魔法少女は割と能天気である

 天城さんの後を付いて行くと、血と消毒液の匂いがする部屋に通された。


 そこには現在進行形で治療を受けている2人の魔法少女が居た。

 どちらも酷い怪我だが何があったんだ?


「此方です。局長」

「出迎出来ずにすみません。ご覧の有り様でして……」

「この怪我は魔物じゃなさそうだね。何があったんだ?」


 局長は他の支部に比べて若い女性――魔法少女だった。

 片方を回復魔法で治療しているが、黒い靄のせいで上手く治せていないようだ。


「破滅主義派を名乗る者が現れまして、1人が殺され、一緒に居た2人もこの有り様に……。治すことは出来ますか?」


 ジャンヌさんは2人を診察し、苦い顔をする。


「これは厄介だね。毒ではなく呪いとなると一筋縄ではいかない」

「……はい」

「リリー」


 名前を呼ばれたので、飯田さんがジャンヌさんの近くまで行く。

 俺を呼んだのは呪いを解呪出来るか聞くためだろうが、呪いなど初めてなので診ないことには分からない。


「その子は?」

「私の弟子だよ。少々特殊な子だが、腕は確かだから安心してくれ」

「はい……」


 なんとも嫌そうな顔をされたが、人の命が掛かっている時に文句を言うつもりはないのだろう。


 さて、どうかな?


(これはこれは……)


『うーん。ハルナの運が良いと、心配になる私が居る』


 失敬な奴だが、これは運とはまた別だろう。

 運が良いならそもそもこんな事態に遭遇する事はない。


 どちらかと言えば、この怪我をしている魔法少女たちの運が良かったのだろう。

 俺は回復魔法の使える魔法少女の中では珍しく、精神系の回復が得意である。

 ストレスのイライラや寝不足など、脳に作用するものを治す事が可能だ。


 そしてこの呪いは分類的に精神的な作用……正確には少々違うが、俺の得意分野である。


「どうだね?」

「私なら解呪出来ますね。治療はジャンヌさんが?」

「そうするか。全部君に任せるのも悪いからね」

「治せるのですか!」


 俺とジャンヌさんの会話を聞いていた局長が大声を出す。

 天城さんが驚いていたが、あまり感情を露わにする人ではないのだろう。

 どちらかと言えば図書館で司書をやってそうな物静かな人に見える。


「わたしたち以外は一旦外に出てくれ。終わり次第呼ぶよ」

「……治療を見届ける事は出来ないのですか?」

「毒ならともかく、呪いは何が起きるか分からないからね。安全を考慮した上での判断だよ」

 

 ゲームとかでは、解呪に失敗して呪いが暴走するとかあったりするからな。

 初めてなので何も知らないが、ジャンヌさんに従っておくのが一番だろう。


「局長。後は私が引継ぎますので、一度お休みください。このままでは倒れてしまいますよ?」

「でも私が……私が命令したから彼女たちは……」

「あなたは悪くありませんよ。私が言えた事ではないですが、こんな時だからこそ冷静になった方が良いですよ」

「――分かりました。後は宜しくお願いします」

 

 どうやら話は付いたらしく、俺たちを残して全員部屋から出ていく。


「それじゃあ頼んだよ」

「分かりました」


 念のため杖を出して構える。

 さて、どれくらい魔力を消費するかな?


蝕みし苦しみから解放せよディスペル


 魔法少女の身体の上に歪な魔方陣が現れ、読み解いていく。

 パズルみたいな感覚だが、魔力が通るように魔法陣を直すとガラスのように砕け、呪いが解けた。


 すかさずジャンヌさんが治して1人目が終了である。


「続けていけるかね?」

無問題もーまんたいです」

「ふっ、そうか。頼んだよ」


 魔力の消費は時間経過なので、素早く解ければ魔力の消費は気にならないな。


 個人的にパズルは苦手だが、仕事の経験が役に立った。

 理解の出来ない図面を送ってきたクライアントに少しばかりの感謝を送ってやろう。


 先程と同じく呪文を唱えて呪いを解く。


 怪我をして呪われている魔法少女には悪いが、呪いを解くのは少し楽しかったです。

 

「これで終わりだが、体調に変化はないかね?」

「大丈夫です。なんともありません」

「なら良かった。それじゃあ外で待っている人を呼ぼうか」


 部屋の外で待っていたのは天城さんだけだった。どうやらこの2人を助けようと結構な人が無理をしていたらしく、少し休んでもらっているようだ。


 天城さんも俺たちが来るまで局長の代わりに仕事をしていたらしいが、頑張るものだな。


「2人は大丈夫なんですね?」

「見ての通り呪いも千切れていた四肢も元通りだよ。運が良いの悪いのか……。ところで、殺された魔法少女はランカーなのかな?」

「――はい。ランキング6位のアナスタシアです。今から5時間程前となります」


 俺がジャンヌさんと会った位の時間か。

 ジャンヌさんが来ると分かっていたからそれまで持たせようとしたのだろうな。


 順番を抜かしてなんて中々言えないだろうから仕方ないが、よくやるな。


「なるほどね。3人居て負けたとなると、相手は相当な手練れだったようだね。詳しくは後で聞くとして、先に患者を治してしまおうか」

「よろしくお願い致します。ところで……何故肩車をされているのですか?」


 それを聞いたのはあなたで5人目だ。

 よく聞けたと俺は思うよ。


「見ての通り小柄なせいで足が遅いんだ。だから運んでもらっているんだ」

「そうですか……しかし、あの少女によく似ているような……」

 

 後半の方は呟くようだったが、しっかりと聞こえていた。

 俺と直接会ったことはないが、向こうは俺の事をよく知っているのだろう。


 正体がバレないに越したことはないが、バレた所で痛手ではない。


「失敬。何かありましたら呼んで下さい。それでは私も失礼します」


 天城さんは頭を下げ、部屋を出て行った。

 少々イレギュラーであったが、本来の仕事に戻るとしよう。


「それじゃあ案内を頼んだよ」

「はい。それでは行きましょう」


 飯田さんが歩き出し、本来の部屋に向かう。


 しかし呪いか……戦闘中に治すのは流石に難しそうだな。

 流石にパズルを自動で解くように魔法を使うのは少々厳しい。

 

 全て同じならいいのだが、どうやらそうでもないみたいだ。

 この能力の持ち主と戦う時は注意しないといけないな。


 患者が収容されている部屋まで案内され、再びジャンヌさんと別れる。

 同じく入って直ぐに魔法を使い、話し掛けられる前に退散する。

 

 今回はジャンヌさんが治療している部屋まで距離があるので、しばらく歩く事になった。

 歩くのは俺ではなく飯田さんになるのだが、細かいことは気にしない。


 部屋の前に来ると、先程別れた天城さんが部屋の前で待っていた。


「ああ。すまないね。少し聞いておきたい事があって待たせてもらった」

「どうかしたのですか?」

 

 飯田さんが僅かに身構えるが、天城さんが両手を挙げて何もするつもりはないと態度で表すと、直ぐに構えを解いた。


「その魔法少女――リリー君だったかな? その子に聞いておきたい事があって待たせてもらった」


 俺に用があるのか。飯田さんがどうするか聞いてきたので、とりあえず頷いておいた。


「すまないね。イニーフリューリングって魔法少女を知っているかな? …………いや、やはり答えなくていい。ただ、もしも彼女に会ったなら、私が心から反省していると伝えてもらえると助かる。それではすまなかった」

 

 天城さんは俺が返答を返す前に自己解決をしたのか、謝ってから去ってしまった。


 反省というのは俺の動画を公開した事についてだろう。

 個人的にあまり気にしていないが、反省しているならそれで良い。


 此処で再起し、魔法少女の為に頑張ってくれ。

 人間生きていればどうとでもなるのだからな。


「一体なんだったのでしょうか?」

「さあ。何か反省する事があったのでしょう。それより、ジャンヌさんと合流しましょう」

「はぁ……分かりました」

 

 若干時間を喰ったが、部屋に入るとジャンヌさんが治療を終えたところだった。


「お疲れ。これでミグーリアでの治療は終わりだ。飯田も案内ご苦労だったね」

「いえ、此方こそ国の為にありがとうございました。個人的にですが、リリーさんには改めてお礼を申し上げます」

「仕事なので構いませんよ」


 これでミグーリアでの治療は終わったが、まだ中国が残っている。

 この国より問題は起きてないと思うが、行く先々で何かが起きるのではないかと思ってしまう。


「しかし、一度の治療でここまで色々起きるとは珍しいね。魔女が悪いのか、国が悪いのか……」


 悪いのは魔女たちと国だ。

 決して俺は悪くない。


「まあいい。情勢について私がとやかく言うのもおかしいからね。破滅主義派の件は報告をよろしくね」

「分かりました。速やかに纏めて報告を上げるように言っておきます」

「頼んだよ。それじゃあ次に向かおうか」


 テレポーター室に戻り、ここで飯田さんとお別れになる。


「本日は本当にありがとうございました。ミグーリアにお越しの際は私をお呼び下さい。色々と取り計らせていただきます」


 肩から降ろしてもらい、ジャンヌさんの横に並ぶ。

 

「次は患者が少ないことを祈るよ。またね」


 ジャンヌさんの言葉に続くようにして頭を下げる。

 この姿で会うことは二度とないだろう。

 ……眼を治した分の対価は肩車で相殺しといてやるか。


 次は何が待っているやら……。

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