エルメスVSアクマVS魔法少女
やっと帰って来られたが、まだ休むことは出来ない。
若干という徐々にイライラが増していっているアクマを宥めながら珈琲を淹れる。
部屋に戻ると同化を解除したアクマがベットに座り、此方を見る。
「それで、結局あの時の戦いの後に何があったの?」
「そうですね。正直かなり複雑な話なんですが、始まりは私の姉である魔法少女でした」
俺が封印していた記憶。
今思えばエルメスが、俺の意を汲み取ってくれていたのだろう。
魔法少女アヤメ。それが俺の姉だ。
別に何か特別なものがある訳でもない、普通の魔法少女だった。
いや、強いて言えば正義感だけは人一倍強かった。
それが周りから煙たがられたのだろう。B級の魔物との戦いで味方の魔法少女の誤射という形で殺された。
なんて事はない。学校で言えばちょっとした虐めの延長だったのだろう。
身内からしたら許されざる行為だが、世間的な批判はそこまで大きなものではなかった。
当時はただ慟哭することしかできなかったが、今思えばあの魔法少女たちが魔法局の汚職に関係していたのだろう。
裏取引か或いは隠蔽か。
なんにせよ俺が魔法少女を呪うようになった事件だったが、ある時を境にそんな感情が徐々に薄れていった。
個人的に忘れようと思っていたのもあるが、エルメスが俺に同化して働きかけていたのだろう。
結果として胸の奥底に封印されていたが、ここで問題が起こる。
俺が魔法少女の喧嘩に巻き込まれて、実質的に殺されたのだ。
これだけならまだエルメスがどうにかできたが、ここでアクマが登場し、俺の魂を他の身体に移動。
その時にエルメスも一緒に移動したのだが、ここでソラと鉢合わせして封印されてしまう。
契約していないアルカナは無力であり、そもそもアルカナに戦闘能力はない。
俺の抑止力的存在となっていたエルメスはそのままソラに抑えられ、その間に魂と身体が一体化したり俺の身体がさよならばいばいしたり、挙句にマスティデザイアのせいで封印していた記憶が完全に戻ったりと色々とあった。
ここで話を戻して、何故エルメスが居るのか説明しよう。
幸か不幸か、エルメスは俺の姉と共に居たのだ。
関係としてアクマと契約する前の俺と同じような感じだったのだろう。
何故契約していなかったのかは、今の世界を知っていれば分かることだ。
アルカナの能力を使えば、魔女に存在がバレてしまう。
そうすれば魔女は動き出してしまうだろう。
ちょいちょい悪さはしていたと思うが、ここまで大々的に動くようになったのは邂逅したあの日からだ。
もし姉が恋人の能力を使っていたら既に世界は滅んでいた可能性もある。
姉1人で破滅主義派の奴らや、魔女に勝てるとは思えない。
……これ以上はブーメランになるので割合しよう。
恥ずかしい話だが俺は姉と仲が良く、親との仲も悪くなかった。
そんな大好きな姉が死んだ俺は、それはそれは魔法少女や世界を憎んだ。
将来的には復讐してやると覚悟を決めていたのだが、それを見越していたのか、姉が手を打っていた。
そう、エルメスに俺の事を頼んでいたのだ。
どうやったのかは知らないが、俺の憎しみや悲しみといった想いを、どうにかして取り除いていたのだ。
その想いが今になって悪さをしているのだが、これも割愛しておこう。
そしてこの前の戦いで実質死んだ俺はソラ……アクマの元契約者でありこの身体の元の持ち主と出会った。
アクマも言いたいことがあるだろうが、まだ聞いていてくれ。
個人的にもファンタジー過ぎて、まだ理解出来ていないのだ。
そしてエルメスはソラによって封印されていたが、封印を解いた結果先ほど話したような事が判明していった。
そして、生きる為にはエルメスと契約しなければならなかった。
フールの時とは違い今回は多重契約となる。
そんな事をした前例は、当たり前だが無く、何が起こるか分からない。
だが俺がこれからも戦い続けるためには恋人の能力が必要だった。
一応契約しなくても生きるだけなら出来たが、代償が少々重いので実質一択だ。
結果としてアルカナの同時解放をするだけの余力を手に入れたが、これにも訳がある。
ここで出てくるのがソラだ。
名前については適当に俺が付けただけだ。
何故か俺の中? で生き返ったソラは俺の栄養を吸収して生きていた。
ただ必要以上に吸収していたため俺の成長は止まっていたが、これについては別に構わない。
逆にそのおかげで代償は実質無しで完全回復することが出来た。
ちょっと張り切りすぎたせいで幼児化しているが、副作用と考えれば軽いものだ。
長々と話してしまったが、纏めると俺の運悪すぎませんかね?
「……私の事憎んだりしないの?」
俺の話を聞いたアクマの第一声がそれだった。
おそらくだが、アクマが現れなければ俺が寿命で死ぬまで、世界が滅びる事はなかったかもしれない。
普通に仕事をして、普通に生活して、場合によっては結婚していた可能性もある。
魔法少女とアルカナ。
運悪くセットで出会ってしまったのが運の尽きだ。
まあ、今となってはどうでも良いがな。
所詮俺は壊れているのだ。
一度知った快楽を手放すなんてことは出来ない。
好きなように生きて、好きなように死ぬ。
もう、戻る事など出来ない。
「感謝こそすれ、憎むことなんてないですよ。それに、アクマが存在しなかったとしても、遅いか早いかの差しかないのでしょう?」
「それはそうだけど、今の話通りなら……」
「前にも言いましたが、選んだのは私です。多少巡り合わせがおかしいですが、昔のことなど気にしても仕方ないでしょう?」
何はともあれ、生きていれば良いのだ。
死んだら死んだだが、生きているなら大体のことは許そうじゃあないか。
一応大人だし、誰かのミスに一々怒るほど狭量でもない。
……いや、俺の人生が滅茶苦茶だが、どうせ独り身なのだから、誰にも迷惑を掛けないだろう。
「ハルナはそう言うけど、私たちアルカナはなるべく人類に迷惑を掛けないように言われてるんだ。その為に情報規制や戦う力がほとんど無かったりするんだけど、人の人生を壊しておいて、はいそうですかじゃあ済まないよ」
自分の身だから許せるが、今回の事を客観的に見れば中々に酷い出来事だ。
前提として、アクマは俺を助けるために魔法少女にしたのだが、実際は止めを刺しただけだ。
まあ、エルメスの事なんて知りようもないし、俺も普通に死ぬと思っていたからアクマの手を取った。
(エルメス?)
強く念じる。
そうすれば届くと言っていた。
『面倒ですが、一応とは言え私にも非はあるので今出てやるです。ちょっと待つです』
「呼んだの?」
「はい。一度は話し合っといた方が良いでしょう? 流石にフールみたいに犬猿の仲……」
あっ、そう言えばエルメスはアクマとソラを泥棒猫って言って怒っていたが、まあ大丈夫だろう。
「どうしたの?」
「いえ……」
俺が何かを言うよりも早く、俺の中から光の粒子が噴き出し、エルメスが姿を現す。
大きさはアクマ同様妖精サイズに変えているのは当てつけか?
天使の様な羽が生えたままなので擬態している訳でもないのだろう。
「久々ですね。泥棒猫」
「……ごめん」
おお、あのアクマが素直に謝った。
「話は聞いていたですが、大筋はあっているので大丈夫です。追加情報としてですが、私は史郎を愛しているです。よって、所有権は私にあると宣言しておくです」
「む。それは聞き捨てならないね。確かにハルナの件は悪かったと思うけど、ハルナは私のだ! これまで一緒に頑張ってきのは私だし!」
「でも史郎と一緒に居た年月は私の方が長いですよ!?」
「でもエルメスはハルナと一緒に寝たことなんてないでしょう!?」
「それを言うなら……」
「でも……」
なんか始まってしまったな……。
珈琲も飲み終わったし、新しく淹れてリビングに逃げるか。
そう言えば腹も空いて来たし、何か作るか。
2人に気付かれないように部屋を後にする。
少々服が邪魔だが、仕方ないか。
しかし、事実は小説より奇なりとはよく言ったのものだな。
魔物や魔法も無かった昔に比べると、今はファンタジー溢れる世界だが、ここまでくるともう別世界での出来事の様だな。
妖精が存在しているので別世界があることは元々知られていたが、平行世界の存在やアルカナ。
そして魔女まで現れて世界の危機となっている。
世界の危機自体は何度もあったが、それにしても今回は質が悪い。
魔女が何を目的にこんな事をしているなのかは分かっている。
魔女はただ遊んでいるだけだ。
俺という玩具を前にして、笑いながら弄っているのだ。
そして壊れたら世界という玩具と一緒に、ゴミ箱に捨てるのだろう。
3体分のアルカナと胸の奥底に眠っている憎悪。
これだけの力があれば、魔女に勝てるだろうか?
魔女単身ならもしかしたら倒せるかもしれないが、破滅主義派や魔物等も居る事を考えると絶対に勝てるとは言い難い。
それに戦う前にはしっかりと飯を食べてソラを育てておく必要もある。
恋人の能力はまだ未知数なので結論は出せないが、流石に3つ同時に解放は無理だろうな。
それにアクマは何も言ってこないが俺の細胞の件もある。
今回また使ったせいで病状は進行しているはずだ。
今の所身体に違和感らしい違和感はないが、進行して行ったらどうなることやら……。
まあ今年とは言わず半年耐えてくれればそれで良い。
魔女の後の事はその時考えよう。
さて、何を作るかな。
幸い食材や調味料の類は沢山ある。
問題は背が低くなったせいで、何をするにも踏み台が必要になる事だろう。
オムライスの気分だったが、鍋にするかな。
フライパンを振るのは少々無理そうだ。
鍋に野菜や肉を放り込み、煮込んでいると喧嘩しながら2人がキッチンに来た。
「まだやってたんですか。2人とも食べますか?」
「食べるよ」
「頂くです」
本来ならこのまま鍋をリビングに持っていくのだが……持てないのでお椀に掬って分ける。
我ながらちゃんと作れているな。
「喧嘩はいいですが、エルメスは言ってた通りですか?」
「そうです。私が居た所でこうなるだけですし、私は史郎と共に居られればそれだけで良いです。それに見張っとく必要もありそうですからね」
そう言えばソラって少し特殊な魔法少女だとか昔アクマが言っていた気がするが、気にする事もないだろう。
ソラには俺のサブタンクとしてこれから頑張ってもらおう。
その為に沢山ご飯を食べなければ。
「そう言えばずっとハルナと一緒に居たって事は、他のアルカナの事は知らないよね?」
「何も知らないですね。フールは死んだって事は私達を入れて残り4人ですか。少なくなったものですね」
エルメスは食べながら少しため息を吐いた。
残り4人の内ここに半分居るのも驚きだが、契約者は俺1人なんだよな。
他の2人が新たな契約者を見付けているとは考え難いし、どこかに潜伏しているのだろう。
「いっそのこと残りの2人も私と契約してくれれば良いのですが」
「運良くエルメスと契約は出来たけど、これ以上の重複契約は絶対駄目だよ。どうせすんなり契約できたわけじゃないでしょ?」
確かにシャレにならない痛みがあったが、耐えられない程でもなかった。
アクマの時は何ともなかったが、エルメスの時はどうしてあんな事になったのだろうか?
そもそも契約とは何なのかを知らない。
原理を知れば原因も分かるだろうか?
「そもそもですが、契約とは何なのですか? アルカナの能力を使えるようになるのは分かりますが、どの様な原理なんですか?」
「それは私から説明するです」
エルメスか。
知れるならどちらでも構わないな。
「前にアクマが説明していた事と重複していると思うですが、最初から話すです。先ずですが、我々アルカナは世界の意思の集合体によって作られた存在です」
魔女によって滅びるのを回避する為に作られた存在。
魔女の面倒な所は、人の域を出ていない所だろう。
やっているのはあまりにも人とは思えないが、神の域に踏み込んではいない。
個人的にも人とは思えない事をしていると思うが、神や世界の意思からみれば違っているのだろう。
人と人との戦いに直接手を下すことは出来ない。
その為に使わされたのがアルカナたちだ。
直接手を出す事は出来ないが手助けは出来る。
人は人によって倒されなければならない。
その結果が今に繋がっているのだが、まさかの全戦全敗だ。
「我々には個別に能力があるですが、その能力を使う為のキーを渡すのが契約です。ただしキーを使う為には認証が必要です。そして認証しているのが世界の意思です。認証した時の繋がりを使って魔力が供給されてるって訳ですね。ですがその魔力はそのまま使えないので、アルカナというフィルターを通す事によって使えるようにしている訳です」
魔力の供給が2本あったのはその為か。
アクマを通しての供給とエルメスを通しての供給。
痛みの原因はこの魔力のせいか?
「もう少し突っ込んだ話をするとですが、我々は能力というソフトであり、契約者はハードです。そして世界の意思がソフトの販売元ですね。複数のソフトを一緒に使えばハードには負荷が掛かるです。負荷が増えればハードは熱を持ちいつかは壊れてしまうです。仕方ないとはいえ、アルカナの能力は諸刃の剣なのです」
エルメスの言ってる事は理解できる。
俺という容量は決まっている為、それを越えるなにかをすることは出来ない。
アルカナ1体の能力でも容量はギリギリだが2体となれば完全にオーバーだ。
今回は特殊な事情により2体同時解放できたが、通常時にならやった瞬間死んでしまうだろう。
フールは能力の譲渡なので別件だが、契約するだけでも俺に負荷が掛かる。
アルカナとは人には過ぎた代物なのだろうな。
それらを相手に余裕で戦えている魔女がおかしいのだ。
「契約についてはこんな所ですね。因みに魔力の供給の速度には上限があるです。上限を超える行為はアルカナにもダメージが入るので注意しておく事ですね」
チラリとアクマを見ると目を逸らされた。
これは無理を何度かさせてしまっているな。
今エルメスが言った通り、魔力はアルカナを通して俺に供給される。
フィルターがある以上、速度の上限は決まっていて当然だろう。
「さて、続いてはアクマも気になっているであろう史郎の2つ目の姿についてですね。これについては私が関わっているのですが、当たり前ですが、魔法少女が2つの姿を持つなんて事はあり得ないです」
魔法少女の事自体が摩訶不思議だが、これまで2つの姿を持つ魔法少女は聞いた事がない。
どうして俺だけなのかは不思議であった。
まあ、俺という存在が不思議みたいなもんだから今更かも知れないな。
「では何で史郎だけ2つの姿があるかと言うとですね。史郎の溜め込んでいた想いのせいです。史郎が魔法少女になる時、史郎に溜まっていた想いは純粋な憎悪と魔法少女の能力に分かれたです。能力の方は身体と結合し、本来の魔法少女に追加で能力を付属したです。だから史郎は普通の攻撃魔法と同等レベルの回復魔法が使えるです」
回復魔法の素養は世界に対する負の感情に比例する。
ジャンヌさんやタラゴンさんが俺を見放さないのはこの回復魔法のせいだろう。
幾ら口で言ったとしても、結果として俺の回復魔法は破格の効果だ。
憎悪で塗り固められた魔法少女を、放っておく事も出来ない。
しかし、能力と憎悪に分かれたとはまた面白い話だな。
身体と魂を別けられたのだから、そういう事もあるのだろう。
「本来なら感情なんてものはそのまま時間と共に四散するはずでしたが、長年溜め込まれていた感情はアルカナの力によって変異してしまったのです。別たれた憎悪は自我を持ってしまったのです。そして史郎が女性になったせいで自我も女性となり、もう1つの姿となったのです。通常ならそこまで影響ないですが、魔法少女は想いが力になる手前、想いそのものである憎悪とは相性が良く、その行動原理を忠実に行おうとするです」
憎悪ねー。
確かに俺の感情が高まると表に出ようと蠢きだす。
しかも魔法少女に対する感情が大半を占めているのもあり、変身する度に荒れ狂いそうな殺意が湧いて来ていた。
俺を乗っ取ろうとする感じもしていたし、自我と言うのも嘘じゃないだろう。
「史郎も自覚していると思うですが、憎悪は史郎が戦えば戦うほど増していくです。史郎の心が弱れば憎悪に吞み込まれ、破壊の限りを尽くす化け物になる可能性もあるです。ついでにアルカナの能力を解放して第二形態になるのは本当に止めた方がいいです」
「それは何でですか?」
「第二形態自体が、アルカナの能力を武器に転化する事によって戦っているのですが、解放する場合は憎悪がアルカナの能力と魔力供給によって過剰に増幅され、身体の耐久力を無視して力を発揮させるです。マグマの中に入ってマグマを手で掬って投げている様なものですね」
それはとても熱そうだが、勝つ為には無理をしなけれならない。
通常状態で勝てるなら俺だって無茶をする気はないのだが、勝てないなら勝てるだけの力を引き出すしかない。
「纏めると解放は計画的にです。第二形態での解放は厳禁です。まあ、第二形態自体が過ぎた力なのですが、史郎が高ぶらなければ制御出来るとは思うので、あまり煩くは言わないです」
自我があるのなら御せる可能性もありそうだが、今のままでは無理だろう。
これまで俺が感じたのはただの破壊衝動だけだ。
元々姿を隠す為と、魔法少女との戦い専用であるが、味方が居る所では使わない方が良いな。
「契約と史郎の現状についてはこんな所ですね。他にも情報はあるですが、史郎にとっては関係ないですね。一応私の事についてですが、私の能力は形です。後で纏めて情報を送っておくので確認してです。それでは失礼するです」
エルメスはご飯を食べ終え、話し終えると俺と同化した。
エルメスのおかげで大体分かったが、何とも面白い話だ。
純粋な憎悪だけが残り、それがアルカナによって戦う力を手に入れた。
本来あった回復魔法を捨て去るとは、業が深い。
しかも捨て去った癖に、アルカナのせいで再生程度なら行えるようになっている。
仮にアルカナの能力がなくなった場合、第二形態に残されるのは障壁の魔法だけだ。
これだけで戦う事など出来ない。
憎悪が自ら捨てたのか、それとも偶然なのか分からないが、我ながら強い意志を感じる。
憎悪の思惑は俺自身の事だからよく分かっている。
魔法少女への復讐と、戦う事。
主にこの2つだろう。
まあ俺が願っていたことだから当たり前と言えば当たり前だ。
俺の気の持ちよう次第だし、一先ず放置で大丈夫だろう。
それにしても、まさか俺の身体に3人も同居人が居る事になるのか……。
アクマも入れれば更に増えるが、どんだけ居るんだよ……。
こればっかりは割り切るしかないか。
「とりあえず、お風呂入りますか」
「何でそうなるのさ?」
おっと、自己完結したせいでアクマにツッコミを入れられてしまった。
「色々と知ることは出来ましたが、やる事は変わらないですからね」
「それはそうだけど、せめてハルナの憎悪はどうにかした方が良くないかな?」
アクマの言い分は分かるが、これは切り札になり得る代物だ。
少々大きな爆弾だが元は俺自身だし、無理やり言うことを聞かせればいい。
「魔女と戦うなら、これは必要になるはずですよ。効果の程はアクマも分かっているでしょう?」
「それは分かってるけど、使う度にハルナは傷ついて、エルメスが居なかったら死んでたんだよ?」
それはそうなのだが、全力を出した結果なので、それで死ぬのなら仕方のないことなのだろう。
俺の精神構造は破綻しているといってもいい状態だ。
別にエルメスが悪いわけではないが、俺から取り除かれていた憎悪が関係しているのだろう。
もしもエルメスが手を打っていなかったら、俺は魔法局に自爆特攻をして死んでいただろう。
あるいは俺が元々持ち合わせていた狂気のせいか。
既に元の平和な暮らしには戻れないのだし、折角なら楽しみながら死にたい。
その為に必要なのが戦いなのだ。
……なんかエルメスとソラに叩かれた様な気がするが、無視しておこう。
「その時はその時です。それに、魔女に勝つためには無茶してなんぼでしょう? 今の状態で魔女に勝てると断言できますか?」
「……」
無言は肯定。そう言う事だ。
「私だって別に死にたい訳じゃありません。それはアクマがよく分かっているでしょう?」
元々死にたくないから魔法少女になったのだ。
好き好んで死線に飛び込んでいるが、死ぬ気はない。
「それに、駄目だ無理だと考えるより、やるだけやった方が踏ん切りもつくじゃないですか。別にアクマが嫌だというなら、私を見捨てても構いませんよ?」
まあ、アクマが見捨てられないのは知ってるし、悪魔の能力は必要だ。
可能性と形と魂。
使いようによっては幾らでも化けるだろう。
「もう! 分かった! 分かったよ! 確かに頼んだのはこっちだもんね。さっさと食器を片付けてお風呂に行こう!」
前回と同じくアクマが折れてくれたな。
口論で俺に勝とうなど100年……以上は生きてるし生きるだろうから迂闊なことは言えないな。
まあ、アクマも俺をよく弄ってるし、お互い様だろう。
ついでに風呂場では、いつもより念入りにアクマに洗われる羽目になった。
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