魔法少女は弟子になる

 やはりというか、分かっていた事だが、起きても身長は縮んだままだった。

 流石に着られる服が無いので、ぬいぐるみパジャマを着る事にした。

 多少だぼだぼだが、これなら着る事が出来る。


 今日はジャンヌさんの所に行けと言われているので、面倒だが行かなければならない。


『おはよー。あちこちから連絡が来てるよ。一番重要な連絡は9時に来てくれってジャンヌからの連絡かな』

 

(了解。今何時だ?)


『7時半だよ。まだまだ余裕があるね。後アロンガンテとマリンからも連絡が来てるから後で見といた方が良いかも』


 アロンガンテさんのは世界会議についてだろうか?

 マリンはどうせ俺が先に帰ったことについてだろうな。


 外は晴れているが、雪が凄い事になっている。


 雪が積もっているって事はタラゴンさんが帰って来ていない事を意味する。


 朝食を自分で準備しなければいけないのは少々面倒だが、周りを気にしないで朝食を食べる事が出来るな。

 

 軽く体を動かし、ゆっくりと風呂に入ってから素うどんを食べて準備完了だ。

 朝は軽くで、妖精界でしっかりと食べれば良いだろう。


 この身体ではご飯を作るのも一苦労だ。


 一苦労で思い出したが、晨曦との戦いで剣が折れてしまったが、影響はあるのだろうか?

 ついでにエルメスと契約した事による影響も確認したいが、身体が治るまではやらない方が良いだろう。


 魔力の消費が激しいのもあるが、身体への負担もあるだろうからな。


『そろそろ行く?』


(そうだな。施設の前まで頼む)


 変身してからアクマに転移してもらう。

 ダボダボのローブを引きずりながらジャンヌさんの執務室を目指していると、妙に執務室まで遠く感じた。


 ……いや、原因は分かっているが、もどかしいものだな。


 いつもより時間を掛けて歩き、執務室の扉をノックする。


「開いてるよ」


 ジャンプしてノブを掴み、何とか扉を開けて入室する。


「失礼します」


 執務室に入るとジャンヌさんが固まっていた。


「ジャンヌさん?」

「……失礼。アロンガンテから話は聞いていたが、本当に小さくなってるんだね。とりあえず診てしまうからそこに座ってくれ」


 ジャンヌさんに言われた通りに座った後、腕を触られた。


「ふむ。体調面では問題なさそうだが、変身してなくてもその状態なのかい?」

「はい。後1日程で戻る予定ですね。アルカナの副作用みたいなものです」

 

 エルメスが言っていた通りなら明日には戻るが、予定通りに事が運んだことがないから、素直に戻る事が出来るだろうか……。


「なるほどね。因みに戦闘面はどうかね?」

「出来ない事もないですが、杖を持てないので、B級以上は難しいですね」


 杖がないと色々と制約が付いてしまうからな。

 いや、持てないこともないが、杖を持って動く事が出来ないので、固定砲台にしかならない。

 

 ついでにいつもより能力が低下している感じがする。


「そうか……ふむ、イニー次第だが、良ければ私の仕事を手伝ってくれないかい?」

 

 仕事ねー。ボランティアの事を思い出すな。

 あの時は問題なく終わると思いきや、ロックヴェルトに襲われて大変だった。

 しかも杖が無いせいで魔力もギリギリだったし、グリントさんが居なければ、ドラゴンによって丸焦げにされていただろう。

 

(どうする?)

 

『内容次第じゃない? 今は戦うこともできないしね。それに、先手を取るのは中々難しいからね』


「仕事とは一体何をするんですか?」

「回復魔法の使い手が足りない魔法局を回って、回復してやるのさ。一応私は世界で一番の回復魔法の使い手だからね。こんな時にこそ働くのが役目なのさ」


 他の回復魔法の使い手と、比べものにならない位ジャンヌさんの回復魔法は優れているからな。


 俺が言えた義理ではないが、それだけの闇を抱えているのだろう。

 俺の場合は年月の分濃縮されたのもあるだろうけどな。


 しかし、どうしたものか……。

 今の状態で無理して戦う気はない。

 本気で戦えないのはあまり楽しくないからな。


 だからジャンヌさんの話に乗るのは良いのだが、人前に出るのはあまり好きではない。

 頼みの綱であるフードは被ると前が見えなくなるし、半端に被っても効果を発揮しない。


 ついでに、それなりに恨みを買っているから弱体化している今はリスクを伴う。


「手伝うのは構わないのですが……」

「今なら変装すればイニーと分かる者も少ないだろう。一応映像を確認したが、戦いが終わると共に終わっていたからね」


 ふむ、そうなると俺の事を知っているのはほとんど居ないのか……。

 

 少々面倒だが、ジャンヌさんには世話になってるし、借りを返す意味でも手伝っておくか。

 借りた借りは必ず返す。

 人として当然の事だろう。


「分かりました。お引き受けします」

「それは良かった」


 ジャンヌさんは胡散臭げに笑い、3着の服を出してきた。


「最近は魔法少女用の服も充実してきたからね。この中から好きなのを選びたまえ」


 1つはジャンヌさんと同じ白衣。

 1つはミカちゃんが選びそうな動物型の着ぐるみだ。

 これは顔の部分だけが開いているので、呼吸は楽そうだが、何故ウサギをチョイスした?

 最後のは囚人服だ。


「因みに変装先は弟子、親戚の子、囚人だ。好きなのを選びたまえ」

「弟子で」


 実質一択だよな。親戚の子も悪くないが、着ぐるみは流石に嫌だ。

 それに囚人は流石にネタだろう。


 こんな子供がどんな犯罪を出来るというのだ?


「そうか。なら向こうの部屋で着替えてきてくれ」

「それは大丈夫です」


(アクマ)


『了解。サクッと換装しちゃうよ』


 白衣を手に持つと、一瞬光ってローブから白衣に変わる。

 ついでに、中に着ていた服も黒い服とズボンに変わる。


「便利なものだが、それもアルカナとやらの力かね?」

「そうです」


 普通に着替えることもあるが、面倒な時はアクマがやってくれる。

 問題点はアクマチョイスの服しか着させてくれない事だろう。


「そうか……着替えの手間が省けるのは良いな。本来なら急いだ方が良いのだが、一杯どうかな?」


 ここ最近は怪我で戦線離脱したり、魔法少女を辞める決断をする者が増えてきている。

 それに、一般人にも無視できない被害が出ているので、急いだ方が良いのだろう。


 だが……。


「いただきます」

「ふっ。君ならそう言うと思ったよ」


 珈琲の魔力には抗えなかった。

 なにせジャンヌさんの所で飲める珈琲は非売品の物ばかりであり、家で飲んでいる奴より1段か2段程上質だ。


 飲める時に飲んでおきたい。

 

 ジャンヌさんは珈琲を淹れに行き、少ししたらマグカップを2つ持って戻ってきた。

 

「お待たせ、ついでだから手伝いの詳細も話しておこう。先ずはミグーリアに行って仕事をする予定だ。ここはまだ各国との繋がりが弱く、支援ができていないので、こっちに回ってきた感じだね。その後は中国で終わりだ。メインは魔法少女たちだが、余力があるなら一般人もだね。因みに私の弟子たちは全員死屍累々状態だ」


 丁度人手が足りなかった所に俺が来たのか。

 運が良いのか悪いのか……。


「本来なら戦闘要員として誰か連れて行くのだが、オーストラリアの件で何処もピリピリしていてね。更に日本のランカーたちも慌ただしいからね。頼むのは少々気が引けていたんだ」

「分かりました。珈琲の分はしっかりと働きます」

「それで構わないさ。さて、偽名だが……リリーで良いか」


 安直だが太郎や五右衛門とか付けられるよりはマシか。


「それで大丈夫です」

「それでは今日だけは私の弟子の、魔法少女リリーだ。宜しく」


 リリーとイニー。

 イントネーションも似ているし、偽名だが親しみが持てる。

 間違うこともないだろう。


 珈琲を一杯飲み、一息ついてからテレポーターに向かう。

 しかし、ここで一つ問題が起きた。


 ――俺の足が遅いのだ。

 ジャンヌさんの身長は多分160後半くらいだろう。

 対する俺は……まあ、気にするな。


「私はどちらかと言えば子供は苦手なんだが……リリーみたいな子ならありだな」

「そうですか」


 現在俺はジャンヌさんに肩車されています。

 有事の際に両手は使えた方が良いから仕方ないのはわかるが、俺の尊厳はボロボロである。


 さて、ジャンヌさんと話しても良いが、鼻歌を歌いながら歩いてるのを邪魔するのも悪いし、念のため情報収集しておくか

 

(ミグーリアの情報を頼む)

 

『了解。人口とか魔法少女の総数は置いといて、ここは魔法少女の育成に力を入れているけど、まだ全体的な強さは微妙かな。ランカーでは3人被害が出てるね』

 

 3人か……10人の内3人も減れば戦力はガタ落ちだ。

 抜けたからと言って同等の魔法少女なんて居る訳ないだろうし、大変だろうな。


『それと回復魔法を使える魔法少女が少ないせいで戦力も減る一方だね。回復魔法を使える魔法少女も結構追い詰められてるし、後2週間もすれば国としての体制を保てなくなりそうだね』

 

 結構ギリギリなのか。

 それならジャンヌさんが行かなければならない理由も分かるな。

 しかし。魔法少女の育成に力を入れていると聞いた記憶があるが、回復魔法については駄目だったのか。


 素養が魔物への憎悪とかならまだしも、世界への憎悪だからな。

 必死に生きようとしているミグーリアに、回復魔法の素養持ちが少ないのは道理だろう。


(ジャンヌさんの言っていた国同士の繋がりは?)

 

『繋がりというか、ミグーリアを支援する意味がほとんどないせいで、他国と関係を築けていないみたいだね』

 

 ……ああ。通常なら軍事や国境など他国と関わる必要性があるが、軍は魔法少女が代用され、国境なんて今の世ではほとんど関係ない。


 土地だけなら余ってるからな。

 戦争も俺が生まれてから一度も無いし、魔物と戦ってくれるならなんだってウェルカムなのだだろう。


 大国からすれば、体のいい捨て駒と言ったところか?


(そう言えば、新魔大戦に出ていた魔法少女が居たと思うが、まだ生きてるのか?)


『登録はされたままだから生きてはいるね。ただ……まあ行けば会うだろうし、お楽しみって事で』 

 

 それって正体がバレるフラグな気もするが、流石に大丈夫か?

 新魔大戦の時も実際に話していないし、あの時はそれ処ではなかったからな。


 何ならデンドロビウム以外の名前は忘れている。

 ああ、オーストラリアのはこの前会ったからまだ覚えているな。


 アクマと話しているとジャンヌさんの鼻歌が終わり、テレポーターの前に着いた。


「さて、このままテレポートしても良いが、師匠の上に居る弟子ってのは印象が悪くなるから一旦降りようか」

「分かりました」

 

 ジャンヌさんの肩から降りて、一緒にテレポーターへ入る。


 どうか何も問題が起きない事を祈るばかりだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る