魔法少女はイギリスに飛ばされる
珍しく休んだ……まあ午前中は拠点に行ったり模擬戦したり、討伐にも行っていたので、午後休程度だが、最近の俺としては珍しく休んだ。
休んでいたせいで試せてないが、後で第二形態は試しておかないとな。
ただ、第二形態になろうとするとアクマが難色を示すのが少し面倒くさい。
第二形態になる度に死に掛けたり、この前は実質死んでしまっていたので、アクマが嫌がるのは分かるが、俺が生きている以上は第二形態は必須なのだ。
確かにアルカナの能力は強力だが、俺の力ではない。
もしもアルカナの力が無くなった場合の事も考え、第二形態には慣れておく必要があると、俺は思っている。
それはさておき、イギリスに行く当日となった。
準備は問題なく終わり、アクマとタラゴンさんからジャージやパーカーを死守する事に成功した。
まさか準備中にタラゴンさんが帰ってくるとは思わなかった。
服については着るか分からないが、一応それなりの種類を用意した……させられた。
他にも色々と準備したが、バッグの方にはそれらしいものを入れ、残りはアクマが保管している。
四次元ポケットは便利である。
名残惜しみながら風呂に入り、時間になったのでアロンガンテさんの所に向かう。
一応予定については知らさせれているが、どうせ問題が起きるのは目に見えている。
どうか、イギリスが滅ばない事を祈るばかりだ。
「おはようございます」
「おはようございます。揃いましたが、少しお待ち下さい」
アロンガンテさんの執務室に入ると、昨日と同じく壁の端に氷の塊があった。
中に居るレンさんは神秘的であるが、性格を知った今では反応に困る。
……まさか、俺と別れてから此処で寝ていたのだろうか?
いや、流石に今の状況だと魔物の討伐に駆り出されているだろうから、終わってから此処で寝ていたのだろうな。
この人は起こされない限り寝ていそうだし、遅刻しないために、ずっと此処に居たのだろう。
アロンガンテさんが氷の塊を叩くとレンさんが中から現れ、眠そうにしながらテーブル上にあるバッグを背負った。
「それではよろしくお願いします。何かあれば連絡をして下さい。それと、レンは真面目に仕事をするようにお願いします」
「分かりました」
「分かってるわよ」
アロンガンテさんは心配そうにしているが、こればかりはレンさん次第なので、どうなるかは分からない。
追加情報でイギリスの魔法局本部の局長を教えて貰ったが、そこら辺の情報は昨日の内に、アクマに調べて貰っている。
調べてる途中にイギリスの酷さに驚いたが、仕事が始まる前に最低限の内容を覚えておくのは常識だからな。
学校で言えば予習と同じだろう。
向こうの局長はアロンガンテさんの仲間だが、どうやら魔法局や魔法少女を上手くコントロール出来ていないようだ。
そこら辺の内部事情はレンさん側の仕事だが、俺も同行しなければならないだろう。
全てレンさんに任せた場合、イギリスが氷漬けになる恐れがあるからな。
レンさんと並んでテレポーターに入り、イギリスの魔法局本部にテレポートする。
受付の妖精がジト目だったが、その内差し入れでもしてやろう。
「お待ちしておりました。フリーレンシュラーフ様とイニーフリューリング様ですね?」
ミグーリアや中国の時と同じく、テレポート先には出迎えの人が居た。
体格はそこそこ良いが、煤けた雰囲気の男と、少し気の弱そうな魔法少女か。
護衛にしては弱そうだし、秘書代わりかなにかだろうか?
「そうよ。それと、私はレン。こっちはイニーで構わないわ。様もいらない」
「分かりました。私は局長のバイエルンです。先ずはイギリスの現状について説明しますので、付いて来て下さい」
このまま此処に居ても意味が無いので、バイエルンさんに付いて行く。
これまでの所と雰囲気が違うが……これは根が深そうだな。
先ずは話を聞いてからだな。
テレポーター室から局長室に移動し、ソファーに座る。
バイエルンさんと一緒に居た魔法少女が飲み物を持ってきてくれたが、そこは職員とかがやるのが普通ではないだろうか?
「先ずはイギリスに来ていただきありがとうございます。薄々感じているかもしれませんが、現在魔法局は職員と魔法少女間で不和が広がっており、最低限の事しか出来ていません。改善を試みていますが、どっち付かずと両方から思われ、白い目で見られているのが現状です……」
それからバイエルンさんの話は続いたが、纏めると、魔法少女側も職員側も上で指揮を執る人が居ないせいで、このままでは共倒れの可能性があるらしい。
この共倒れとは機能不全による、魔法局の崩壊を意味する。
政府はお手上げ状態なので期待できず、だからと言って何もしなければ魔物の被害が広がり、一般人からも苦情が来る。
責任者として頑張っていたバイエルンさんだが、もうそろそろ限界って所でアロンガンテさんから強制執行が入った。
それが俺とレンさんである。
「最悪の場合は私の首を差し出すので、穏便に済ませてもらえると助かります」
最後にそう締め括り、バイエルンさんの話は終わった。
隣に居る魔法少女はバイエルンさんの話を聞いている内に徐々に沈んで行った。
まあ、身内の恥だからな。
せめて魔法少女たちに打開できる力が有れば良かったが、ランカーも死んでいって、そんなものもないのだろう。
魔法少女もプライドの高い奴が多いから、魔法局側には頼れないし、魔法局も色々と問題を起こしてしまっているので、強く出る事が出来ない。
中々に詰んでいる状況だな。
「状況は分かったわ。それで、なぜその魔法少女は此処に居るのかしら?」
「この子は今の状態を変えようと私側に付いてくれた子なのですので、2人の助けになればと思い呼びました。地元の人間が居た方がそちらも動きやすいでしょう」
確かに案内役は居た方が良いが、こいつで大丈夫なのか?
(アクマ)
『調べてあるよ。魔法少女ルストリンデ。ランキング220位だね。一応その局長の孫らしいよ』
孫か……此方を見張る意味もあるだろうが、そのランキングだとどうもそれだけとは思えない。
立場的にこちらと対等になれないし、何かの便宜を図れるとも思えない。
まだ幼いようだし、どういうつもりだ?
「必要ないわ。そのためのイニーですもの」
「し、しかし魔法局との連携や魔法少女とのやり取りするからには、こちら側の魔法少女が居た方がやりやすいのではないですか?」
バイエルンさんの言う通りではあるが、レンさんはどう答えるのかな?
「今の状況で私事を優先する者なんて必要ないわ。力無き者が語る必要はない。そうじゃなくて?」
大体分かってきたが、レンさんが人と拗れる理由が分かってきたな。
レンさんの言っているのは人によっては耳が痛い真実。正論だ。
大人の都合や子供の我が儘を加味しない、最も効率の良い手段。
まあ、先の事を考えれば駄目だが、中々やり難い相手だろう。
もうそろそろ助け船を出した方が良いだろうか?
「何でも……何でもしますから、お願いします!」
俺が口出しする前に、ルストリンデが声を上げた。
「あなたに何が出来るの? 啖呵を切るのだから、内容次第では分かるわね?」
「お待ち下さい! 流石にそこまで……」
「家事全般と紅茶を淹れるのが得意です!」
バイエルンさんが仲裁しようとする中、再びルストリンデが声を上げる。
確かに何が出来るかをレンさんが聞いたが、そんな見合いの席でするような事は聞いていないのだよ。
だが、ここらが潮時だろう。
「レンさん。とりあえず引き受けて良いのではないですか? 1週間は此処で暮らさないといけませんし、家事が出来る人は居た方が良いのではないですか?」
レンさんは思案するように目を細め、此方を見る。
「それに、ある意味では居る事によって取れる手段も、有ると思いますよ?」
どんな手段かは言わないが、この程度の魔法少女では居ても居なくても変わらないだろう。
「仕方ないわね。そっちでちゃんと面倒を見るのよ」
面倒を見られるのはレンさんだと思うが、言わないおこう。
「でしたら!」
「その子は一応使わせてもらうわ。名前は?」
「ルストリンデって言います。ルストかリンデとお呼び下さい! よろしくお願いします」
そこは申しますって言う所だが、子供に言う事でもないだろう。
ルストリンデはホッと息を吐き、バイエルンさんは胃の辺りを擦っていた。
「ありがとうございます。此方からは以上になりますが、何かありますか?」
「大丈夫よ。今日は泊まる家を確かめてからイギリス内を回ってみるとするわ。それと、私たちの事はちゃんと周知しておくのよ」
レンさんはクスリと笑ってから立ち上がった。
前途多難だが、なんとか仕事なのでやるしかない。
歩き出したレンさんはふと立ち止まり、バイエルンさんの方を向く。
「最後にだけど、あまりイニーにちょっかいを掛けないようにね。2人共行きましょう」
「はい。それでは失礼します」
バイエルンさんに頭を下げてから立ち上がり、レンさんの後を付いて行く。
リンデは慌てながら立ち上がり、一緒に付いてくる。
何を思ってレンさんが俺について釘を刺したのか分からないが、アロンガンテさんに何か言われてたのだろうか?
まあ、これで俺の過失を問われる可能性が少しは減るだろう。
問題を起こす気はないが、問題は常に向こうからやってくるのだ。
それはそれとして、先ずは今日を乗り切れるように頑張ろう。
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