魔法少女は待ち伏せされる
「お待ちしておりました。噂では色々と問題があったようですが、大丈夫ですか?」
「ああ問題ないよ」
「そうですか。所でその子は?」
ミグーリアでの治療を終え、今度は中国となる。
時間は17時を少し回った位だが、終わるのはまだ先になりそうだ。
待っていたのは局長と思われる男性と、案内役と思われる女性。
それと護衛と思われる魔法少女…………何でフルールさんが居るの?
護衛として魔法少女を使うのは分かるが、何故日本の魔法少女であるフルールさんが居るのだろうか?
正直フルールさんは苦手なのだが、まさか俺たちに付いてきたりしないよな?
「私の弟子だよ。それで、何故フルールが居るのかね?」
「ミグーリアで色々とあったみたいだから護衛として来たのよ~。仕事の時は護衛を付けろと楓ちゃんも言ってたのに、どうして1人なのかしら?」
「いや、ちゃんと居るじゃないか」
ジャンヌさんは若干焦りながら言い訳をした。
俺を護衛と言い張るのは少々苦しくないだろうか? 平時ならともかく、いまはこんな様だからな。
どうやらジャンヌさんもフル-ルさんが苦手なようだな。
「おほん! 身内での話は後にしてもらっていいかね?」
「それもそうね。仕事を優先しないとね。じゃあ自己紹介をお願い」
「……はい。案内を務めさせていただく
なんともグダグダした始まりだが、やる事は変わらないのだろう。
氷水さんは現役と言っても20代中半位だろうか?
魔法局の仕事をしながら魔法少女としての活動もしているのだろう。
(びんすい……)
『氷に水でびんすいだよ』
(どうも)
髪と眼が青色なので、名前と見た目が覚えやすいな。
少々冷たい印象を受けるが、どうせ今日だけの付き合いなので気にならない。
「それでは私はこれで失礼します。後は氷水に聞いて下さい」
局長と思われる男は軽く頭を下げて出て行ってしまった。
正直この顔合わせに意味があるのかと思ってしまうが、社交辞令的に仕方のない事なのだろう。
詰問先で最初だけ偉い人が居る様なものだ。
後は担当と打ち合わせするだけなので、その内顔を忘れてしまう。
「打ち合わせ以外で何か変わった事はあるかね」
「少々治療の人数が増えましたが、ジャンヌさん1人で大丈夫でしょうか? 無理でしたら調整をしようと思います」
「リリーが居るから数百人増えた程度なら大丈夫だよ」
ジャンヌさんの発言で俺を見た氷水さんは首を傾げる。
言外にこんなチビがと言っている雰囲気だが、仕方のない事だ。
「そんな目で見ちゃ駄目よ。この子って
「ああ。そうだよ。ミグーリアでも色々とやってくれたよ。そうだ」
ジャンヌさんは俺を持ち上げると、フルールさんの肩の上に置いた。
氷水さんとフルールさんは戸惑っているが、フルールさんは直ぐに理由が分かったのか頷いた。
「見た目通り足が遅いから運んでくれ。それじゃあ氷水は案内しながら患者たちの事を教えてくれ」
「分かりました」
氷水さんの後に続いて歩き出す。
「此処での患者は重傷者5名と、骨折や、配置されてる魔法少女では治せない毒物に侵されてるのが数名居ます。直ちに命に別状はありません」
今更だが
既に書かれている数倍の人数を治療している。
四肢を数本治せる程度の能力では決してない。
もしくは、最初に登録してから変えていないなんて落ちもありそうだな。
(氷水さんて中国ではどれくらいの強さなんだ?)
『ランキングは50位。日本で言えば20位前後の強さで、武器は刀で水系統の魔法を使うね。マリンの亜種って感じだね』
(なるほどね)
刀なら護衛としても使えるし、水系統……氷とかなら束縛や壁にも使える。
フルールさんが居るから出番は無いだろうが、護衛としては良い人材だろう。
だが、愛想をもう少しよくした方が良いと思う。
「そうか。部屋はちゃんと別にしてあるね?」
「はい。怪我と病気で分けてあります」
「そうか。リリー」
「ミグーリアの時と同じで?」
「その通りだ」
入ってサクッと治して即退散。
魔力の消費は仕方ないとしても、魔法は使えば使う程熟練度が上がる。
回復魔法を使う機会が自分にしかない俺にとっては今日はいい練習日和となっている。
ジャンヌさんと初めて会った時に、胡散臭いと思った事は胸の内にしまっておこう。
「ジャンヌさんを疑うようで悪いですが、本当にその子に任せて大丈夫なのでしょうか?」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。なんならリリーが治療に失敗したら私が中国に移籍してあげよう」
「――その言葉お忘れなきように」
なんか変な約束をしているが、大丈夫なのかね?
俺だって万能ではないぞ?
「大丈夫なんですかね?」
「イ……リリ-ちゃんが頑張れば大丈夫よ。ワザと失敗なんてしないでしょう?」
こっそりフルールさんに聞いたらそんな事を言われた。
ジャンヌさんに恩は有っても仇はない。
わざわざ失敗しようなど微塵も思っていない。
そんな俺の心をジャンヌさんは読んでいるのかね?
それとやはりフルールさんは俺のこと知っているようだな。
大方アロンガンテさんが情報共有しておいたのだろう。
「先ずは重傷者の方となります。1人だけ隔離となっていますが、残りの4人はこの部屋になります」
今回の重傷者もまた見応えがあるな。
石化に欠損。眼に包帯を巻いているのも居る。
ここまで頑張って戦えるのは称賛に値するよ。
ただ、それで怪我をしてしまったら元も子もない。
特に眼は代えが効かないからな。
内臓系は基本的に治すのは不可だ。
俺とジャンヌさんは例外ではあるが、通常は治せない。
「眼を怪我するとは運がないね」
「眼については本人も諦めているので、治さなくて大丈夫です。打ち合わせ通りに治していただければ結構です」
氷水さんは結構ですと言っているが、魔法少女側は納得していない感じだ。
ジャンヌさんと言えど眼を治すのは簡単なことではないだろうからな。
それに料金や貸し借りなど大国ならではの事情もあるのだろう。
ジャンヌさんは全員を一通り診た後、胡散臭げに笑いながら俺を見た。
ジャンヌさんが何を言いたいかは予想できる。
魔法少女の世界は力が全てだ。
名前からは想像できないが、力のないものは信用されない。
下手なブラック会社よりも辛いと思う。
「リリー。そっちの2人をよろしく。それと、全治で構わないよ」
「分かりました。フルールさん」
「はいはい」
氷水さんと怪我をしている魔法少女が何か言おうとするが、その前に杖を出して呪文を唱えてしまう。
因みに治している魔法少女は眼の負傷の他に左腕は肘から先が無く、内臓も一部縫合されている。
縫った後は回復魔法で綺麗にしたのだろうが、中身は治せなかったのだろう。
ついでに頭蓋骨にも罅が入っている。
直ちに命に別状はないが、運が悪ければ悪化して寝たきりの生活になる可能性もあったな。
「そんな……本当に……」
治している格好は悪いが、効果には関係ない。
数秒で光が消え、綺麗に治った魔法少女が現れた。
「頭蓋骨の罅や縫合されていた内臓も含めて全て治しました。眼の包帯を取ってみて下さい」
恐る恐るといった感じで包帯を取るが、その途中で腕が生えていることに驚き、その事を感謝してくれた。
そんなのはいいので早く包帯を取れと言いたいが、ここは適当に頷いてやり過ごす。
「見える……目が見えます! それに身体も痛くありません!」
「料金の請求はしないから安心したまえ。あくまでも善意だからね」
ジャンヌさんの善意程信じられないものはないが、本当に俺が治せるとは思っていなかった氷水さんはしばしの間固まったままだった。
その間に2人目も治してしまい、重傷者の治療は終了となる。
「あっ……失礼いたしました」
ようやく正気に戻ったようだ。
それ程驚くような事とは思えないが、何か驚く理由があったのだろうか?
「それと謝罪を。助けていただき、ありがとうございます」
氷水さんは先程までの疑うような眼差しではなく、真剣に俺を見て謝ってきた。
「構いませんよ。この見た目ですからね」
「因みに年齢は?」
「ご想像にお任せします」
年齢などほとんど意味ないからな。
なんなら性別すらあやふやだ。
中身は男だが外見は少女だし。
少々困ったような顔をして氷水さんはジャンヌさんを見る。
「見た目通りの年齢だよ。引き抜きはしないようにね」
「あなたを敵に回すような事はしませんよ。改めてですが、仲間たちの事をよろしくお願いします」
テレポーター室で会った時とは打って変わり、俺を1人の魔法少女として見ていた。
冷たい印象を受けたが、根は優しい人なのだろうか?
「仕事だから構わないさ。それでは次に案内してくれ。彼女たちもまだ休ませた方が良いだろうからね」
治ったことに喜んだり泣いたりしている魔法少女たち。
ミグーリアの時もだが、魔法がなければ治せないような怪我だ。
魔法がなければ、腕や足は治しようがない。
更に言えばジャンヌさんがいなければここまで早く治してもらえなかっただろう。
昔アクマが言っていた意味がよく分かる。
今の状況でジャンヌさんが居なかったらどうなっていたことか……。
俺を除いた2番手の事は知らないが、どう考えても手が回らなくなっていただろう。
戦える魔法少女の数が少なくなり、魔女がなにかしなくても緩やかに滅んでいっただろう。
ついでに俺は美味しい珈琲を飲めなかったので、本当に助けて良かった。
軽く話しながら通路を歩き、患者の居る部屋の前に着く。
「そう言えばリリーはずいぶん早く治療しているみたいだけど、どうやってるんだい?」
氷水さんが部屋を開けようとする前に、ジャンヌさんがそんな事を聞いてきた。
俺がやっている回復魔法は他の人とやり方が違うからな。
何人か実際に魔法を使っているのを見たが、光をバラ撒いたり手を光らせて魔法を使ったりと言った感じだ。
俺も杖の先を光らせたりして治す事もあるが、大体魔法陣で代用している。
「ボランティアの時の様な魔法を入って直ぐに使って終わりですね。しっかりと全員治っているはずです」
「なるほどね。確かに君なら可能か……実際に見ても良いかい?」
「大丈夫ですよ」
会話を聞いていた氷水さんが心配そうにしながら扉を開けたので、先ずは俺……とフルールさんが入り、その後ジャンヌさんが入って来る。
「
誰かが声を発する前に杖を出し、サクッと魔法を唱える。
魔法陣が広がって白く光り、治療完了だ。
あらあらとした感じのフルールさんに部屋を出るように言い、ジャンヌさんと共に部屋を出る。
「あの、先程の光はなんでしょうか?」
扉を開けたままだった氷水さんは、直ぐに出て来た俺たちを見てそう聞いた。
「リリーが使った魔法の光だよ。それより、病人の方の案内を頼む」
氷水さんは返事をする前に部屋の中を覗いて様子をうかがう。
あまり納得はいっていないようだが扉を閉めた。
「一体どうやって治したのですか?」
「リリーは魔法陣の使い方が上手くてね。纏めて治す事が出来るんだよ」
「……なんとも非常識と言いますか、凄まじい魔法少女なのですね」
常識で魔物に勝てるならともかく、常識なんて考えるだけ無駄だ。
魔法少女の存在が非常識なのだし、やれるならやるだけだ。
「それじゃあ頼んだよ」
「分かりました」
ジャンヌさんに促され、氷水さんは病人たちが居る部屋へと歩き出した。
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