魔法少女はお手伝いを頑張る

「お待ちしておりまし……た?」


 テレポートが終わると、テレポーターの前には数名の人が待っていた。


 一番偉いと思われる人が俺たちに声を掛けるが、俺を見て一瞬だけ固まる。


 理由は察するが、そこは無視して欲しかった。


「待たせたね。この子は最近私が拾った弟子のリリーだ。回復魔法も使えるので今回は同行してもらった」


 紹介されたので軽く頭だけ下げておく。

 挨拶をしたお偉いさん以外も俺の方を見るが、全員変な顔をした。


「そ、そうですか。此方としましては人手はあるだけありがたいです。流れは先日の打ち合わせ通りでよろしいですかな?」

「構わないよ。流れ次第では一般人の治療も出きるかもだから、しっかりと頼むよ」

「承知しました。それでは重傷者の収容されている部屋に案内しますが、そちらの弟子の方も一緒で大丈夫ですか?」


 何故ここで俺の話が出るんだと思ったが、重傷者って言葉で察することが出来た。


 見た目が幼女の俺にグロいものを見せても大丈夫なのかと確認を取ったのだろう。

 侮っていると捉えるのか、優しさと捉えるのか。

 とりあえずお偉いさんの評価は上げておこう。


「こんな見た目だがリリーは凄腕であり、内臓がはみ出ていたとしても動じない胆力があるから心配無用だ」

「そうですか……。それでは案内の者を紹介します」


 お偉いさんの後ろに居た中から、1人が前に出る。


 黒髪のロングに黒目。

 パリッとしたスーツも相まって正に仕事人って感じがするが、左目にある眼帯の存在感が凄い。


 眼帯のせいでなんとなく軍人ぽく見えてしまう。


「本日案内を勤めさせていただく飯田菫いいだ すみれと申します。宜しくお願いします」

「ああ、宜しく。その眼はどうしたんだい?」

「これは昔事故に遭いまして……。ご心配いただかなくても、支障はないので気にしないで下さい」


 生真面目な表情のまま飯田さんは頭を軽く下げる。

 人が集まって作った国と聞いていたが、此方に配慮して日本人の人を寄越したのかな? 

 ジャンヌさんが軽く俺の手を触ってきた。


 なるほど、やれってことか。


 飯田さんの方を向き、ちょいちょいと手招きする。


「なんでしょうか?」


 近付いてきた飯田さんは俺の前で屈み、目線を合わせてくる。

 目線を合わせてくれるのは、好感が持てるな。


 さて、エルメスと契約して恋人の能力が使えるようになったが、この能力は回復魔法と相性が良い。


 特に欠損関係の治療に使う魔力がかなり減る。

 問題点は俺の知識に依存するのだが、外見の解析は恋人で、内側の解析は悪魔の能力で出来る。


 つまり、こう言うことだ。


回帰せよリアライズ


 飯田さんの頭を包む様に光が広がり、直ぐに収まる。

 どよめきが起きる中、何が起きたか分かった飯田さんは震える手で眼帯に手を掛ける。


 外された眼帯の奥には開かれた眼があり、そこにはしっかりと眼球が存在していた。


 因みに眼の回復は四肢よりも魔力の消費が多いみたいだ。

 やろうと思えば造血も可能ではあるが、制約の関係もあるので一旦保留である。


「み、見えます」

「念のためだが、リリーはこの通り一端の魔法少女だよ。下手なことはしないようにね」


 喜んでいる飯田さんを尻目に、ジャンヌさんはお偉いさんに釘を刺す。


 向こうも俺をどう見ていたのか知らんが、俺の実用性が分かったのか、職場体験のお子さんから正社員クラスまでは、ランクが上がっただろうか?


「治して頂きありがとうございます。ですが、魔力を使って平気なのでしょうか?」


 ジャンヌさんの方を見ると軽く頷かれる。

 これは適当に答えろと言うことだろうか? 

 

「この程度と言うのは他の方に悪いですが、問題ないです。案内の方宜しくお願いします」

「はい! 誠心誠意勤めさせていただきます!」


 ふむ。これで味方が作れたな。

 敵地って訳ではないが、使えるものは増やしといて損はない。


「いやはや。日本には素晴らしい魔法少女が居るのですね。それでは私共は失礼します」


 結局お偉いさんの名前が分からないまま、お偉いさんはテレポーター室を出て行ってしまった。


 知ったところで呼ぶこともないだろうし、別に良いだろう。


 怪我をしている魔法少女が集められている場所まで行こうとしたところで、またしても問題が立ちはだかる。


「とても軽いですが、ご飯はしっかりと食べているのですか?」

「食べてはいるんですけどね……」

 

 食べたものはソラの成長に使われています。

 まあ、今は小さいせいで軽いのは仕方ない。


「運んでもらってすまないね」

「これ位の重さでしたら問題ありません。それに、治してもらった感謝もありますので」


 そうかそうか。あなたが良くても俺はあまりよろしくないんだ。

 ジャンヌさんの次は、飯田さんに肩車されて運ばれている。


 誰にもバレないと思うが、陰鬱である。


 心を無にして運ばれていると、目的の部屋に着いたのか飯田さんが足を止める。

 

「此方の部屋になります。ジャンヌさんは慣れていると思いますが、もしも心無い言葉を言われたとしても気にしないで下さい。一応言い聞かせてありますが……」

「なに。手さえ出してこなければ気にしないさ。怪我や病気になると心が弱ってしまうのは仕方ない」


 前のボランティアの時は纏めて治療したのと、集まった全員を治せてしまったので問題は起きなかったが、大体は罵倒やクレームの様なものを言われるのが日常茶飯事らしいからな。


 それで滅入ってしまって魔法少女を辞めたものもいるらしい。


 扉を開けてもらい、肩車されたまま部屋の中に入ると、消毒液の匂いや電信音が聞こえた。


 部屋には6つのベッドがあり、意識がありそうなのは4人。

 他の2人は寝ているみたいだが、四肢の一部が無かったり、変色している。


 意識のある4人もそれぞれ酷いものだが、治すことは出来そうだな。


「あなたがジャンヌね。本当に治せるんでしょうね?」

「そのために私は来たんだが……私はそっちの2人をやるから、リリーは4人を頼む」


 コクりと頷くと、ようやく俺の存在に気付いたのか、4人とも俺を見上げる。

 反応はそれぞれだが、全員あまりよい感情は向けてこないな。


 ついでにもうそろそろ降ろして欲しいんですけど?


「そんな子供に治せると言うの?」

「ああ、ここに証拠もあるだろう」


 怪訝そうな顔をした魔法少女は飯田さんの顔を見て眼を見開く。


「眼が……」

「此方のリリーさんに治してもらいました。彼女の能力は私が保証します」

「保証しますと言ってもねー。まあ、治るなら構わないけど……そんな眼をしている子供がね……念のため私からお願いしても良いかしら?」


 部屋の中に居る6人の中ではこの人がリーダー的な存在なのか。

 捉え方次第だが、個人的には好印象だ。


 先ずは上の人間が身体を張る。

 しっかりと立っている姿を見せれば、下は付いてくるものだ。

 そして眼の事はもう気にする気もない。


 気味悪がられたとしても、支障はないからな。


 先ずは検査といこうか。


「飯田さん」

「分かりました」


 飯田さんは俺を肩車したまま魔法少女に近づき、俺が良い感じの高さになるように座る。


 ……いや、降ろせって意味だったんだが、もう良いか。


 ジャンヌさんが失笑するように声を漏らしたが、無視だ。


「それでは頼んだよ」

「……はい」


 さてさて、どんな感じかな?


 腕を触り、病状を解析する。

 

 左足の先が欠損。肺に穴。特殊な毒による痺れと魔力の漏洩。左目も神経が駄目になってるな。

 まあ、包帯をしているってことは飯田さん同様見えていないのだろう。


 正に重症といった感じだが、死んでいなければ治すことは出来るはずだ。

 どちらかと言えば戻すや直すと言った方が正確かな?


 杖を出して両手で持ち、調整して杖の先を魔法少女に向ける。


乖離せよキュアライズ


 先ずは毒系の不純物を全て排除し、諸々の数値を健康に近付ける。

 解析したことにより、魔力の消費はかなり抑えられている。

 

回帰せよリアライズ


 後は先程飯田さんにやったように復元し、治療完了だ。

 ついでなので治せそうな傷跡も治しておいた。


「終わりです」

「鏡をどうぞ」


 呆然としている魔法少女に、飯間さんは鏡を渡す。


 鏡を受け取り、ゆっくりと手を動かして包帯を解いていく。


 現実を理解したのか、それとも理解できないからなのか、魔法少女の目からゆっくりと涙が流れた。


 自分の涙に気付いたのか、はにかみながら目元を拭った。

 

「まさか本当に治るなんてね……。それに全部治るとは思わなかったわ。さっきは怪しんでごめんなさい。そして、ありがとう」


 眼もそうだが、内臓関係は治すのが大変だからな。

 最低限身体が動く程度に治れば良いと思っていたのではないだろうか?


 残念ながら仕事となれば全力で挑むのが社会人だ。

 技術的に不可能でなければ、やり遂げなければならない。


「仕事だから構いません。次にお願いします」

「――分かりました」

 

 飯田さんと治した魔法少女がアイコンタクトをした様に見えたが、なんだろうか?


 他の3人も順番に治していき、頼まれた分の治療が終わる。

 最初の魔法少女以外も、死にはしなくても普通の生活を送ることが困難な状態であった。


 その内の1人は後一週間治すのが遅れていたら、治すのに少々骨が折れることになっただろう。


「終わったようだね。リリーは優秀だったろう?」 

「ええ。治して頂いてありがたいのだけど、最初でこんなに治して他は大丈夫なの?」


 心配になる気持ちは分かる。なにせ俺が治した魔法少女を治すには、5人程の魔法少女が必要になる。


 それも神経と内臓。肉体の欠損と怪我を治せる魔法少女でなければならない。


 自分たちを治してもらったが、他の魔法少女を治すことは出来ませんでした。

 なんてなったら関係に亀裂が入ってしまうだろう。


「これでもランカーの端くれだから大丈夫さ。リリーも見ての通り少々普通ではないからね。出来ればリリーの事は秘密にしてもらえるとありがたい」


 実際は存在していない魔法少女だからな。

 破滅主義派で野良の魔法少女や未登録の魔法少女の風当たりは酷くなってきている。


 どうせ俺の事を調べるとは思うが、俺は何処にも存在していないのだ。


 不審がられることはあっても、俺にたどり着くことはないだろう。


「分かりました。みんなも良いね?」


 2人は寝たままなので、起きている3人が頷く。


「よし、それじゃあ次に行こうか。よろしく」

「分かりました。案内します」


 重傷者が集められた部屋を後にして次に向かう。


「魔力は大丈夫かい?」

「はい。例の事もあるので魔力量は問題ないです」

「ああ、なるほど。大丈夫なら良いよ」


 一応飯田さんが居るので濁したが、ちゃんと伝わって良かった。


 伝わったで思い出したが、どうやらアクマからエルメスには連絡が取れないみたいだ。

 アクマが同化している時に間借りしているのは意識の中で、エルメスとソラが居るのは深層心理、或いは無意識である。


 それだけなら良いのだが、エルメス側がアクマを完全にシャットアウトしているのだ。


 アクマが激おこぷんぷんしたのでエルメスに問い合わせたら……。


「知らんです」


 と、だけ言われただけだった。


 とりあえず俺の気苦労が、増える事が確定した出来事だった。


「到着しました。こちらの部屋に軽傷者の方が集められていますが、どの様な流れにしましょうか?」


 若干現実逃避をしている内に次の目的地に着いたようだ。


「軽傷者の中で一番大きい怪我は?」

「指の欠損になり、次点で骨折や骨の罅になります。それと、病気の方は別の部屋に集めてあります」

「そうか……リリー?」


 ふむ。おそらく前回のボランティアと同じようにやろうってことだろう。

 今は病気やウイルスと言ったものも治せるが、俺の専売は怪我と精神系だ。

 

「私が怪我人。ジャンヌさんが病人で大丈夫ですか?」

「ああ。部屋はあちらで良いのかな?」

「そうです。案内は……」

「大丈夫だ。リリーの事を頼んだよ」


 ジャンヌさんはそのまま歩いていき、そのまま病人が収容されている部屋に入って行った。


 飯田さんと2人きりなのは少々気まずいが、社会人をしてた頃はこんな事もあったので、問題ない。

 

「それではお願いします」

「分かりました。念のためですが、心無い言葉を投げ掛けられるかもしれませんが、その事については私が謝罪します」

「大丈夫です」


 大怪我をしていないなら、サクッと治す事が出来る。

 何か話しかけられる前に終わらせてしまえば良いのだ。


 飯田さんが部屋に入ると一斉に視線が集中する。


 飯田さんが何か言う前に杖を出して、先端を床に着ける。


 数名の人が身構えたり、俺の状態に困惑している様な態度をするが、構わない。


 杖に魔力を込めて魔法陣を描く。


安らぎの風ヒールサークル


 魔法陣が輝き、怪我人たちを治していく。


 魔法陣が消える頃には、怪我人は誰も居なくなっていた。


 さて、呆けているうちに逃げてしまおう。


「終わりましたので、ジャンヌさんの所に行きましょう」

「えっ? 今ので終わったのですか?」

「はい。皆さんが現実に戻る前に外へお願いします」


 半信半疑の飯田さんだったが、俺の言う通りに扉の外に出てくれた。


 その直後、扉の内側から歓声が聞こえてきた。


「……本当に全員治せたのですか?」

「仕事ですから。それよりも、騒がれるのも嫌なので、ジャンヌさんの所に行きましょう」


 おそらく飯田さんは普通の回復魔法が使える魔法少女というものを知っているのだろう。


 それに比べれば俺やジャンヌさんは規格外だ。


「お聞きするのは失礼かと思いますが、それだけ強力な回復魔法が使えるという事は……」

「誰だって闇を抱えているものですよ。年齢なんて些細なものです」


 飯田さんの身体が震え、冷や汗を流す。

 はて? 何か不味い事を言っただろうか?


「私の事など気にしないで、国の事を考えましょう。皆が治れば、また忙しくなるでしょう?」

「……そうですね。分かりました」


 飯田さんは歩き出し、先程ジャンヌさんが入っていた部屋に入る。


「予想通りだね。こっちも今しがた終わったよ」

 

 ジャンヌさんも治療を終えたのか。お互い様だが、早いものだな。


「次はどうするんですか?」

「他の魔法局に行って同じ事の繰り返しだが、次をやったらお昼ごはんにしようか。それじゃあ頼んだよ」


 飯田さんは頷き、来た道を戻り始めた。


 勿論だが、俺は最初から最後まで肩車されたままである。

 もしかして、忘れているなんてことはないよな?

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