故かリンデには悲鳴を上げられた。


「2階の掃除をお願いします。天井の掃除は出来ますか?」

「出来ます」

「よろしい。私は先にキッチンや水回りをやるので、2階が終わったら声をかけて下さい」


 料理を作るのは俺ではないが、やはり料理が作られる場所は綺麗な方が良い。

 料理で思い出したが、リンデに料理を任せるのは止めた方が良いかもしれない。


 昔から言われ続けている逸話がイギリスにはある。

 そう、飯がまずいのだ。

 正確には異なるらしいが、日本人の舌と、イギリス料理は相性が悪いらしい。


 もしかしてこの事もあってアロンガンテさんは、飯は自分で作るように言っていたのだろうか?

 とりあえず掃除をしてしまおう。


 それと、襲ってくるような連中はいないだろうが、様子見をする奴らは間違いなく居るだろう。


 アロンガンテさんもそれなりに情報をくれたが、全体で情報の共有をしていない。

 誰がどれだけの情報を持っているか。


 言葉には注意しないとな。


 ついでに、破滅主義派の目は一番気を付けなければな。

 奴らがこっちに目を向けてくれれば、アクマが探知することが出来る。


(周りの様子は?)

 

『今の所気になる魔力反応はないね』


(なら良いが……そうだ。1階に例の結界をを張れるか?)

 

「張れるけど、どうして?」


(ちょっと試してみたい事あってな) 

 

 先日初めて恋人の能力を使ったが、もしも俺の想像通りなら面白いことができるはずだ。

 

『分かったよ……張ったよ。ついでに2階から降りて来られないようにもしといたよ』

 

「ナンバー6シックス恋人エルメス解放」


 フードは三角頭巾となり、ローブの色は白のままだが、動きやすい格好に変わる。


 杖は砕け散ったが、代わりに能力が使えるようになった。

 

『……多分アルカナの能力を掃除に使ったのはハルナが初めてだよ』


(それは光栄だな)


 今回は掃除に特化した状態となる。

 物に触れずとも動かすことができ、魔法も威力を抑えることが出来る。


 しかし、アルカナなので燃費は悪い。

 制限時間もあるので、注意が必要だ。

 

 時間ももったいないので、さっさとやってしまおう。


 窓を全て開け放ち、風の魔法で埃を全て外に吹き飛ばす。

 袋が被せられている物から袋を取り、叩いたり拭いたりを行う。


 水道やコンロは魔石タイプなので特に試運転しなくても問題ないな。

 最後に殺菌と盗聴機の確認をやり、1階の掃除は全て終わった。


 アルカナを解除して、軽くリビングを見回す。


 本来なら4時間程度掛かる掃除が4分で終わりましたとさ。


 後はリンデが終わるのを待つだけだが、調味料や食料の類を置いておこう。

 幸い冷蔵庫は空間拡張されているタイプなので、かなりの量を詰め込むことが出来る。


 適当に詰め込み、今度こそ終わりである。


 後は珈琲でも飲みながら待つとしよう。


 手動ミルでゴリゴリとやり、一杯淹れてリビングのソファーに座る。

 テレビを付けると、丁度良い感じにイギリスの国内について放送していた。


 俺が生まれる前は、言語は国ごとに違ったが、妖精によって、どの言語も意味が伝わるようになっている。

 文字は駄目だが、聞く分に問題ない。

 しかし、やっている放送は問題ばかりだった。


「あのー……」

「どうかしましたか?」

「終わったので確認をしてもらえたらと」

「分かりました。1階は既に終わっているので、休んでいて下さい。飲み物も用意しといたので、適当に飲んで良いですよ」


 少し残っていた珈琲を一気に飲んでから2階に向かう。

 2階には部屋が3つとトイレか。


 軽く見た感じ、汚れている場所もなさそうだな。

 家事が出来ると言うだけの事はある。


 リビングに戻ると、リンデはココアを飲んでいた。


 子供と言えばココア。そんな気がするな。


「大丈夫そうですね」

「良かったです。あの、そのフードってどうなっているんですか?」


 おや? もしかして俺の事を知らないのか?

 結構話題になっていたと思うが、国内で手一杯だったから、国外の事に疎いのだろうか?


「あまり良い顔ではないので、魔法で見えないようにしているんですよ」

「……そうなんですか?」

「ええ。だから気にしないで下さい。それより、私は魔物の討伐に行こうと思いますが、どうしますか?」

 

 やる事もやったし、イギリス内を少し探索しておこうと思う。

 多少やり過ぎても問題無いと、アロンガンテさんが言っていた気がするしな。


「付いて行きます! ……けど、大丈夫ですか? 最近は出現する魔物も強くなってきてますし、倒せるのですか?」

「……私たちの事を、バイエルンさんからはなんて聞いてますか?」

「ランカーの方とその補佐の魔法少女が来るとしか……すみません。私、自分の事で手一杯で世間の事をあまり知らないんです」


 思っていた通りだが、話す必要もないだろう。


「構いませんよ。多少の魔物なら大丈夫ですので、付いてくる気があるなら早くなさい……いえ、そのココアをゆっくりと飲んでから大丈夫です」

「はい!」


 一瞬しょぼくれた顔をしたのを、俺は見逃さなかった。

 ココアを飲み終わるのを待つ事にした。


 若干恥ずかしそうにしているが、何も言わないで待つとしよう。


「お待たせしました! 何所に行くんですか?」

「さっき言った通りです。私の肩に触って下さい」


 杖を出して戦いの準備をする。

 リンデは恐る恐る俺の肩を掴んだ。


(適当に倒せる魔物の所に送ってくれ)


『りょうかーい』


 ぱっと景色が変わり、浜辺に転移した。


「えっ? えっ! 転移したんですか!」


『後数秒したら海から現れるよ。C級が4体だね』


(了解)


 4体だろうが百体だろうが問題ないが、海から現れるとは珍しいな。


 海も空も基本は魔物の領域だが、率先して襲ってくるのは少ない。


 定期的にランカーが数を減らしているのもあるが、原因は知らない。


 国家間をテレポーターで移動できるから問題ないが、もしもテレポーターがなければ、海や空を移動する時はランカーが最低1人は必要になっていただろう。


 ……いつかは、空の魔物を倒しに行くのも面白いかもな。


氷槍アイスランス


 魔物が現れたのを確認してから、串刺しにして倒す。

 3匹中1匹が避けようとしたので、目の前で氷槍を破裂させて倒した。


「あの……ランキングはいくつなんですか?」


 魔物が現れるや否や、叫びながら俺に抱き付いてきたリンデが聞いてきた。


「不明ですね」


 本来なら11位が妥当となるのだが、結局不明のままである。

 ついでに魔物の討伐数は歴代10位以内に入ってるらしい。


「不明って……もしかして」


 さっと俺から離れ、ワタワタと慌て出した。

 なんとも感情豊かだが、もしかしての後は一体なんだ?


「勘違いしているようですが、私は正規の魔法少女ですよ。ランキングは不具合で決まっていないだけです」 

「そうなんですか?」

「ええ。そもそも正規でなければ、ランカーと一緒に居られるわけないでしょう?」

「……確かに。疑ってすみません!」


 頭を下げて謝るが、気にするほどでもない。

 しかし、バイエルンさんは、何故こんな微妙な奴を寄こしたんだ?

 本当に人手不足だと言うなら、国として終わっているぞ……。


「次に行きますので、付いて来る気なら早くなさい」

「はい!」


 邪魔者1名を引き連れて、適当に魔物を倒して行った。


 リンデが言っていた通り、平均してC級の魔物なので、ランキング下位の魔法少女には少々厳しそうだ。


 いつもなら倒した後に、討伐に来た魔法少女とすれ違ったりするのだが、そんな事は一度も起きなかった。


 また、建物も所々破損が見られ、戦闘跡も放置され気味だ。


 どうやら魔法局だけではなく、魔法少女側にも問題がありそうだな。


 レンさんが帰ってきたら、今後の方針を決めるとしよう。

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